#334(7週目土曜日・午後・Hi)
「別に、アイツラなら私が戦ったのに…」
「まぁまぁヒィちゃん。これもお仕事。多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ。いただいた料金にそった人員しか、割けないのよ~」
「ヒィちゃんゆうなし。まぁ、わかってるけどさ…」
その日、我らが鬼畜道化師商会に1つの依頼が舞い込んだ。内容は『例の妹グループをキルする』と言うもの。ここだけ聞くとシンプルだけど、実際には面倒事が多い…、正直に言って受けたくない部類の仕事だったりする。
「おまえら、まだ居たのか? 手出しは無用だって、わかってるよな?」
「いいじゃない別に。見てるだけなんだから」
「まぁ、俺も見学する気だったけどな」
「Si」
「ん?」
「ハゲろ」
「はぁ!? ハゲてねぇし! 意味わかんないんですけど!? はぁ~、つか、なんで髪の話がでて…! …!?」
ハゲ散らかす…、じゃなかったキレ散らかすSiを無視して、遠巻きから『新入りグループと
「しかし、お客さんも面倒な依頼を持ち込んでくれたものよね~」
「捜索料金、上乗せできないの?」
「ん~、相手のランクによっては追加料金もあるけど、探索は想定していなかったから料金プランには入ってないわね~。でも、今後も続くようなら、考えなくちゃね~」
鬼畜道化師商会の業務の1つであるWSだが、依頼に応じて細かく料金が変化する。今回は、ターゲットの詳細不明(知っていたけど)で、所在不明(だいたい目星はつくけど)で、さらにドロップの強奪不可と、面倒ばかりで旨味の少ない依頼だった。
しかも、本来なら(勝手知ったる相手なので)手早く終わる内容だったのが、依頼者が妙に料金をケチるので、新入りしか派遣できなくなり無駄に遠回りをする形になってしまった。
「あの商人って強いのかな? 正直、新入りだけじゃ厳しいと思うけど…」
結局、派遣することになったのは新入りが10人。一応、同じ値段で幹部1人を派遣できるのだが…、依頼人は質よりも量を選んだ。まぁ、人探しなら人数は必要なので間違った判断とも言い切れないのだが…、それで肝心のターゲットを倒せないでは意味が無い。
「ん~、一応、そこそこ戦えるみたいな口ぶりだったけど…、どうなんでしょうね?」
「Itたちは、負けたら負けたで構わないって感じだったぞ?」
「「(あ、復活した)」」
「まぁ下手に気に入られてリピーターになられても面倒だしな…」
直接会っていないのでハッキリとは言えないが、私も出来れば関わりたくないと思う感じの性格っぽかった。まぁ、WSを利用する時点で気のいいヤツが依頼してくることは、まず無いのだが…。
「EDの連中は? 一応、セインの関係者なわけだけど」
「言ってない」
「え?」
「話を通しても面倒になるだけだ。ItやJkとも話したが、今回は気づかなかったことにした」
「あぁ、まぁ、いいけど…」
相変わらず、そういう所は器用に立ち回っているようで安心した。
「新入りには悪いが、負けそうならそのまま負けてもらう予定だ。Hiも悪いな、ターゲットにペナルティーをつけるチャンスだったのに」
「いや、別に…」
「ふふふっ。ヒィちゃんは、むしろそっちの方がいいのよね~」
「ヒィちゃんゆうなし!」
最近、なんか無性にイライラする事が増えた。そんなに悪い感じはしないけど…、やっぱりちょっとムカつく。
「ん? ちょっとメッセージが入った」
「しかし、ここからじゃ何を話しているかわからないわね~。ぜんぜん仕掛けないみたいだけど…」
「よくある話よ。アイツラに、何か重要なアイテムをとられたんでしょ?」
「まぁ、そんなところよね~」
『ドロップ回収不可』の客は、本当にこのパターンが多い。ターゲットに何か重要なアイテムを奪われ、それを取り返すためにWSを頼る。人を雇うのもそれなりに金のかかる話だが、それでも雇った方が安くすむなら雇うまでの話。
ここで重要になるのが"手打ち"にする交渉だ。基本的には『ブツを返すまで雇った連中にPKさせ続けるぞ』と脅す形になる。実際には(金銭的な問題で)実行に移すことは無いのだが…。
「ねぇ、なんだか雰囲気が変ね~」
「ん? そうかなぁ…」
「なんだか、不意打ちでも狙ってる感じっていうか…」
「あぁ~、言われてみれば確かに。アレじゃない?」
「??」
「こういうのに慣れて無くて、セオリーとか分かってない感じ」
「あぁ~、多分そうね。キルした後で、お目当てのブツが手に入らないって、私たちに八つ当たりするパターン」
「それそれ」
ターゲットから見えないところで、新入りたちが臨戦態勢に入る。一触即発と言うやつだろうか? そんな雰囲気の中、Siが思いがけない事を言い出した。
「緊急注文が入った」
「「??」」
「妹グループを勝たせるぞ!!」
「「はいぃぃ!?」」
「説明している暇はない。出来るだけ自然な形がいいが…、最悪、新入りたちに指示を入れて、わざと負けてもらう」
まったく状況が理解できない。なにより(相手が嫌な客であれ)依頼者を裏切ればウチの信用問題になる。もちろん、最悪の場合はって話だが…、この切迫した状況で、自然に負けるよう仕向ける方法は…、あ、あるかも。
「えっと…、それなら何とかなるかも」
「お! いけそうか!?」
「いや、まぁ、やるだけはやるから…、最悪の場合は…」
「わかってる。お前たちも(緊急時なので)メッセージをスルーされた時は、わかっているな?」
「いや、私たち、顔、われてるんですけど…」
「お客さんの腕が、大したこと無いのを祈るばかりね~」
別に、難しい話じゃない。よく知らないが今日はメイド服の女性PC?もいるので、女商人の戦力を加味しても、勝算は五分。それなら、新入りたちが素人だとアイツラに伝えれば、警戒すべきは女商人だけとなる。
とりあえず、再戦用に登録しておいたフレンドリストから"ナツキ"を選び…、(シャクなので)ふんわりとした内容のメッセージを送る。
「よし、あとはまぁ…、状況見ながらフォローすればいいんじゃない?」
「そうだな。とりあえず、念のために近くまで移動しておくぞ!」
「「は~ぃ」」
必要ないと思うが…、今回は大人しく指示に従う。
まぁ、なんだ? アイツラに味方するのは、不思議とイヤな感じはしなかった。
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