#329(7週目金曜日・夜・ナツキ)
「えっと、それで勝負はいいとして…、その、見たところ1人のようですけど」
「フフフ、これだから素人は…。アナタたちが相手なら私1人で充分なのよ」
勝ち誇った笑みを浮かべるユラン。確かに商人は戦闘専門職では無いが、接近戦でもできる分、下手な後衛職よりも遥かに戦える。ポジションとしてはスカウト系と同じ、物理系の中衛となる。
「自信満々なとこ悪いけど、流石に3対1じゃ勝負にならないと思うぜ?」
さっそくピリピリした空気を放つSK。私も少しカチンときたが、先にSKが噛み付いてくれたので、少し冷静になれた。
「フッ、L&Cのジャンルは確かにRPGだけど、他に比べて遥かにレベルや装備の依存度が低いわ。代わりに重要になるのがプレイヤースキル。つまり、経験や勘ってことね。だから、素人がいくらレベルや装備を揃えたところで、ベテランの私には敵わないの。今から、それを教えてあげるわ!」
「えっと…、すいません」
「はい? なにかしら??」
「私たち初心者なので失礼は承知で伺いますけど…、ユランさんは、6時代のランカー経験者なのでしょうか?」
「え? いや、それはその…、どうだったかしらね~。ランキングはあまり気にしてなかったから…」
「「 ………。」」
あ、これ、ランカーじゃないヤツだ。しかし、おかげで何となく事情がつかめてきた。
『おい、どうする?
『どうするって、それは…』
『いいんじゃないかな? お言葉に甘えて、3人で戦えば』
『いや、流石にそれは…』
私たちは確かに6時代未経験の初心者だ。しかし、リセットによりスタートラインは経験者とほぼ同じところからスタートしており、何よりセインさんのもとで鍛えられている。
私たちの実力を(ランカーを除外して)上中下で表すなら…、上の下から中の上くらい。ユランさんは口ぶりからして実力は"上"止まりと言ったところか? たしかに上の下でも、下が相手なら1対3でも充分勝てる。しかし、ギリギリ同格の私たちなら3人と言わず、2人でも充分勝てる相手だ。
いくら私でも、流石にそれは良心が痛む。なにより、このパターンは気分屋のSKのテンションを著しく下げる。
「フフフ、私はそこまで急いでいないから、じっくり作戦を考える事ね」
「えっと…、そのユランさんは、私たちのこと、どれくらい知っているんですか?」
「ん? まぁ詳細は言えないけど、セインさんだけでなくアナタたちのこともある程度把握している、とだけ言っておきましょうかしらね」
相変わらず勝ち誇った態度のユラン。どうでもいいけど、カモを前にして、妹の目が輝いているのは、姉として非常に複雑な心境だ。
『決まりましたね。あの人、あくまでデータで私たちを知っているだけです』
『みたいだな。ぶっちゃけアタシ、結構頻繁に負けてるし…』
そう、私たちは人目につくところでは殆ど負け越している。多分だが、セインさんと別行動なのも実力の問題だと思っているのだろう。
まぁ、実力に差があるのは事実なのだが…、セインさんの強さは本当に異次元であり、流石にアレは比較対象にしてはいけないヤツなのだ。
『どうするのSK。なんなら下りてもいいわよ?』
『ん~、わるいけど、そうするわ』
『OK。気にしないで。むしろ私も似たようなもんだし。コノハもそれでいい?』
『ん~、たぶん大丈夫かな?』
やはりSKは下りた。そっちはまぁ、いいんだけど…、なんか最近、SKの気分屋が私にも伝染しているようで、すこし複雑な心境だったりする。
それはさて置き、一応昨日はHiに勝っているのだが…、その情報は伝わっていないのか、それとも鬼畜道化師の評価が予想以上に低いのか…。強いか弱いかはあくまで主観にすぎないのだが、それでも上の上である県太郎さんたちを基準に考えれば、2人でもまず間違いなく勝てるだろう。
「おまたせしました。失礼ですけど、ここは2人でお相手します」
「そう。まぁコチラとしてはラクできるから良いけど。 …それじゃあ、始めましょうか!」
「「お願いします!」」
お互いが犯罪にならないように決闘の処理をして、睨み合う。
「「 ………。」」
しかし、動きは無し。
一応、試合は始まっているはずなのだが…、審判が合図をしたわけでも無く、余裕を見せるユランと、相変わらず後手専門のコノハ、そして私は申し訳ない気持ち半分、なにか秘策を隠し持っているのでは?と警戒する気持ち半分で、なかなか前に踏み出せない。
こうして、締まらない雰囲気の中、ユランとの決闘が始まった。
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