#330(7週目金曜日・夜・ユラン)
フフフ、ベテランの私に委縮して、攻めるに責められないようね!?
相手のガン無視に最初こそ手を焼かされたが…、ようやく決闘が始まった。この手の戦闘バカは、口約束でも結構守る。これで、セインとの接点は確約されたも同然だ。
「さぁ、攻めてこないならコッチから行くわよ!!」
「「!!?」」
初手、料理によるアイテムバフ!!
用意しておいた料理で自動回復を付与する。初心者相手で注意すべきはラッキーヒットや周囲攻撃の削りダメージの蓄積だ。なにせ相手の総体力は(単純計算で)私の2倍。よって、最初から体力交換に専念されるのが1番嫌なパターンと言えるだろう。
「さぁ、これで猶予は無くなったわよ? アタッカーを廃した状態で、私の体力を削りきれるかしら??」
「えっと…、じゃあコノハ、作戦通りにいくわよ」
「うん、頑張ってね、お姉ちゃん」
「?」
レイピア使いの発言に少し違和感を覚えたが、その理由は直ぐに判明する事となった。
このPT、基本的にレイピア使いは戦闘に参加しない。情報にあった通り、あのレイピア使いは不測の事態に備えて待機するスタイルのようだ。効率だけ見れば、間違いなく非効率なのだが…、対人戦では『隙の少なさ』は確かに大きな武器となる。
なるほど。初心者といってもランカーの指導もあって、着実に勝利を狙うスタイルと言う訳か…。
「ふっ! はっ!! なるほど、やはり、言動の割にはセンスがあるようですね」
「アナタも、少しはやるようだけど…。上から目線な言葉遣いは、いただけないわ…、ネッ!!」
「グッ!!」
隙を見て盾持ちを大きく吹き飛ばす。残念ながら盾で防がれたが、それでも少なくない貫通ダメージが発生したはずだ。
なにを隠そう、私の装備は、先日コネをフル活用して買った"グリードセット"だ。見た目こそ何処にでもありそうな革装備と両手斧にしているが…、セット効果で『商人系ジョブを選択していた場合、各種ステータスを大幅に強化』してくれる。
盾使いも、初心者とは思えないほど立ち回りが上手いが…、単発ダメージが高い斧なら貫通ダメージがある分、相性は私が有利。問題は、冷静に状況を分析しているレイピア使いの方だろう。
「コノハ、そろそろいくわよ」
「はぁ~ぃ」
オープン会話で堂々とレイピア使いを私の背後にまわらせる。
「それじゃあ第二ラウンド、いきますよ!」
「どうぞ、おかまいなく」
舐めていると思わなくもないが、そういえばセインはアレでフェアプレイヤーらしい。つまりは、コイツラもその影響を受けているのだろう。C√PCにしては甘い考えだが…、私としてはラクできるので問題ない。
それに、レイピア使いが加わったところで、まだまだ私には余裕がある。むしろ、レイピア使いが(背後だけど)前にでてきてくれたのはプラスだ。マトモな遠距離攻撃を持たない私にとって、嫌だったのはレイピア使いが離れた場所からネチネチと攻撃魔法や回復で援護してくるパターン。
対して挟み撃ちなら、それは物理攻撃を狙っているということ。何を隠そう、グリードセットは見た目こそ革装備だが、それはあくまでペイントしているだけ。実際には物理防御に特化した金属防具であり、軽い攻撃なら自動回復も合わせて無視できるレベルまでダメージを軽減してくれる。
「2人とも、がんばれ~」
「なにを他人事みたいに…。まぁ、全然OKだけどね」
時おり無駄口をこぼす3人。初心者の癖に、格上相手にこの余裕は、ふざけていると言うか、太々しいと言うか…。
ともあれ、相手は対人最強と噂されるセインのプレイングを見て育った連中。場慣れしているのは当然といえるだろう。草餅の情報では『セインは放任主義で、ほとんど指導はしていない』という話だったが…、流石にちょっとは指導を受けているのだろう。そうでなければ、私相手にここまで善戦している説明がつかない。まぁ、それでも時間の問題だけどね…。
そう、私がコイツラに声をかけた理由は『セインの性格的に外堀から切り崩す方が良い』と言うのもあるが、1番の問題は『セインに直接交渉することを禁じられている』からだ。当たり前だが、セインはお金に困っていない。おまけに既に√落ちしているので地位や名声も欲していない。むしろこのまま落ちてほしいくらいなのだが…、そちらの話も関心が無いときている。おかげで何人か踏み込んだ交渉をした商人が取引停止となり、今では草餅が専属になって、金ヅルをアイツに持っていかれる形になってしまった。
しかし、草餅は草餅でセインを満足に手懐けられていないのが現状だ。そこはそれだけセインが偏屈だって話なのだが…、そのせいで『EDに代わって新たな魔王にセインを祀り上げる計画』が全く進んでいない。
そこで私が目をつけたのがコイツラの存在だ。交渉禁止は同盟の決め事だが、コイツラなら判定はグレー。まぁ、結果さえ残せばお咎めは無いだろう。セインも所詮は男。直接話をする接点さえ作れれば、あとは私の魅力と交渉テクニックで何とでもなるはずだ。
そんな事を考えながら戦っていると…。
「お姉ちゃん、この人の防具、金属製だよ!」
「あぁ、そういうことね。完全に把握したわ」
「チッ!」
不意打ちの攻撃に防具のトリックを見抜かれてしまった。たしかにテクスチャを変更して革防具に似せてはいるが…、システム上は紛れもなく金属で、ヒット時の音やエフェクトは金属のままなのだ。
「コノハ、そろそろ終わりにしようか」
「うん、まぁいいんじゃないかな?」
そういってレイピア使いが速射魔法を放ちながら、盾持ちの背後に戻る。
「クッ! 初心者が調子にのって! 勢い任せでなんとかなるとでも!?」
しかし私の攻撃は、ことごとくが宙を切り、返しに小さくダメージを刻まれていく。
「お姉ちゃん!」
「ほい!」
阿吽の呼吸で、盾持ちが背後から飛んでくる魔法を避け、それがそのまま私の体に吸い込まれる。流石は姉妹だ。
しかし、状況は最悪だ。この2人、情報では7世代からL&Cを始めた初心者だという話だったが…、まさかここまで強いとは。完全に初心者の域を脱している。
「クッ! しかし!! アナタたちの攻撃は…、軽いのよ!!」
「なんの!!」
渾身の一撃が、あっさり盾でイナされる。たしかに私の斧なら盾の防御を貫通するが、それはあくまでクリーンヒットした場合。角度をつけて受け流されると貫通ダメージは発生しない。
それに…。
「もう、回復アイテムの効果は切れていますよね? どうします? もう1度使いますか?」
「クッ! 調子にのって!!」
こんな近距離で回復アイテムを使えば、回復量を遥かに超えるダメージを貰ってしまう。せめてセットしているアイテムが即効性のある回復アイテムだったらよかったのだが…。
「ところで…」
「なによ! こんな状況で!!」
突然手を止めて、私に話しかける盾持ち。
「カートの中身とか、大丈夫ですか?」
「あ…」
思わず血の気が引く。
対人戦ということもありインベントリのアイテムは倉庫に預けてきたが…、うっかり所持金を預けてくるのを忘れてしまった。それが無くとも、グリードセットが欠けるのは痛すぎる。最悪、10M(1000万)くらいの損失になるだろう。
「お姉ちゃん。やっぱり、真剣勝負で手を抜くのは失礼だと思うよ?」
「いや、私、商人だから、全然ポリシーとか無いんで、ホント」
「ん~、そうね。喧嘩を売ってきたのはソッチだし、逃がすのは違うわよね」
「いや、ホント、全然おかまいなく」
「へへへ。手はかさないけど、アタシは何となく、背後に移動させてもらうな」
「いやいやいや。ホント! マジで勘弁してください!!」
とりあえず、今回は1つ教訓を得た。対人戦に高価すぎる装備を持ち込むのは控えるべきだ。
つまりは、そういうことだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます