#326(7週目金曜日・午後・Hi)

「 …でね、靴はやっぱり、防御重視ならグリ…」

「よっ! おまたせ~」

「あぁ、Siちゃん、おつかれ」

「その、おつかれ」


 Luと装備の話をしていたところに、遅れてSiが合流する。場所は酒場の個室。それほど大層なものではないが、つまりは作戦会議だ。


「なんだHi、最近、キレが無いよな」

「それは…、別にいいでしょ」

「まぁまぁ、ヒィちゃんにも色々あるのよね~」

「ヒィちゃん言うなし」


 会議の内容は、装備の話もあるがメインは『打倒セイン』であり、つまりは私のワガママだ。皆には時間やデスペナのリスクを背負わせているので、なんと言うか…、やはり負い目があったりする。


「会議はどうだったの?」

「あぁ、まぁなんだ…、セイン狙いの件は、ウケがよかったぞ。新人なら自由に使っていいから、もっとヤレってさ」

「勝てない事、分かって言っているのよね? もちろん」

「だな。清々しいまでに捨て駒としか見ていないな」


 Siは先ほどまでギルドの幹部会議に出ていた。鬼畜道化師商会うちに限った話では無いが、アップデートでBLが使いものにならなくなった影響で、PKをはじめとするC√系ギルドは、どこも大騒ぎになっている。


「あぁ、あと、EDの人たちはどうするか、言ってた? 一応、BLは無力化しているわけだけど」

「ん~、そっちは特に何も。相変わらず秘密主義というか、俺たちを信用していないっていうか…」

「ふふ、それはお互い様だけどね~」

「だな。雰囲気としては、あまり浮かれていない感じだったから、慎重に様子見って感じなのかな? 知らんけど」


 EDの連中は相変わらずのようだ。彼らの存在はギルドにとってプラスが多く、ギルドマスターのDは、金策担当と言う事もあって上手くやっているようだ。しかし、商人グループとPKグループで温度差というか、ギルド内に溝のようなものを感じてしまう。


 しかし口には出せないが、正直に言って今の私にはどうでもいい事だ。Siなんかはギルドメンバーの繋がりを大切にしているから、そっちの方が気になるようだが…、私からしてみればEDに限らず、新人や付き合いの無い古参メンバーにも興味は無い。LuやMeたちと離れるのはちょっと悲しいが、逆に言えばその程度。ギルドの形に拘りは残っていない。


 それよりも…。


「それで、セインの方はどうだったの? なにか新しい情報はあった??」

「あぁ、新しいのとはチョット違うけど、連中もノリ気でデータを纏めてくれた。ホイ、これ」


 そういってメッセージでURLが送られてくる。どうやら、セインの情報をまとめた秘密掲示板を作ってくれたようだ。


 そう。私だって闇雲にセインに特攻するばかりではない。ちゃんとLuの意見を聞いて、Siにセインの情報を集めさせていた。私たちはあくまで"PK"。卑怯でも、使えるものは何でも使うのだ。


「へぇ~、結構色々わかっているのね。スキル構成まで分かっているんじゃない」

「そのへん、自由連合の活動で色々出しているみたいだ。まぁ、本気のビルドでは、無いと思うけどな」

「でしょうね。あくまで見られてもイイところだけよね」


 セインの型は、パッシブ型の片手短剣。攻撃スキルは最小限におさえて、パッシブスキルや索敵スキルにスロットをさいている。また、回避が異常に得意で不意打ちもまず決まらない。状況に応じて両手に短剣を装備する事もあるが、普段はあくまで片手型。たぶん、状況に応じてアクセサリーも含めて細かく調整しているのだろう。


「それで、セインの交友はどうなの? 正直、装備に関しては殆ど知ってる内容だったわ」

「そりゃまぁ、何度も戦ってるしな」

「ふふ、確かに、言われてみれば殆ど知っている内容ね~。外見では判断できないから仕方ないけど、スキルとか称号系も分からないままよね」

「いや、流石にそれは、本人に聞くしかないな。ある程度は予測できるけど…」


 なんだかちょっとイライラする。Siがウザいのは前からだけど、最近は前にもましてイライラすることが多い。


「それで! セインの交友は、ど・う・な・の!!」

「ふふふ、ヒィちゃんったら~」

「ヒィちゃん言うなし」


 ついでにニヤニヤ笑うLuもウザい。


「流石にそっちは謎だらけだ」

「まぁ当然よね。個人情報だし」


 PKにおいて重要になるのはターゲットのスキルや装備の構成だけではない。ログインする時間や交友、時には好みのタイプも重要となる。それこそ、Si相手ならにゃんころ仮面をだしに使えば一発だからだ。


 ログインする時間帯は掲示板に書かれていたが、交友に関してはかなりアバウトになっている。


「一応、にゃんころ仮面さんの兄ってのは確定しているが…、もう一人、商人系の妹がいるとか、妹じゃなくて友達だとか、不確定な部分が多いな」

「その子、自由連合のイベントには参加していないの?」

「参加していないみたいだ。あ、あと、最近は刀使いの男性PCと一緒に居るところも目撃されているな。スバルと呼ばれているPCで…、インは昼間だけだが、一部のPKには結構名が通っているようだ」

「夜にログインできないPCって、イベントに参加できないから、どうしてもチャックが甘くなっちゃうのよね~」

「チェックね」


 どうでもいいけど、セインに男友達が居る事に、何故か違和感を感じてしまった。なんでか知らないけど、セインって女性に囲まれているイメージがあるんだよね。


「あとはHiたちも知ってる、にゃんころ仮面さんの友達グループ」

「あの、大鎌使いの子たちね~」

「そう、それと、バーチャルアイドルのユンユンとも繋がりがあるとか無いとか」

「どっちなのよ!」

「知るかよ。まぁ、ユンユンの方が宣伝のために擦り寄っているって構図だと思うけどな」


 アイドルとも知り合いとか、やっぱりセインはムカつく。ほんと、何もかもシャクにさわるヤツだ!


「それくらいかな? 基本的に、にゃんころ仮面さんや妹グループは人付き合いが苦手で、交流イベント的なものには全くと言っていいほど参加していない。それで、その窓口になっているのがセインで…、基本的には別行動、そこまで親しくはないみたいだな」

「へぇ…」


 こっちはちょっと意外かも? もっと親密な関係かと思っていた。これじゃあ、一方的に目の敵にしていた私がバカみたいじゃないか。


「ふふふ、よかったわね?」

「なにが?」

「なんでも~~」


 ほんと、Luは…、色々とアレだけど、中身はコレさえなければ良いヤツだ。ホント、このニヤニヤさえなければ…。




 その後も会議は続いたが、これと言って進展は無いまま進み、最後に装備の調整だけして解散となった。

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