#322(7週目木曜日・夜・Hi)

「しょうがないわね。できれば見せずにとっておきたかったけど…」

「そうも言ってられなくなっちゃったわね~」

「よし! ここからがクライマックスだぜ!!」


 3人でポジションを回しながら装備を変更する。


「あれ? 同じじゃん」

「多分、テクスチャを変更して同じに見せているんだと」

「あぁ、確かに鞭の長さがかわってるな」

「杖の長さも、短くなっているわね」


 幸いなことに、3人は無理に攻め込んでくることはなく無事に武器の入れ替えが済んだ。変身中は攻撃しないアニメのお約束ってわけでもないだろうけど、コイツラもセインと同じで…、いや、違うな。セインの指導で、相手の『手の内を出し切らせてから倒す』スタイルなんだろう。


 なんか、凄いムカつく。


「行くぞ!!」

「は~ぃ」「えぇ!」


 特に受け持ちを変えることなく、真正面からブツかっていく。さっきと違いがあるとすれば、私も距離を詰めている点だろう。


「え? ちょっとm…!?」

「お? おぉ!?」

「お姉ちゃんたち! こっちはいいから受けにまわって!!」


 やっていることは初心者と同じ、ガムシャラに突っ込んでいるだけなので。意表こそつけたが、流石にそれで勝負が決まるほど、相手も素人ではない。


「俺の突きをどこまでいなし続けられるかな!!」

「っ!!」


「これなら!!」

「おっと~、2度も武器破壊は受けられないわね~」


「待ちなさい!」

「くっ! 今度は打ち合いですか」


 攻守が逆転して、今度は私たちが攻めたて、相手がそれを受ける構図となった。


「ちょ、なんなのよ!」


 テンポが速くなり、とたんに動きが悪くなる盾使い。さっきは活躍していたが、どうやら付け焼き刃の戦法が"たまたま"ハマっていただけのようだ。


「お姉ちゃん、まずは落ち着いて立て直そ!!」

「わ、わかってるんだけど!!」

「ナツキ!」

「え!?」


 とっさに鎌使いがMeの前に割り込む。


「コイツは私が受け持つから、ナツキは鞭をお願い!」

「え!?」

「お姉ちゃん!」

「わかったわよ!!」


 やはりあの鎌使い、勘が良い。


 結局のところ、私たちの武器チェンジは短いものに変更しただけなのだ。基本的に対人戦は、相手より長い武器が有利だ。しかしそれは、あくまで相手が高速の攻撃を見切れないことが前提となる。逆に言えば、ランカー連中は攻撃速度の遅い長物は"カモ"と思ってガンガン懐に飛び込んでくる。


「あ、あぁ、なんか戦いやすくなったわ」

「あ~ん。短くしたアダが出ちゃったわ~」


 Luが見事に盾使いに抑えられてしまった。長い鞭なら、盾の防御を迂回できるが、短い鞭に持ち替えた状態では、ただただ軽い打撃でしかない。相性の問題なので仕方ないが、この組み合わせだと完全に裏目のようだ。


「まってろLu! 先にコイツを仕留めるから!!」

「な、なんの!!」


 盾使いほどではないが、Meは鎌使い相手でも有利を取れているようだ。相手もなんとか持ちこたえてはいるが、攻撃速度が速くなったおかげで相手が得意の大ぶり攻撃に移れない状況を作っている。


 あの鎌使い、確かにセンスはいいが、受けに回ると弱いようだ。


「さぁ! 大人しく掴まりなさい!!」

「いえ、そういうわけに…、もっ!」


 レイピア装備の魔法使いは、先ほどから回避ばかりで全く捉えられない。杖ではなくレイピアなので、てっきり『いざとなったら前に出て殴りにまわる』スタイルなのかと思ったが、見た目に反して回避専門のようだ。


 それなら…。


「Lu! 武器をもどして!!」

「えぇ、でも!?」


 逃げるレイピア使いは捨てて、不利になっているLuをサポートする。鞭は長い方に戻せば有利がとれるので、その時間さえ稼げば全員が有利な状態となる!


「ほら、時間は稼ぐから、はやく!!」

「いや、でも、私の武器、壊れてるから…」

「「 ………。」」

「ごめん。今の忘れて」

「そこです!!」

「「ちょ!?」」


 流石に今度は隙を見逃しては貰えなかった。まぁ、単純なミスだしね。ほんと、死にたい。いや、まだ死ねないけど。


「チャンスよSK! 気張りなさい!!」

「おっし!!」


 打って変わって、強引に攻めてくる3人。チェンジに失敗しただけで、状況は変わっていないはずなのだが…、それとは別に"流れ"を完全に持っていかれてしまった。


「ちょ! アナタ、普通に前に出れるんじゃない!?」

「場合によっては、私もでますよ!」


 レイピア使いまで前に出て、私を攻め立てる。しかも、普通に強い!?


「だめ、抑えきれない!」

「すまねぇ! こっちも余裕が!!」


 見ればいつの間にかMeも押されている。


 あの鎌使い、どうやら『素早い攻撃が苦手』なのではなく『自分のテンポで戦えないのが苦手』なタイプだったようだ。


「へへっ。同じ付け焼き刃みたいだけど、こっちはアニキに扱かれてるからな!」

「クソ! なんて動きを!? ダメだ、コイツ、やっぱ強いぞ!!」


 アニキって、やっぱりセインのことだよね? ほんと、ムカつく。もう、セインが関わっていると思うと、何もかもムカつく!!


 でも! なにか掴めた実感はある。次こそ、次こそは…。




 結局、この後はズルズルと削られ、歓声に包まれつつも敗北に終わった。

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