#321(7週目木曜日・夜・コノハ)

「それでは…、レディーーー、ファイ!!」


 レイさんの合図とともに、鬼畜道化師との決闘がはじまる。腑に落ちない点は幾つかあるが…、今は目の前の戦いに集中する。


「さて、逃げる気は無いが、これも俺たちの戦法でね。距離は、とらせてもらうぜ!」


 中距離以上のレンジを得意とする道化師が、杖術使いのMeさんを前衛に押し出し、間合いを作っていく。


「SK! こいつは私が抑えるわ! そっちをお願い!!」

「OK!!」

「私の相手は貴女かしら? 大鎌なんて怖い怖い」


 Meさんはお姉ちゃんがカバーに入り、後衛である私を狙うLuさんをSKお姉ちゃんがカバーする。


「「 ………。」」


 対して私は、距離をおいてHiさんと睨み合う。


 私のポジションは、回復支援と魔法防御、そして全体を見渡す司令塔だ。まずは相手の出方を伺い…。


「来ないなら、こっちから行くわよ!」


 次の瞬間、Hiさんの左手に赤い魔法陣が浮かび上がる。このエフェクトは火属性の速射魔法であり、それがSKお姉ちゃんの方に向いている。


「SKお姉ちゃん!」

「おぅ!!」

「チッ! 外したか」


 流石はSKお姉ちゃん。不意打ちで放たれた<ファイヤーバレット>を難なく躱す。


 低威力の高速弾なら各種防御魔法でも防げるが、私は魔法専門ではないので防御魔法を常時展開するMPはない。それに、そういうのは対魔物戦用の戦術であり、対人戦ではMP消費や、スキル使用時の隙をいかに抑えるかがカギとなる。


 実際、Hiさんも魔法使いでありながら短剣を装備している。受けて見ないと分からないが、もしかしたら魔法攻撃はブラフで、私を魔法防御に専念させるのが狙いなのかもしれない。


「ふん! この程度の突きで、私を止められるとでも!!」

「ととっ! なんだコイツ!? 盾持ちの癖にグイグイ来るな」


 お姉ちゃんが軽いフットワークでMeさんとの距離を詰めていく。初めて見る立ち回りだけど、私がログインしていないうちにコッソリ練習していたのかな? 本来は不利な打撃攻撃を、回避主体でイナしていく。あれならノックバック効果も機能しないので、有利な距離まで詰められる。


「なかなか、やるじゃない! ロマン武器だからって、正直舐めてたわ」

「それなら、大人しく掴まってくれない? 追いかけっこは、好きじゃないんだよ・・、ね!」

「おっとと、ごめんなさい。そうしたいのは山々なんだけど、鞭ってそういう武器じゃないのよね~」


 SKお姉ちゃんの方はと言えば、持ち前の空間把握で変則的な鞭の軌道を読み、押してはいるものの…、距離を詰め切れずにストレスを溜めている様子だ。


「SKお姉ちゃん! 回り込んで挟み撃ちするよ!!」

「お、助かる!!」

「させるか!!」


 私が回り込むのを見て、すかさずHiさんが進行方向に対地魔法の<ファイヤーフロア>を放つ。一応、今回は相手が分かっていたので、装備で火属性魔法は対策済みだ。しかし、無効化しているわけでも無いのでダメージは受けてしまう。


 早期決着を狙うなら、迷わず"ゴリ押し"を選択するところなんだろうけど…、私、こういう時は、体力じゃなくて"頭"を使う、タイプなんだよね~。


「それなら、コッチからいくよ!」

「OK!」

「あらあら、結構キレるじゃな~ぃ」


 すぐさま逆サイドに走り、今度はLuさんを対地魔法に押し込む構図を作る。設置系魔法は発動後一定時間で自動消滅するが、それまでは術者の操作(キャンセルなど)を受け付けない。


「させないわ!!」

「なんの!」


 今度は速射魔法が私を狙う。しかし、それは読めていたので冷静に<アクアウォール>で防ぐ。この魔法は前方限定の高速対抗魔法なので、速さは問題ないが、背中が無防備になる欠点がある。


「そこ!」

「もらった!!」

「エッ!!?」


 私の背中を狙う鞭の一閃が、突如光になって砕け散る。やったのはもちろんSKお姉ちゃん。見え見えの隙に飛びついた一撃は、大鎌の一閃で耐久値を一瞬にして失い"武器破壊"が発生したのだ。


「形勢逆転のようね」

「ぐっ、わるい。こっちもピンチだ」


 お姉ちゃんの声と共に、MeさんがバックステップでHiさんのところに駆け寄る。それも"加勢"ではなく"撤退"という形でだ。


「ふっ。勝負あったわね。普段から卑怯な戦法ばかり使っているから、こういうことになるのよ! さぁ、大人しく…」

「お姉ちゃん、そういうの負けフラグになるから、やめた方が良いよ?」

「え? そうなの!?」


 ギャラリーから笑いがもれる。今のところ流れはコチラだが、手の内が分かっていたのは相手も同じ。流石に"無策"ってことは無いだろう。


 だよね?


「しょうがないわね。できれば見せずにとっておきたかったけど…」

「そうも言ってられなくなっちゃったわね~」

「よし! ここからがクライマックスだぜ!!」


 よかった。のか? いやダメだろ。


 私の読みはともかく、時間差でポジションを入れ替えながら武器を変更する3人。


 L&Cは、2つ目のアクセサリースロットにサブウエポンを仕込むことが出来る。アクセサリー効果による補正がその分目減りする欠点があるので、本当に『出来れば見せたくなかった秘策』なのだろう。




 こうして、若干リードしつつも、決闘は第二幕へと移行する。

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