#320(7週目木曜日・夜・コノハ)

「おい、鬼畜道化師とセインの妹の友達グループがやり合うってよ!!」

「マジかよ!? 見に行こうぜ!!」

「いや、ちょ、友達グループってなによ?」


 普段はのどかな時が流れる港町アーバン。しかし、今宵は異様な熱気に包まれていた。


「だから、セインの妹の知り合いグループだよ。セインシスターズとも言われているかな?」

「なにそれ。初耳すぎる」

「まぁ、シスターズはセインに比べたら派手さは無いからな。でも、イベントとかでもそこそこ活躍しているぞ? この調子で腕を上げていけば、ランキング入りも充分あるとかないとか」

「マジかよ、ちょっとナンパ(フレンド登録のお願い)してくる!」

「「まてや!!」」


 事の発端は、非常にシンプル。Hi率いる鬼畜道化師の選別チームがナツキたちに試合を挑み、ナツキたちがその挑戦を受けたのだ。しかも、場所は"街中"。人目もあるので仲間を潜伏させておく手は使えない。3対3の正式な決闘と言って過言は無いだろう。





「ギャラリーが集まれば、もう卑怯な手は使えないわよ!?」

「そうね、みんなの前で、キャリアの差を見せてあげるわ!」


 Hiさんと先ほどから火花が舞い散るようなやり取りを続けるお姉ちゃん。集まったのは私とお姉ちゃん、そしてSKさんの3人で、相手はHi・Lu・Meの3人。急な話で私もよく状況を理解できていないんだけど、どうもこれから3対3で試合をする…、らしい。


「 …! …!!」

「 …! …!?」


 性格もあって2人は最初から一触即発の雰囲気だが…、残りの4人は2人の白熱ブリについていけず、なんか『お互い大変だね~』みたいな空気になってしまった。


「ねぇ、SKお姉ちゃん」

「ん?」

「これ、どういうことなの?」


 今日はお昼に、突然『決闘を申し込まれた』とメールを受けて、そのまま訳も分からないまま(夜)連れてこられたので、状況の理解が追いついていない。まぁ、そのままの状況だとは思うけど、一応私は参謀というか、冷静にアドバイスをするポジションなので、出来るだけ状況は詳しく把握しておきたい。


「ん~、なんか、この前のバトロアの決着をつけるみたいな話なんだけど…、どうもメッセージに"打倒アニキ"みたいなことが書いてあったみたいなんだよね~」

「あぁ~」


 物凄く納得してしまった。お姉ちゃんは、普段は冷静ぶっているけど、本当に煽り耐性が無いんだよね。肝心のお兄さんは、年中無休で挑戦者を募集しているっていうのに…。


 それはさて置き、なんで相手が3人しか居ないのかは分からないが、何となく話の流れは読めてきた。一応、街中なので乱入は(戦闘状態のPCが近づけばギャラリーが気づく)不可能だと思うけど…、相手は卑怯が売りのPKなので、一応周囲も警戒しておく。


「ごめんね~、急に呼び出しちゃって。恨みとかは無いんだけど、何って言うの? 試練? 私たちがステップアップするために、まずはこの前の決着を、つけようって話になっちゃってね~」


 気軽に話しかけてきた黄色のPCは、オネエ言葉のLuさん。


 先ほどから妙な違和感と言うか、温度差を感じるのは…、もしかしたら『決闘だと思っているのはお姉ちゃんとHiさんだけ』なのかもしれない。


「その、すいません。私、詳しい事情を聴いていなくって…。今日のコレって何なんですか?」

「ん~、何処から話したものか、何処まで話して良いものか悩ましいんだけど~」

「 ………。」


 特に食いつく素振りも見せずにSKお姉ちゃんが耳を傾ける。SKお姉ちゃんはお姉ちゃんと同じで血の気が多いけど、結構気分屋で、スロースターターなところがある。シガラミとか難しい話にも関心が無いので、多分、決闘?が始まるまで、ずっとこの調子なんだと思う。


 それはさて置き、Luさんに(手短ではあるが)話を聞くと、どうやら『3人は本格的に対人戦を極めるために1から鍛え直す事にした』のだとか。それも、奇襲や撤退しながらではなく、正面戦闘でだ。


 まぁ、切っ掛けは間違いなく、お兄さんだろう。ホントあの人、こういうタイプにモテるんだよね。自覚は…、無いみたいだけど。


「なぁ、そろそろ始めねぇか? なんか、ギャラリーが関係の無いところで盛り上がりだしてきたぞ」

「「あぁ…」」


 割って入ったのはMeさん。周囲を見れば、何やらお姉ちゃんたちの言い争いに、妙な歓声が上がっている。理解はできないが、女性同士の喧嘩には秘められた需要?が隠れているようだ。


「そうね、これだけ人が集まれば、不正や逃げ撃ちは出来ないでしょうし、実力の差も、ハッキリ出ちゃうでしょうね」

「ハァ? 私たちが素人のアンタラに負けてるって!?」

「も~、2人とも、口喧嘩はそのくらいにしましょって話でしょ~」


 同族嫌悪だろうか。なんだかHiさんからはお姉ちゃんと同じ匂いを感じる。パッと見はSKお姉ちゃんっぽいけど…、ツンデレ? なんかそんな印象を受ける。


「よ~し、それじゃあ、俺が審判な! 両PT、一度距離を取って…」

「「 ………。」」


 突如現れた審判に、皆から『誰だコイツ??』みたいな視線が集まる。なんで、レイさんがここに居るんだろう?


「勝負は1本先取! 先に相手PTをキルした方が勝ち! 逃走やリスポーンは禁止で、介入してきたバカはギャラリー全員でフルボッコの刑!!」

「「おぉーー!!」」

「それでは…、レディーーー、ファイ!!」




 どこからともなく響くゴングの音とともに、私たちの決闘?が始まった。

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