#315(7週目水曜日・夜・セイン)

「それで、掲示板の反応はどうなんだ?」

「ん~、まだ詳しい発表はないから反応は穏やかだけど…、ロールプレイ界隈は歓迎するけど特に動きは無し。代わりに動きがありそうなのは、やっぱり実況者界隈かにゃ? ユンユンもそうだけど微課金勢から注目が集まっているのにゃ」

「 ………。」


 夜、俺たち3人はスバル用の素材集めを一旦切り上げ、ほかの防具用素材を集めながら、軽くニャン子の意見を聞いていた。理由はもちろん、今度のアップデートに備えて下準備を整えるためだ。


 次のアップデート(金曜日)で、桃姫帰国イベントに加えて、装備のカスタム領域が拡張される。これはもちろん、装備制作スキルを上げている者にとっては大きなビジネスチャンスだ。事前に素材を揃えておいて、金曜日はアイテム制作に専念。土日は商品を随時補充しつつも、販売に専念する形になるだろう。


 加えて、デザインならニャン子の得意分野だ。ロールプレイ界隈のニーズや、流行りのアニメの知識もある(らしい)。


「実況者って言うとビーストみたいな連中だよな?」

「まぁ間違ってないけど、どちらかと言えばユンユンみたいな感じかにゃ? ビーストは顔出しOKだけど、殆どの実況者は顔出しNG。基本的には服装も含めたアバターが、実況者の顔になっているのにゃ」

「あぁ、奇抜な見た目のヤツ、多いもんな」

「 ………。」


 あまり褒められた話では無いが、だらだらと喋りながら次々と魔物を狩っていく。今回は素材がメインなので難易度には余裕があるものの、やはり『良い子はマネしないように』と補足しておくべき状況だろう。


 とは言え転生直前の追い込みは、難易度低めの沸きのいい狩場に籠もる形になるので、特別珍しい事でもなかったりする。


「とりあえず、明日の追加発表にあわせて、作れそうな衣装はリストアップするつもりにゃ」

「そっちは任せた。どうせ追加機能は無いだろうから、バランスの変更がメインになると思うけど」


 追加発表と言っても、そこはL&Cなので具体的な話は一切ない。あくまで『こんなモノが追加されますよ』というサンプル画像のみだ。相変わらず不親切極まる告知だが…、これでも慣れてくると、傾向と言うか、ある種のルールが見えてくる。


 今回のカスタム領域の拡張に関していえば『必要素材が変更される』とか『カスタム用の追加素材が加わる』といったことは無い。良くも悪くも文面通りなので、可能性として高いのは『既存の変更領域の上限緩和』と『変更領域の新規追加』だろう。


「兄さん!」

「ん? どうかしたか??」


 突然、アイが会話を遮る。


「どうかじゃありません。さっきから猫とばかり話して!」

「にゃにゃ!?」

「あぁ…」


 なんとも反応に困る理由だった。


 アイは見た目こそ容姿端麗、大人びた雰囲気から美女と呼んでも過言ではない美少女だ。しかし、性格には僅か・・に難がある。人見知りなどがまさにそうだが、それ以外にも"甘えん坊"で意外に子供っぽいところがある。まぁ事故で両親を亡くしているので仕方ないのは重々承知しているが…、この歳になっても異性の兄妹にスキンシップを取りたがる所や、俺が他の人と仲良くしていると焼きもちを焼く所がある。


「だいたい、猫も何ですか! 最近はアシストをサボって! これでは同行を認めている意味がありません!」

「いや、それはその…」


 こういった時『親代わりとして厳しく躾けるべき』なのか『残された家族として好きなだけ甘えさせてやるべき』なのか、毎回悩んでしまう。とも言え、アイも年頃。俺があれこれ悩んでも、そのうち恋を知り、勝手に巣立っていってしまうのだろう。


「まぁまぁ、アシストって言っても、お互いソロ型で、もとから大して連携していなかったじゃないか」

「そういう事ではありません!」

「お、おう…」


 こうやって懐いてくれているのも異性を意識していない今のうちだけ。流石の俺も、面と向かって『好きな男はいないのか?』なんてデリカシーの無い事は聞かないが…、いつかはアイも恋を知り、兄離れするのだろう。


「いいですか猫! 兄さんは実は、物凄い鈍感で、女心が理解できない朴念仁なんです!」

「(ん?)」

「いや、まぁそれは知ってるけど…」


 あれれ? 珍しくアイの矛先が俺に向いてきたぞ? まぁ確かに、男の俺に『女心を完全に理解しろ』と言うのは無理な話だ。


 いや、そもそも理解するとか、そういう話では無いのかもしれない。男の悪い癖で、なんでも論理的に"結論"を出したがるが、女性の会話に大事なのは"共感"であり、例え悩み事でも、解決は求めていない場合がある。女性とは、そういう性質を持っているのだ。


 …と聞いたことがある。


「ですから! ちゃんと貴女が場を整えないと、いつまでたっても進展しないじゃないですか!!(自分から何て恥ずかしくて無理!)」

「いや、まぁ、ごもっともで(いざとなっても何もできないくせに!)」

「まぁまぁ、2人とも、仲がいいのは分かったから、狩場で喧嘩するのは…」

「「 ………。」」

「え? どうした2人とも」

「「はぁ~~~」」


 突然、糸が切れたかのように沈黙して、顔を見合わせ大きなため息を吐く2人。


 やっぱり仲いいじゃないか! 息ピッタリだぞ?




 結局そのあとも要領を得ない話が続き、最終的に俺は伝家の宝刀『先に行くから好きなだけやってろ』を発動して、無事、狩りを再開した。

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