#316(7週目水曜日・夜・K2)
「ダメだ…。いくら探してもそれらしいPCは見当たらない」
「完全に撒かれたな。チッ! いけると思ったのに」
「クソ! 遮蔽物を上手く利用したんだろうが…、問題は"いつ"追跡に気づかれたかだな」
夜、俺たちは今日も今日とて、BLの自動通報機能を利用してPKKに勤しんでいた。
「もしかして、PKの連中も、俺たちみたいに他人の目を借りて、PKKの接近を感知してるんじゃないのか?」
「連中がBLの海賊版ツールを作ったってか?」
「いや、考えすぎだろ? よしんばあったとして、BLと違って一般公開して広めるわけにもいかんだろ??」
正直なところ、いい加減引退した方がいいのは分かっているんだが…、陰キャの俺たちに他に何が出来るわけも無く『○○になったら辞める!』なんてセリフを毎年のように吐き捨てながら、今もこうしてL&Cをダラダラ続けている。
「そうだな。そうなると見張りがいて、顔のわれているPKKが接近したら連絡するって感じか?」
「面倒だが有りえる話だな。BLの自動通報機能はマジでヤバい。それくらいしないとC値を稼げないなら、面倒でもやるしかないだろ?」
まぁそれでも、全盛期に比べれば"人"として節度あるプレイ時間になったので、進歩?はしているんだと思う。ホント、全盛期はマジで廃人だったから…。
「いや、考えてみたら見張りなんて要らなくね?」
「え? なんで??」
「いやさ、BLの自動通報機能は、もう知れわたっているだろ? それならいっそ、単純にPCとすれ違うたびに、人目を避けて場所を変えればいいんじゃね?」
「「あぁ~」」
話がそれたが、俺たちは最近『失敗する回数』が増えている事に悩んでいた。それも、返り討ちにあったとかではなく"見失って"の失敗だ。
「なんだ、俺、てっきりBLのジャミングツールでも出来たのかと思ったぜ」
「ぷっ、ジャミングって、いつの時代の話だよ?」
「しかし、妙だよな…」
「ん? 何がだ??」
「いやさ、逃げられたのなら、他の場所でも目撃情報が入ってもいいんじゃねぇか?」
「まぁそうかもだけど…、そもそも、撒かれたってのが勘違いで、実はマメにログアウトしてるって可能性もあるだろ?」
「「あぁ~~」」
考えられる可能性はいくらでもある。もちろん、手間や効率を惜しまなければではあるが。
MMOは奇人変人、効率中に、逆に効率を全く気にしない者、様々な輩が集まる場なので、そういった回りくどいヤツが居ること自体に不思議はない。問題は、そこまで回りくどい方法をとるヤツが『どれくらい居るか?』ってところだろう。
「あ、でもさ、流石に毎度、フィールドでログアウトするのは危なくね?」
「いや、まぁそうだな。分担してログアウトするにも限界があるし」
不正防止のために、安全エリア以外でログアウトには制限が加わる。PKK対策でログアウトしたはいいが、肝心のアバターが無防備な状態でフィールドに残っていては意味がない。つか、PK以前に魔物に襲われて終わりだ。
「そう言えば、BLでも読み取れない装備って、どうなったんだっけ?」
「え? あぁ、少しずつ対応しているって話だけど…、どうだろ? 詳しくは知らない」
「ログアウトしなくても、装備の変更である程度誤魔化せるからな」
「だな。そっちの方が、まだ可能性が高そうだ」
BLはあくまで外見でアバターを判別するので、例えば、フード付きのローブでアバターの大部分を覆われると判別は困難になる。しかし、自警団専用モデルでは、そのあたりの"不確定"は不確定情報として表示できる。
加えて、バージョンアップにより、そういった装備からでもある程度正確なアバターの体格を予測できるようになってきた。リアル志向のL&Cでも、RPGのお約束であるところの『装備は自動的にサイズ調整される』は順守しているので、装備の種類さえ判断できればアバターの体格も逆算できるわけだ。
「お! 近くで反応あり! よし、今度はロストする前にターゲットを抑えるぞ!!」
「「おう!!」」
Kはスパイ対策で『連携するのはチーム単位』という掟がある。つまるところ、ターゲットは早い者勝ちなのだ。一応、チーム間で巡廻エリアがカブらないよう相談はするが、逆に言えばその程度の繋がりしかない。だから嘘の申告をして穴場の狩場を隠すのもありだし、それこそ複数班で結託して、分け前をもう一方に集中させるのもありだ。
「よし、最終発見位置はこの辺りだな。ここからは2人1組でローラーしていくぞ!」
「「おう!」」
6人のメンバーを3つに分ける。BLがあるとは言え、逃げられたり返り討ちにあったりしては意味がない。気を使う事も多いが、それはそれとしてPKKにも駆け引きがあり、魅力がある。あまり口にはだせないが、PKKをやるようになって初めて、PKの魅力がわかり…、いまではPKに強い恨みは抱いていない。変な話だが、最近になってやっとL&Cというゲームを"ゲーム"として楽しめている…、そんな実感を感じていたりする。
「よし! ターゲットだ。今度は逃げられずに済んだな」
『こちらアルファ。ターゲットを捕捉した』
『こちらブラボー。座標は確認した。すぐに配置につく』
『こちらチャンリン。確認したが距離がある。配置につくまで時間をくれ』
『『了解!』』
地形もあり、直ぐに仕掛けることは出来ないが、目視できていれば時間は問題にならない。これでもし、BLの反応をロストするようなら、それはそれで見失う原因がつかめて美味しいくらいだ。
いやむしろ、そうあってほしい。Kの活動は歩合制。上を目指すなら、そう言った問題点も利用しなくてはならない。そう、同じ"K"と言えども、他のチームは全てライバルで、蹴落とすべき相手でしかないのだ。
「なぁ…」
「ん? なにかあったか?」
空いた時間に、相方がオープン会話で話しかけてきた。
「いやさ、さっきはあぁ言ったけど…」
「??」
「俺はK内にもスパイは居ると思うんだよ」
「まぁ、団長もそれを分かっているからこそ、Kを縦割り組織にしたわけだしな」
実際のところ、トップのK1のスコアは目を見張るものがある。まず間違いなく、下位のチームからスコアを吸い上げているのだろう。確証はないけど…、そうだと思わなければやっていられないほどの差がついている。
「それもそうだけど…、いや、なんでもない。忘れてくれ」
「あ、あぁ…」
言いたいことは何となくわかる。つまりは『灯台下暗し』。俺たちのチームにもスパイがいて、BLの細かい仕様や配置情報を流しているんじゃね?って話だ。俺たちもそれなりにつき合いは長いが、一度は隠居してバラバラになっている。その間にPKとの繋がりが出来ている可能性は、残念ながら否定できない。
まぁ、それはそれで激しく手間なのは間違いないが、その説でも、不可解なロストの説明がついてしまうのも事実なのだ。
『こちらチャンリン。あと少して持ち場につく』
『了解。焦らなくていいから、慎重にいこう』
『だな。小さなことからコツコツと。まずは確実にとれるスコアを丁寧丁寧丁寧に拾っていこう』
この後は、特に手こずる事も無く、あっさりターゲットを仕留めるに至った。上手くいかない事もあるが、まだまだ上手くいくときは上手くいっている。『何かしないと』と思う気持ちもあるが、人の習性として上手くいっている部分があれば現状維持を選んでしまう。そう言った部分は、俺たちにも確かにあった。
こうして、俺たちは今日もコツコツとスコアを稼いだ。
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