#314(7週目水曜日・午後・Hi)

「それじゃぁ、3人しか居ないけど、予定通り会議を始めるぞ」

「はぁ~ぃ」

「 ………。」


 昼すぎ、SiとLuと私の3人は会議のために集まっていた。本来ならギルドホームを使うところだが、今回は内容が内容なだけに場所は酒場の個室を選んだ。


「それで、EDの人たちの反応はどうなの?」

「あぁ、また嫌味は言われたけど…、そこまで機嫌は悪くない感じだったな」

「実際、ベストな状態じゃ、勝ち目無いから当然よね~」

「 ………。」


 EDの反応と言うのは、昨日のセインとの戦闘の事だ。私たちは、昨日の結果をあえてEDの連中に話すことにした。それも『戦闘で負けた』と真実を伝えた。もちろん『秘密にする』とか『不戦勝での勝利』を自慢する選択肢もあったが、それはあえてしなかった。


 理由としては『秘密にしても目撃情報からバレる』ってのもあるが、1番の理由は『私たちの行動に真実味と信頼を持たせる』ためだ。悔しいが、ハッキリ言って私たちではセインやにゃんころ仮面には勝てない。それは嫌と言うほど理解できたし、EDもランカーなので私たちでは勝てない事は理解しているだろう。そこであえて私たちが『調子にのってセインに喧嘩を売って返り討ちにあった』と言う事実を追加することで、にゃんころ仮面に(まぐれで)勝った事実に信ぴょう性を持たせたのだ。


 私としてはそこまでする必要はないと思ったが…、Siの提案で話すこととなった。まぁ、どうせバックのにゃんころ仮面の指示だと思うが…、今は皆と話し合った結果『従う方針』に、私も含めて同意している。


「それでだ、昨日も話し合ったが、俺たちの当面の行動方針はEDの連中に従うフリをして、にゃんころ仮面さんに協力するってことで、いいんだよな?」

「 …そうね」


 念押しするSi。セインたちへの協力を1番反対していたのは私なので、これはまぁ仕方ない。相変わらず猫推しなのが、ちょっとムカつくけど。


「それで、次は何か言ってきたの?」

「あぁ、ソレなんだけど、とりあえず週末のイベントまでセインに挑み続けろとさ」

「はぁ~、勝てないってわかっているはずなのに、それでもなのね~」


 そう、EDの連中は私たちが勝てるとは最初から考えていない。私たちは単なる捨て駒であり、嫌がらせのためだけに私たちは特攻させられているのだ。


「 …そういえば、新入りたちはどうなの?」

「ん? Hiが新入りを気にするなんて珍しいな」

「別に…」

「まぁ、そっちはItに任せているが、順調そうだな」

「そうそう、Dの方も、結構儲かっているみたいよ」

「そう…」


 Itは新人の指導、Dはアイテムの売買などを担当している。そっちはEDの助力もあって上手くいっているようだ。特に凄いのがDの方で、やはり大手を経験していただけあって『儲けるためのテクニック』を幾つも知っている。新人教育の一環で金銭効率のいいアイテムも集めているので、なおのことDは喜んでいる。


 結果としてDは完全に『ED派』。Itも『どちらかと言えばED派』のようだ。対して私は…、もとは『どちらかと言えばED派』だったが、昨日の一件以降、ほかの5人も含めてセインよりに傾いている。


 すっご~く、シャクだけど。


「まぁ! そんなわけで、俺たちはイイとこ取りだ。DとItはEDの指導で美味しい汁を吸って、俺たちは適当に妨害をするフリをして、仕事してますよアピールをする。簡単なお仕事だろ?」

「そうね、それで、具体的にはどうするの? 一応、私たち6人はセインへの妨害担当って事になっているけど」

「つか、ホント、EDの連中、あからさまに俺たちを使い捨てにしてくるよな」

「そうね~。このまま私たちにデスペナを背負わせて、そのあとは戦力外で追い出して、て魂胆なんでしょうけど」


 どうもそうらしい。EDもEDで私たちを全く信用していないから、従えば戦力外、従わなくてもギルド内で立場が悪くなって、やがて転生したEDや新人に居場所を奪われる。そういう作戦のようだ。


「まぁ、定期的ににゃんころ仮面さんに(妨害していますよアピールの)画を撮らせてもらって、あとはこっそりレベリングかな?」

「そんなところよね~」

「その、それなんだけど…」

「ん? なんだ、珍しく歯切れが悪いな」

「どうしたの? ヒィちゃん」


 意を決して、考えていたことを打ち明ける。


「ヒィちゃん言うなし。それより! 私! セインに挑み続けようと思うの!!」

「はぁ!? いや、勝機無いから。つか、話聞いてた?」

「そうね。にゃんころ仮面は兎も角、セインはフリでも倒されてくれるかは…」

「そうじゃなくって! 私、本気でセインに勝ちたいの!!」

「「 ………。」」

「いや、だから無理だろ? もちろん、うまく不意打ちが決まれば、相手もチーターじゃないんだから可能性はあるけど」

「その、すぐじゃなくてもいいの」

「あぁ、将来的にはって話なのね」

「そう。でも、私1人じゃその…」

「まぁ、今はレベルや装備の差がデカいが、お互いに転生カンストしたら、条件はイーブンだし? 挑戦するのはいいけど…、ぶっちゃけ、それこそカンストしたら勝機は無くなるぞ??」

「そうよね~」


 そう、セインはC√。それもシングルとなれば魔王転生だって視野に入ってくる。それが無くても転生先は魔人系種族になるだろう。そうなると対人特化である私たちPKには勝ち目が無くなる。なにせ相手は"人"ではないのだから…。


「だからその! 考えたの…」

「「 ………。」」

「私がセインを超えるのは無理でも、私たち全員がトリプル(ランキング100位前後)になれば、6人がかりで、なんとか倒せないかなって」

「「 ………。」」


 顔を見合わせて考え込むSiとLu。


「まず、転生後を狙うのは難しいのは分かるな?」

「もちろん」


 他のゲームの転生は大抵上位互換に転生するだけの"パワーアップ"だが、L&Cの転生は、言葉通り別人に転生する。よって、顔も名前も、それこそ指名手配などのシステム情報も含めてリセットされてしまう。例外はフレンドやギルドシステムくらいだ。だから、敵対している私に、転生後の弱体化したセインを判別する手段は無い。


「いや、まてよ…」

「なにかいいアイディアでも思いついたの?」

「そうだ、そうだよ!」

「「??」」

「ほら、にゃんころ仮面さんとセインならセインの方がログイン時間が長いだろ?」

「そうなの?」

「そうなの! つまり、転生するのはセイン単独で、にゃんころ仮面さんはしばらくフリーになる!!」


 Siコイツ、本当に猫推しがウザい。ナンパとかどうでもいいし、何よりオマエじゃ相手にもされないだろ!?


「えっと、私、真面目な話をしているんだけど」

「いやいや、そうじゃなくって! 妨害の一環で俺はにゃんころ仮面さんと接触する機会は多い! だから、上手く信用を勝ち取れば、転生後のセインの情報を聞き出せるんじゃないか??」

「いや、まぁ、可能性はゼロじゃないと思うけど~」


 あぁ、そういう手もあったか。やっぱり作戦関係はSiやTrだな。でも、悪いけどそういう話じゃない!


「そうじゃなくて! 私、実力でセインに勝ちたいの! 汚い手でも、大勢でのゴリ押しでもいいけど、ちゃんと強くなって、ベストなセインを倒したいの!!」

「いや、それは…」


 『無理だろ』と、これ以上ないくらいに顔に出すSi。それは私も、悔しいが重々承知している。L&Cはオープンアクション。つまり、レベルや装備を極めても、最終的には達人と呼べる時限までプレイヤースキル(PS)を極めたものが勝利する。もちろん、PSは後からでも高める事は可能だ。しかし、前提として才能依存なのは事実であり、すでにここまで大きく差がついた相手には、どう頑張っても勝ち目はない。それこそ、伸びしろがある分、まだ新入りの方が可能性があるくらいだ。


「別に、無理につき合わせるつもりはないから。皆がついてきてくれないなら、私1人でも挑戦するから」

「「 …ぷっ」」

「えぇ!?」

「いや、すまない。"変わったな"と思って」

「そうね。前のヒィちゃんは"勝てるならなんでもいい"って感じだったのに」

「いや、だからそれは…」

「いいんじゃない?」

「え?」

「だな。ぶっちゃけ、ゲームだし。なによりL&CはMMORPGだ。明確なゴールは存在しない。あるとすれば、自分が納得できる目標を成し遂げた時だ」

「そうね。皆にもそれぞれやりたいことはあるだろうけど…、私は、いつもヒィちゃんの味方よ? だから、当然、今回もつき合っちゃうわよ~」

「え? あぁ、その、ありがと…」

「俺はまぁ、頻繁にデスペナを貰うのは嫌だけど、にゃんころ仮面さんのついででよければ、いくらでも協力するぜ!!」

「うん、Siは死ね」

「なんでっ!!?」

「「はははははぁ~」」




 こうして、私は再度、打倒セインを心と仲間に誓った。


 あと、Luが妙にニヤニヤしているのが、なんだかウザいと思ってしまった。

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