#310(7週目火曜日・夜・セイン2)
「それで、3人がリスポーンしてくるまで、まだ時間はあると思うが、このまま
「「ぐっ!?」」
Siたちを倒した後、部屋からでて…、廊下まで来たところで駆けつけてきた(間に合わなかったが)Hiたちに遭遇した。
位置関係は俺が階段の上、Hiたちは折り返している階段の踊り場に立っている。Hiからしてみれば、勝機は絶望的、全力で逃げるなら『エンカウント次第では助かる可能性はある』といった状況だ。
「ハンデを貰うようで悪いが、俺としては時間が惜しいので此処で勝負をつけたいかな? まぁ、どうしてもと言うなら待ってやってもいいが、その場合…」
「はっ!! 余裕こいて上から語ってんじゃねぇぞ! コッチは3人、しかも地の利はコッチになるんだ!!」
話を遮った白いPCは(たしか)Meとか言う杖術使い。位置的には俺が上なのだが、セオリーからするとリーチの短い短剣にとって高所は不利な立ち位置だ。このままでは、射程外から下半身を一方的に打たれてしまう。
しかし、威勢とは裏腹に3人が仕掛けてくる様子はない。おおかた、
「威勢の良さは評価してやるから、さっさと仕掛けてこい。なんなら、コッチから仕掛けてもいいんだぞ?」
「じょ、上等だゴラー!!」
「ダメよMe、ここで戦っても勝ち目はないわ、時間はまだあるんだし、逃げて態勢を整えましょう!」
「 ………。」
何やらHiだけ妙に落ち着いていると言うか、考え込んでいる様子だが…、それはさて置き、実際のところ、この場所なら俺の方が有利だったりする。
場所は(ダンジョン内なので)充分な広さのある階段。そして相手が立っているのは階段の踊り場であり(高低差はあるが)逃げる場合は俺の横を通り抜ける必要がある。攻めるにしろ逃げるにしろ、跳躍1つで懐に入れる状況だ。そうなればPKとして、不意討ちや逃げ撃ちに特化した3人に勝機はない。
「それじゃあ行くぞ…」
ゆっくりとした動作で、1歩、また1歩と階段を下りる。勝負は一瞬、怯みのない魔法はどうでもいいが、Luの鞭だけは絶対に回避しなければならない。
「まって!」
「ん?」
制止を訴えたのはHi。6人の中では1番喧嘩っ早い性格なので命乞いはないと思うが…。
「みんな、私に命を預けてくれる?」
「「 ………。」」
「はぁ~、しゃあない。つか、俺もそっちの方が好みだしな!」
「もぉ~、しょうがないわね。逃げようとして逃げ切れる保証もないし、私も付き合ってあげるわ~」
「ありがと! …セイン! アンタに勝負を挑むわ!!」
「そうか」
「場所は…」
なるほど。そうきたか。それなら、俺は乗るだけだ。
「お前たちの構成なら屋上でいいだろ? あそこなら距離を活かせるし、魔物だってランダム要素になる」
「え? じゃ、じゃあそれで」
「決まりだな」
まぁ、決闘は妥当な判断だろう。少なくとも階段でやりあっても勝ち目はなかった。せめて、本来の戦闘スタイルが使える場所なら、まだ望みはある。それで言えば、狭い場所が多い室内は軒並みアウトだ。廊下で魔法を使えば味方の背中を撃ち抜くだけだし、部屋に言っても今度は机や椅子が邪魔で鞭が使えない。そうなると消去法で屋上しかない。一応、外に出てしまえば選択肢は広がるが、それではギャラリーに見つかってしまう。
俺は簡潔に提案を纏め、3人を連れて屋上へと…。
「ちょちょ!!」
「なんだ、まだ何かあるのか?」
「いや、そうじゃなくて! なんで背中向けて先に行こうとしてんだよ!?」
「ん? 時間が惜しいから??」
「そうじゃなくて! 俺たちが逃げるとか、背中から襲うかもって、思わないのかよ!?」
「あぁ、そのことか。好きにすればいいんじゃないのか?」
何かと思えば、実に下らない質問だった。つか、チャンスだと思ったなら、声などかけずに全力で逃げればいい話だ。まぁ『中堅なんてこんなもんだ』ってのは分かるが、それでも行動にイチイチ無駄が多くて腹がたつ。
「はぁ!?」
「無駄だよMe。コイツは、こういうヤツなんだ。頭イイ癖に、根っこは頭じゃなくて勘で戦う天才型。だから私らが逃げないって直感で理解しているし、そもそも私らザコなんて眼中にないから、逃げたって負け犬が吠えてるなくらいにしか思わないのさ」
「なにそれ、失礼しちゃうわ~。ま、あたってるけどね~」
才能だの天才だの、実にくだらない考えだ。Hiにとってのソレは『諦めるための言い訳』にすぎない。ともあれ、俺は基本的に、勝負を挑んできた者には敬意をもって接する事にしている。漫画の悪役のように主人公が育つのを待つわけでもないが、お互いベストを尽くせる状態で相対したいと思っている。
そんなわけで、道中の魔物を手早く掃除しながら、屋上へと向かった。
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