#309(7週目火曜日・夜・セイン2)
「やはり、これはやり過ぎだな。あの
画面端に表示したウインドの中を、勢いよく英数が流れていく。
「完全にアタリだな。あとは
表示しているのは座標データ。厳密に言うと別物だが、いわゆる"デバック情報"だ。それも、俺がいる場所ではなく、俺を監視していた道化師3人のだ。現在3人は、真っすぐ俺のいる座標に近づいている。これは『潜伏している3人の居場所がバレた』と判断して、合流もしくは挟撃を狙う動きと見て間違いないだろう。
今使っているツールは、もちろんBL。ただし、一般公開版ではなく、フルスペックの自警団専用モデル。コイツには各ユーザーが使っているBLの目撃情報(アップロードデータ)をリアルタイムで閲覧する機能がある。つまり、犯罪者に関わらず、IDを指定すればソイツの目撃情報が自動でリストアップされるわけだ。専用モデルなのでミニマップにアイコンが表示されるなどの親切なデザインにはなっていないが、それでもしばらく使っていれば、座標軸の変化で相手が何処に居るのか直ぐに分かるようになる。
これにより、Hi、Me、Luの3人が俺を遠巻きに監視している事はすぐに判明した。残りの3人は残念ながら捕捉できなかったが『捕捉できない』と言うヒントだけで居場所は大体予想がつく。この場合、考えられるのは3つで、
①、そもそも参加していない。
②、室内エリアなどの物陰に隠れて動かない。
③、意味は無いだろうが、広場の中央や山の頂上など、逆に目立つ場所に陣取って通りがかったPCが近づかない状況になっている。(解像度の問題でBLは近づかないと機能しない)
「しかし、便利過ぎて、これじゃあ勘が鈍るな…」
タワーハウスに入り、一直線に階段へと向かう。状況からして、下層階の部屋を確認する必要はない。3人が潜んでいるのは上層階、それも南東の角部屋だ。中層階以下では死角が多すぎて俺の接近に気づけない可能性がある。屋上なら見通しはいいが遮蔽物が無いので魔物と戦闘になり俺を見逃す可能性がある。方角は単純に立地の問題だ。エリアの北西よりに建っているタワーハウスなら南東の部屋を占拠すれば、ほぼすべてのルートを監視できる。もしHiたちも立て籠もりを選択していたら北西と南東をそれぞれ陣取っただろう。そして3人が2:1で分担して監視する可能性も現実的ではない。そんな事をすれば屋上に陣取るのと同じ、出現した魔物を対処する余力を確保できない。
「アイツラ、もう少し人目を避けて移動するとか、出来ないのか? いや、ナリフリ構っていられないってとこか…」
同じルートを巡回していた俺に油断したのだろう。Hiたちは盛大に出遅れてくれた。加えて、俺を追っていたギャラリーを途中で撒いたので、周辺はBLを使用しているPCの監視網が張り巡らされている。目的地は分かっているが、これで見失う心配はないだろう。
因みに、とりあえず第一候補のタワーハウスがアタリだったわけだが、いくらハルバDが広いと言っても格上の俺とやり合うにあたって、使える場所は限られる。結局どこに隠れても結果は同じだっただろう。例え、BLが無かったとしても。
道化師たちがとりえた行動を分析すると…。
①、そもそも挑発にのらず無視する。一応、メッセージで煽っておいたが、慎重な連中は不参加だったかもしれない。それでもSiと、煽りに面白いほど簡単にのったHiは来ただろう。
因みに、Siには『不参加だった場合、そのことはにゃんころ仮面に伝える』と言っておいた。普通なら意味のない忠告だが、ニャン子に入れ込んでいるSiには間違いなくクリティカル。皆が参加を拒否しても、なんとか参加させようと奮闘しただろう。
②、逆に挑発にのって積極的に俺のキルを狙うパターン。この場合は奇襲に適した場所に陣取って俺が通るのを待つか、囮を使って誘導しただろう。
しかし俺は、挑戦を無視して普通にアイテム収集に専念した。おまけにギャラリーも集まったので、この手は完全に封じた形となった。まぁ、挑んできてくれた方が手っ取り早くて助かるのだが、人目の多いところで堂々と
③、高度な柔軟性を維持しつつ(以下略)。参加はするが、決断は保留にして、状況に応じて能動的に仕掛けるか、逆に引き篭もって逃げ切り勝ちを狙うパターン。
正直に言ってコレが1番可能性が高く、もっとも悪い選択になる。こうなると参加はするが戦闘は消極的なSiと、好戦的なHiで意見が割れる。結果として今回のように戦力が分散してしまい、チャンスを掴み損ねる。
「(コンコン)入ってますか~」
「「 ………。」」
「いや、居るのは分かっているけどな。隠れるのはいいけど、このままじゃ距離を詰められるぞ?」
最上階、南東の部屋。特にドアがあるわけではないが、とりあえずドアをノックする素振りを見せて、隠れてやり過ごそうとしている道化師たちに声をかける。
「チッ! 余裕こいてんじゃねぇぞ!!」
次の瞬間、黒い影(Jk)が机の陰から飛び出し、それをソファーの陰に隠れていた緑(Si)と青(Tr)が援護する。
「十字砲火の形を作ったのはいいが、それなら前衛は要らないな」
そう言って片手で突進してくるJkを捌き、そのままTrからの攻撃を防ぐ盾にする。Siは低火力の魔法型なので、速度的にも火力的にも脅威にはならない。
「くそっ! 放せ!!」
「Jk、伏せろ!!」
先に仕掛けたのはTr。盾のない側にいるSiの方が仕掛けやすい局面だが、魔法は弓ほど正確な射撃は出来ない。仲間もろとも周囲攻撃で体力を削る手もあるだろうが、レベルで大きく負けている相手に、その作戦は愚策となる。考える時間は充分にあっただけに、そんな初歩的なミスは流石にしなかったようだ。
見たところ十字砲火はただのハッタリ。意識を分断させておいて、Siはバフや回復に専念する作戦ってところか。
「なかなか良い判断だ。狙いも、悪くない」
「余裕で避けながら言われても、説得力ないっての!!」
同士討ち覚悟で第二射を放つ青。矢のダメージは装備依存であり、レベルアップで殆どダメージが増加しない。最終的には極めても火力不足で行き詰まる将来性のない武器なのだが、しかしそれを返せば、味方に当たっても致命傷たりえない。それなら一か八かでも積極的に攻撃して俺が怯む可能性に賭けるのは悪くない判断だ。
とは言え…。
「この距離ではリロードの隙は致命的だぞ?」
「はや!?」
矢にあわせて、俺と組みあっているJkは回避にまわる。その瞬間、俺は完全にフリーとなる。狭い室内と言う事もあり、距離を詰めるのには一瞬の隙があれば充分オツリが来る。
こうして俺は、このまま立て続けに3人をキルして…、ここに向かっているHiたちを迎え打つことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます