#305(7週目火曜日・午後・セイン2)

「すまない、遅くなった」

「いえ、ボクも今来た…、ってことは無いですけど、港を見てまわっていましたので」


 昼過ぎ、野暮用を片付けてスバル"たち"と合流する。


「すいません、無理を言っちゃって」

「別にかまわないさ。それに、俺は特に手助けをするつもりは無いから、たまたま狩場がかぶったのと変わらない。礼を言うならニャン子だけで充分だろう」

「ははは、アニキは相変わらずだな」

「にゃんにゃん。兄ちゃんはスパルタだけど、なんだかんだ言って面倒見がいいのにゃ」

「そんなことは無い。助けるつもりは無いから、勘違いするなよ」

「「はいはい」」


 追加で集まったのは、ニャン子とSK、そしてナツキだ。平日の昼間なので流石にコノハは不参加だが、かわりにニャン子がそのサポートに入る。


 つまりは、昨日協力してもらったお礼だ。SKは一騎打ちだったが、ナツキの頼みは『助けてもらわなくてもいいから、同じ狩場に連れていってほしい』と言うものだった。養殖って話だったら断っていただろうが、同じ場所にいるだけなら問題はないし、何より何処で狩りをするかなんて個人の自由だ。あと、ちゃっかりSKが報酬を2重取りしているのは、まぁ、触れないでおこう。


「まぁいい。とにかく狩りをはじめるぞ」

「「はい!」」


 狩場は昨日に続いてハル島1。スバルはともかく、SKやコノハには完全な背伸びとなる。ニャン子がサポートに入ると言っても、何度かデスペナは貰ってしまうだろうが、それも経験なので助けるつもりは1ミリもない。今回、ニャン子は、あくまでサポートとして(スキル上げもかねて)サブ構成になっている。よって、ポジションは補助サポート兼ガイドでしかない。よって、こちらも養殖の形にはなっていない。


 まぁ、養殖ウンヌンは、あくまで俺個人のスタンスなのでニャン子にまでソレを求めるつもりは無いのだが…、コノハの頼みがソレであり、ニャン子もソレに同意した。それだけの話だ。





「それで、どれくらい距離をとるつもりにゃ?」

「え? カマイタチのですか??」


 狩りを開始して、早速PTリーダーであるナツキちゃんに行動方針を聞いてみる。


「ノンノン。兄ちゃんとの距離なのにゃ」

「え? えぇ!? い、いや、普通に、視界に入るくらいの距離でいいんじゃないですか?」


 案の定、面白いリアクションをかえしてくれるナツキちゃん。彼女は、兄ちゃんに好意を持っているのは確実だが、奥手と言うか、真面目と言うか…。とにかく、積極的にアプローチを仕掛ける素振りが無い。恋愛否定派の兄ちゃんには、あからさまなのもダメだと思うが、だからと言ってこれでは距離が遠すぎる。


「アタシとしては、できるだけ近くで戦っているところを見たいかな? やっぱ、参考になるし」

「あ! そ、そうよね!!」


 ナイスアシスト! 距離感で言えばSKちゃんがリードしているのだが、残念ながら彼女はあまり恋愛感情を意識していないようすだ。私としてはどちらでもいいのだが、アイちゃんのためにも、もう少し兄ちゃんには異性を意識してほしい。


 まぁ、一番いいのはアイちゃんに彼氏が出来る事なんだけど…、私もそこまでバカではないので、小数点以下の可能性にすがるつもりは無い。それなら、一桁でも、兄ちゃんが異性を意識するようになる可能性に賭けた方が、遥かに建設的だ。


 とは言え、私も恋愛に関しては全くの素人なので何ができるわけでもなく、その後は普通に狩りに勤しむ。




「ん~、やっぱり、アニキって凄いよな?」

「え? それはまぁ、確かにセインさんは凄いですね」


 3人がかりで、なんとか1体ずつ処理する横で(そこまで近くないけど)兄ちゃんが当然のようにタイマンでサクサク、カマイタチを倒していく。そんな姿を見て、SKちゃんがポツリと呟く。


「まぁ、兄ちゃんが十指に入る実力なのは確かだにゃ。逆に言えば、あれくらい強い人が他に9人もいるって事だけど…」

「うぅ、なんだか目眩が…」


 私もチート呼ばわりされることはあるけど、それでも実力はベスト100に入れたら良い方くらい。戦闘スタイルの相性もあるので、一概に実力だけで勝負が決まるものでもないが、それでも兄ちゃんに勝てる気がしない。


「早くアタシも、隣に並べるくらい強くなりたいな…」

「はは、私だって負けないわよ!」


 ナツキちゃんの意気込みも上の空に、遠くを見つめるSKちゃん。あれ? これってもしかして…。





「スバル、そっちの相手は頼む」

「はい!」


 カマイタチの相手をスバルに任せ、俺はフラフラと近づいてきた"カッパ"を対処する。


 当たり前だが、フィールドには様々な魔物が出現する。オープンワールドなので明確な境は存在しないが、基本的にはある程度片寄るように出来ており、低確率でユニークや隣接エリアの魔物が出張してくる。今回で言えば、街から近いのでユニークこそ出現しないが、同一エリアの"川"付近に出現するカッパがソレに該当する。


 加えて、ゲーム仕様で魔物の再出現には特殊な補正がかかる。非公開の仕様なのでハッキリとしたことは言えないが、ようはカッパを放置してカマイタチばかり狩り続けると、カッパが増えて逆にカマイタチが減るわけだ。よって、定期的に溜まっているカッパを掃除して、沸きをリセットしてやる必要がある。


「スバル、お前はコッチには近づくな。最悪、即死するぞ」

「わわ、はい!」


 カマイタチを処理して合流しようと駆け寄ってきたスバルを制止する。


 カッパは、カマイタチに比べれば脅威度はかなり下がる。ぶっちゃけて言えば海底神殿に出現する半魚人の魔物の亜種であり、対策さえしていれば未転生でも余裕で狩れるザコだ。


 しかし、問題なのは組み合わせの方。カマイタチが風属性の動物なのに対して、カッパは水属性の魚類。対策装備が噛み合わないので、どちらかに特化すると、もう片方が無防備になる。もちろん、解決策は幾つかあるが、それには資産が必要となる。いくらPTメンバーとは言え、無条件で装備を貸し出すほど俺は優しくないので、必然的に俺だけでカッパを対処することになる。


 まぁ、それでも低確率でニャン子たちの方にも出現するだろうが…、そこまで過保護に面倒を見る気はないので、その場合は自力で解決してもらう。


「よし、これでしばらくは大丈夫だろう」


 倒しても再出現するのでキリのない話だが、沸きのリセットだけなら溜まっているヤツを1度一掃すれば充分な効果がある。1人だったのでそれなりに時間はとられてしまったが、まぁ気分転換になったので良しとしておく。


「お疲れさまです、師匠!」

「あ、あぁ…」


 妙にニヤニヤした表情のスバルに、すこし引いてしまう。


「やっぱり師匠は師匠ですね~」

「何の話だ?」

「いえ、何でもありません。ただ…」

「?」

「昨日はわざわざ掃除しなかったのにな~って」

「 ………。」


 とりあえず、ニヤニヤ顔がムカついたので、頭を張り倒しておく。


「くっ…。あ、ありがとうございます!」




 なにが有り難いのか理解はできないが、午後はこんな調子で、淡々とカマイタチとカッパを狩って狩って、狩りまくった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る