#304(7週目火曜日・午後・セイン)
「ところで1つ聞きたいんだが…」
「ん?」
「スバルもそうだが、なんで俺と戦いたがるんだ?」
試合前、心理戦ではないが、SKに素朴な疑問をぶつけてみる。俺としても、スバルやSKとの勝負には得るものがある。それは当然、2人も同じだろう。しかし、1つ大きな違いがあるとすれば、それは勝つ見込みが低い点だろう。当たり前だが、負けたら悔しいし、強い相手と戦うならギリギリ勝てないくらいの相手の方が試合も白熱する。スバルはともかく、SKの場合は俺が本気を出せば一方的な試合になってしまう。それでは得られるものは期待できないはずだ。
「ん~、上手く説明できないけど、やっぱりフィーリングが合っているんだろうな」
「
「ほら、アタシって天の邪鬼なトコあるから、普通に教えられても素直に従えないって言うか。線路を引いてもらっても従わないから…。ん~、ごめん、やっぱ上手く説明できないや」
手を動かして何かを表現しようとするが、結局纏められなかった様子のSK。まぁSKは直感タイプなのでこんなもんだろう。答えこそ得られなかったが、SKの人となりは再確認できたので良しとする。
「なるほどな。まぁいい、始めようか」
「うっし!」
「それでは、両者かまえ…、って、お兄ちゃん、なにそれ?」
「なにって、[ヘビーメイス]だけど?」
「なんて言うか…、大きいですね」
俺が取り出したのは[ヘビーメイス]。その名の通り重いメイスだ。通常のメイスよりも2まわりほど大きく、何より…。
「まぁな。おかげで重量が50キロもあるから、まともに振る事さえ困難。本来は鬼族や巨人族用の装備だからな」
「50って…」
ステータスの補正でなんとか持てているが、物理演算が適用されるL&Cでは(ステータスが足りていても)重心の問題でまともに使えない装備がどうしても出てきてしまう。なので、例えばドワーフ系なら力に補正がかかるのでステータス的には持てるのだが、体格が小さすぎ(軽すぎ)て、とても戦闘には使えない状態になってしまう。
その代わり、攻撃力は凄まじく、クリーンヒットすれば防御ごと相手を1撃で粉砕する。下手に受け流そうとしても強力な慣性が装備の耐久値をゴッソリ削り取ってしまう凶悪な武器だ。まぁ、その慣性のせいで絶望的に切り返しができないので、対人だとデメリットが致命的過ぎるのだが…。
「ふふ、流石はアニキだ。ワクワクしてきたぜ!」
「だろうな。SKなら気に入ると思ったよ」
話はそれるが、スバルが何やら『そういうことじゃないんだよな~』みたいな顔をしている。打撃系武器が苦手なスバルだが、流石に[ヘビーメイス]は問題にならないようだ。ぶっちゃけ、対人戦では完全な死に武器。本来はゴーレムやタートル系などの鈍重な相手専用の装備だ。
しかし、L&Cにはセオリーを無視した変態殺法がいくつも存在する。たしかに物理演算ありきのリアル志向ではあるが、それでもゲームなのでステータス補正で可能になる不可能がある。まぁ、それでも流石にスバル相手では通用しないと思っていたが…、SK相手なら問題ないだろう。
「まぁいいわ、それじゃあ…、はじめ!!」
「いくよ!」
「 ………。」
「 …たーっ!!」
上段にメイスを構える俺に対し、大鎌で飛び掛かるように上から攻めるSK。しかし、俺はそれを最小限の動きで跳ね返す。「ギン!」と重い金属音が短く響き、SKが跳ね返される。
そう、重量装備の基本は、受け流しではなく、打ち返し。もとから細かな調整が出来る装備ではないが、それよりも正面から受けて耐久値を削るのが、もっとも確実な勝ちすじなのだ。
「それで終わりか?」
「ふっ、まだまだ!!」
打ち負けて跳ね返される感覚が新鮮だったのか、すこし目を白黒させるSK。しかし、すぐにギラギラした輝きを取り戻し、角度を変えて大ぶりな攻撃を仕掛けてくる。
しかし、そのことごとくを跳ね返して見せる。当然、ギルドホームの補正で耐久値は減少しないのだが、解除すれば即座に粉砕しているだろう。
「流石は師匠ですね~」
「やっぱり、すごいの?」
「もちろん、すごいですよ! 大ぶりな攻撃とは言え、あれだけ重いエモノを自在に操って、バランスを一切崩していないんですから!!」
徐々に小刻みな攻撃に切り替えていくSKに対して、俺はそのすべてを弾き返す。このメイスはダンベルを通りこしてバーベルを振り回すのと変わらない武器であり、取り回しは最悪だが…、重心を確り理解し、重心を極力動かさずに回転するよう動かせば、早い動きにだってある程度対応できる。そして、速度さえ追いつけば、あとは雑に扱っても圧倒的な攻撃力と耐久値でゴリ押せてしまう。
もちろん、[ヘビーメイス]は極端な例だが、これが重武器の基本であり、コレの扱いでいえば、アイの方が俺よりも凄かったりする。
「さて、そろそろ次のステージに行くぞ」
「へへ、そう来なくっちゃ!」
俺は、上段から一気にメイスを振り下ろす。最強の一撃ではあるが、必殺であるのは当たった場合のみ。当然、大ぶりの攻撃が当たるはずもなく、メイスは盛大に地面を叩いた。
「あぁ~。外れちゃったね」
「ここからですよ!」
一度接地した重量物は、持ち上げるのに姿勢を崩さざるをえなくなる。対人戦においてコレは致命的な隙であり、絶望的な状況だ。しかし…。
「もらった!」
「あまい!」
メイスを接地した状態で体と柄だけを動かして、鎌の猛攻を跳ね返す。
「へへ、やっぱりアニキは面白いな!」
「ふっ、褒めても…、はっ!! 足しかでないぞ」
「わわっ!?」
切り返しの隙をついて、思いっきり鎌の柄を蹴り飛ばしてやった。ダメージこそ入っていないが、体勢を崩すには充分だ。
打って変わって、今度はメイスの柄を軸に、体術で応戦する。仕様上、武器を手放すことは出来ないが、時には台に、時には身を守る障害物に、応用する手段はいくらでもある。
「さて、そろそろ集中力も限界だろう? そろそろ終わりにしよう」
バランスを取りながらメイスの柄に立ち、SKを挑発する。ぶっちゃけ、俺も慣れない武器で限界だ。
「よし、なら、これで…、どうだ!!」
SKが選んだのは、小細工抜き、助走をつけて飛び込みざまの上段一閃。ストレートに全力をぶつけてきた。
「流石だな!」
そう言って俺は、後ろに下がってメイスの柄から落ちるように下り、そのまま倒れ込む。SKの必殺の一撃が…、仰向けに倒れる俺に、正面から迫る。
次の瞬間、SKの大鎌が、俺の胸に、吸い込まれる。
「勝負あり! 勝者…、セイン!!」
「がぁ~!! あと一歩だったのに~」
「ははは、惜しかったな」
倒れざま、俺はメイスを巴投げの要領で蹴り上げ、SKの股間に直撃させた。勢いあまって鎌の一撃を貰ってしまったが、それでも先に規定のダメージを与えたのは俺であり、判定で勝者は俺となった。
「ふん! 惜しくないのは分かってるよ。最初から、アニキはコレを狙っていたんだろ?」
「ふっ、どうだろうな」
こうして、今日の手合わせはギリギリの差で、俺の勝利に終わった。とても対人戦を意識しているとは思えないロマン装備のぶつかり合いではあったが…、まぁ、上手く決まったので俺としては満足だ。
SKは…。
「あ~、まけた~!!」
盛大に悔しがっているが、表情はどこか晴れやかなので、良かった事にしておく。
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