#306(7週目火曜日・夜・Si)

「つかさ、ホント、意味わかんないよな?」

「そう? たしかに驚いたけど、私は面白そうだからOKかな? 皆も、そう思ったから参加したんでしょ??」

「「まぁな…」」


 夜、俺たちは、とあるPCの挑戦を受け、ハルバダンジョンに来ていた。


「それよりも、問題はヤツを倒せるかだ!」

「いや、だから勝利条件、理解してる? 逃げきるだけで勝ちなんだぞ??」

「はっ、なにダセーこと言ってんだ。逃げ切って勝つなら、はじめから参加してね~っつうの!」

「よく言った! もちろん、PKとして正々堂々、卑怯に戦うけど、売られた喧嘩は買わなくちゃな~」


 何を隠そう、挑戦してきたのは、俺たちのメインターゲットであるセインだ。そう、ターゲット自ら挑戦状を叩きつけてきたのだ。まぁ、正確に言うと、バトルロイヤルの勝利報酬が『挑戦"される"券』だったのだが…。


「とは言ってもさ、ここに居ますよ~ってアピールするのも違うだろ? ハルバDここはメチャクチャ広いマップだし、屋内エリアもOKだから、下手したらすれ違っている間に制限時間で勝っちまうぞ?」


 PKにはそれなりに覚えのある俺たちだが、今回のは状況がイレギュラーすぎて、未だに方針が纏まらない。セインが提示したルールはこうだ。


①、場所は広くて人が少ないハルバD、時間は20時から23時の3時間。


②、挑戦中、俺たち6人はダンジョン内を自由に行動できる。全員バラバラに隠れてもいいし、逆に全員でセインを正面から倒してもいい。


③、セインはD内の休憩ポイントでセーブして俺たちを狙ってくる。セーブポイントは無敵エリアだが、こちらも無敵なので、1人配置して監視する手も使える。それこそ、リスポーン狩りをしてセインをデスペナで裸にだってできる。(見合った戦闘力があればだが)


④、勝利条件は特になし。あくまでセインが俺たちをPKするって話だから、それこそ挑戦を放棄して別の場所に行くのもありだ。しかし、それは"敵前"逃亡にすらならない完全放棄、流石にそれはプライドにさわる。よって、実質的な勝利条件は『セインを返り討ちにする』で、妥協案としては『時間内までキルされずに逃げ切る』事となる。一応、逃げ切れば『トッププレイヤーのキル予告を失敗に終わらせた』と言う名誉は得られる。


 現在の時刻は19時。場所は無駄に高い貴族の屋敷(通称タワーハウス)の最上階。一応、ココならセインが来ても(複数人で監視していれば)先手をとられる心配はない。


「つかさ、普通に考えたら、すれ違って終わりなんだよな。監視担当の協力者がいる可能性もあるから動き回るのは危険だけど、小さな山や密林まであるんだ。協力者を数人連れてきたところで、俺たちを確実に捕捉できる保証はない。だろ?」

「「たしかに…」」


 ハルバDは地形を利用して建てられた要塞都市(人はもう住んでいない)で、敷地内には港エリアや各種人口施設、それに加えて自然の豊かな場所もある。ぶっちゃけ、普通に観光するだけでも1日潰れてしまうほどの広さだ。


「それってさ、場所を指定した本人は、もちろん気づいているよな?」

「だろうな。そうなると問題は、俺たちの位置を捕捉する方法か…」

「まてよ? これって、作戦通りに動いていたら、ヤバいんじゃねぇの!?」

「「あぁ…」」


 もちろん、俺たちも今の今まで何も話し合わなかったわけではない。一応、仮ではあるが大まかな作戦案は決まっている。その作戦は…。


①、セインのスタート位置を遠くから確認できる場所に陣取り、密かにセインを追跡する。


②、装備などを確認した後、囮をつかって強い魔物がいるエリアにセインを誘導する。


③、強力な魔物と共闘する形でセインを奇襲してキルする。


「なるほど、セインは俺たちが罠にかけようとしたところを返り討ちにする作戦なわけか。それなら、アレも納得がいく…」

「おい、アレってなんだよ?」

「いや、大したことじゃないんだが…、俺のところにフォロー外からのメッセージが届いていてな、一応読んでみたら、セインからだったんだ」

「マジかよ!?」

「「 ………。」」


 フォロー外メッセージとは、掲示板などのゲーム外で知り合ったユーザーや、ゲーム内ですれ違っただけの相手にダイレクトメッセージを送る機能だ。迷惑行為にも利用されかねない機能なので、閲覧はログイン画面のみで、通知を完全に切ることも出来る。


「あ、俺のところにも来てた! つか、マジで煽ってやがる。なにが6人がかりでも勝ち目は無いから全力で逃げる事をオススメするだ!!」

「あぁ、俺もそんな感じの文章だった」

「なんだ、そう言うことだったのか。ぶっちゃけちまうと、俺、Siが裏で情報を流しているのかと思ってた」

「ちょ! なんで俺がそんなこと!?」

「いや、だって、にゃんころ仮面の大ファンじゃん」

「あ、あぁ…」

「「ハハハハハ」」


 たしかに、にゃんころ仮面さんに頼まれていたら、俺は裏切っていたかもしれない。しかし、俺の知る限り今回の件に、にゃんころ仮面さんはノータッチだ。もちろん兄妹なので事情は把握しているだろうが、直接何か指示を受けることは無かった。まぁ、運営もあるのでセインとは軽くやり取りをしたが、そっちも特に何もなかった。むしろ、何もなさ過ぎて、今、対応に困っている状態だ。


「ハハ、まぁ、この調子なら大丈夫そうだな。疑って悪かったよ」

「いや、確かにその通りだ。改めて言うが、にゃんころ仮面さんにスパイを頼まれたなんてことは無いから」

「それならいいさ。俺は、ポイント稼ぎで、兄のセインに加担しているって思ってた」

「あぁ…」

「「おい!」」

「やめてよね~。その手もあったか~、見たいな顔をするのわ~」


 本当に、今さらそんな当たり前のことを指摘されて気づいてしまった。俺の中では何となくライバルみたいな感覚だったが、たしかに、にゃんころ仮面さんと親しくなるには、外堀であるセインに気に入られるのが近道だ。


「それより! 結局作戦はどうするんだよ!?」

「そうだった。このまま当初の作戦にそっていたら、返り討ちにあって笑い者だぜ!」

「いや、そもそも、作戦通りに行動して、なんで失敗することになるんだよ? セインの作戦だって、俺たちが考えた、ただの憶測だろ?」

「たしかに…」


 結局、ここで議論を尽くしても仮説の域を超えることは無い。しかし、時間は刻一刻と迫ってくる。一番ダメなのは、このまま結論を出せずに時間になり、グダりにグダって負けるパターンだ。


「みんな! とりあえず落ち着こう。まだ、慌てるような時間じゃない」

「そうね」

「現状でとれる手段は、大きく分けて3つだな。まずは当初の作戦通りコチラから仕掛けるパターン。あとは時間まで逃げまわるパターン」

「ちょっと! 逃げるのは嫌よ! 皆が逃げるのなら、私だけでも挑戦するんだから!!」

「よく言った! 俺も加勢するぜ!!」


 血の気の多いHiは、まぁそう言うだろうと思っていた。そして同じく血の気の多いMeがソレに乗っかる。


「あとは、チームをわけて、お互いの納得のいく行動をとるパターンだな」

「「 ………。」」




 その後も、議論はギリギリまで続いた。

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