#300(7週目月曜日・夜・SK)
「もらった!!」
「あまい!!」
「追い詰めたぞ!!」
「それはどうかな?」
「しまっ!?」
大勢のPCが入り乱れる乱戦。チームとしては6つに分かれているのだが、ルールが(L&Cとしては)かなり特殊なのも相まって、異様な雰囲気に満ちている。
「SK! そろそろクールタイム、あけるよ!!」
「よっし!」
「ははは、お姉ちゃんたち、元気だね…」
タイマーにあわせて喝を飛ばすナツキと、呆れた表情を見せつつも勢いよく飛び出すコノハ。
場所はギルドホームの特設バトルフィールド(林)。やっているのはリスポーンありのバトルロイヤル。自由同盟が定期的にやっているユーザーイベントと同じものだが、今回はアニキの声かけで急きょ開かれる事となった。
詳しいルールは覚えていないが、ようは時間内に多く相手をキルして、たくさんチケットを集めたチームが勝ちって事らしい。一応、単純にキル数で勝負が決まるわけではないようだが、そのあたりの計算や作戦は全部2人に任せているので、私は指示に従って相手をキルしたり、時間を稼ぐのが仕事だ。
「来たわね! 今度は負けないわよ!!」
「こりないわね。まぁ、嫌いじゃないけど」
「あ~ん、それ、私のセリフ~」
「??」
現れたのは赤と黄色、そして姿こそ見えないがどこかに隠れているだろう青の仮面のPC。そう、この大会には、敵対しているはずの鬼畜道化師も参加している。
「私は魔法防御に徹するから!」
「了解! SK、赤いのは任せたわよ!!」
「OK!!」
「させないわ!」
攻撃的な私たちに対して、相手チームの信号機トリオは引きながら中距離以上の距離を維持して戦うスタイル。基本と言える武器での打ち合いを根本から否定するスタイルにストレスを感じるが、ルール(逃げ回ってもキル数を稼がないと勝てない)や相性に助けられている事もあり、今のところ戦況は拮抗している。
正直なところ、こう言う気軽に死ねる(リスタートあり)ルールはあまり好きではないのだが、短時間にキルしたりされたりするのは互いに勉強になるので『たまにはバトルロイヤルも悪くないかな?』くらいには魅力が理解できて来た。
「そこ!」
「甘いわね!」
「つっ!?」
赤を捉えたと思った瞬間、死角から矢を受ける。とっさに顔を向けると、木の陰に青い残像が吸い込まれるのが見えた。
「コノハ! 青はあそこよ!!」
「OK!」
位置がわれた狙撃手は弱い。遠距離職が近距離に弱いのもそうだが、L&Cの仕様だと、矢はいなせばノーダメージ。魔法だって何かしらの回避方法が存在するので、柔軟な行動ができる対人では不意打ちを狙えない状況には途端に弱くなる。
青に狙いを定め、一気に距離をつめる。黄色がもし追いかけてきたら、今度はフリーになった赤をナツキが狙う手はずだ。やはり、L&Cの基本は前衛職の打ち合いだ。
「もらっ…、っ!?」
あと一歩のところで、視界が突然揺れ、不意打ちを受けたことを理解する。しかも頭部への打撃攻撃で、スタンまで入ってしまった。
「バトルロイヤルだってこと、忘れちゃいけないぜ!」
木陰から現れたのは白の杖、いや、魔法は使わない純粋な物理型なので
走馬燈ってわけでも無いのだが、迫りくる白の動きが妙にスローに見える。しかし、残念ながら体は動かない。どうやら私には、アニメの主人公みたく奇跡を起こして逆転するチートは持ち合わせていないようだ。
よかった。そういうズルは好きじゃないんだよね…。
「させるか!!」
「チッ! もう追いついてきたか!?」
やられたと思った瞬間、視界端をナイフがかすめ、今度は乱入で九死に一生を得る。
「チッ! 邪魔しないでよ!!」
「え!?」
「「 ………。」」
いけない、カッとなって、助けに入ってくれた焼き29さんに当たってしまった。
「えっと、ごめんなさい。熱くなっていて」
「あ、あぁ、そう言う時ってあるよな」
取りあえず謝っておく。本音を言えば手助けは大きなお世話なのだが…、ほどなくして県太郎さんたちや残りの道化師が合流する。6対6の状況で、いまさらタイマンだの仕切り直しだのを申し出るのも変な話だ。
「これで6対6ね!」
「くそ、仕留め損なったか」
人数としてはイーブンだが、参加PTの中では県太郎さん率いる元EDの3人が頭一つ抜けている。それこそ、3人だけで6人を相手出来るくらいだ。
「仕切り直すぞ! わざわざ強いヤツを相手にする意味はない!!」
「「おう!!」」
不利と見るや即座に撤退を選ぶ道化師たち。彼らの言う通り、ルールでは誰をキルしても得られるチケット数に変化はない。PKらしく、逃げ回って、倒せる相手を狙い撃ちするのが必勝法なのだ。
「すみません、助かりました」
「その、どうも…」
「いいってことよ! それで、追いかけるか?」
「その…」
「まぁ、深追いは、たしかに不利だからな」
逃げる道化師の背中を、あえて見送る。正面戦闘では有利なのはコチラだ。しかし、追撃戦となると速射魔法を交互に撃ち込んでくる相手が有利。さっきはそれで見事にやられてしまった。
「さて、それじゃあどうする? また分かれて各個で対処するか? それともローラー作戦でもやってみるか??」
「えっと…」
すこし考え込むナツキ。一応、PTのリーダーはナツキなので、そのあたりの判断はナツキに任せている。正直なところ、直情的な私が考えたところで足を引っ張る未来しか見えない。
「そういえば、皆さんは、どれくらい(チケットを)稼げているんですか?」
質問をするのはコノハ。コノハは冷静で、なによりゲームに慣れているのでアドバイザーとしては頼りになる。前のめりな私に対して、コノハは冷静で安全重視、ナツキはバランスといった感じだ。
「ははは、残念ながら全く稼げていないね」
「すぐに逃げられちゃうからな~」
「やっぱり、そうなんですね」
「まぁ、セインさんにもやり過ぎないよう、釘をさされているからな」
今回、3人は調整役と言うか、一方的な試合にならないよう中立寄りの立場となっている。一応、立場としては私たちの味方であり、先ほどのような局面では共闘するものの、私たちを勝たせるためにわざとキルを譲ってもらうような事は頼めない。まぁ、そういうズルは私もナツキも絶対にしないけど。(でも、コノハはやるかも)
「しかし、セインさんは、いつも急だよな」
「完全に、俺たちをパシリだと思っているよな」
「だな」
そう言いながらも、どこか楽しそうな3人。見ればナツキたちも苦笑している。気持ちは分からないでもないが、私としては全然OK。むしろ最初の段階から話に絡めなかったことが悔しい。それはつまり、アニキたちとそれだけの差があるってことだから…。
事の始まりは今日の夕方、突然アニキから『(今日の)夜にバトルロイヤルイベントをやるから出来たら参加してくれ』とメールが来た。一応、大会前にザックリとした説明は受けたが、相変わらず細かいことは指示されなかった。参加者は県太郎さんたちのPTと私たち、それに鬼畜道化師と(多分数合わせの)自由連合の人たち。
どう考えても道化師関連。ニャンコロさんが対応していたはずなので、その延長だと思うのだが…、肝心の『道化師をどうしたらいいか』の指示は一切なかった。まぁ、考えるのは苦手なので面倒な指示が無いのは助かるが『ちょっとくらい相談してほしかった』と思う気持ちが無いと言えば嘘になる。
「 …。…。」
「 …。では、また手分けして出会った相手を臨機応変にってことで」
「了解。まぁ、道化師の事は気になるが、折角なんだから楽しもうや」
「そうですね」
話し合った結果、ナツキが選んだのは別行動。流石はナツキだ。何だかんだ言っても馬が合う。効率とか難しい事を考える癖に、最後に選ぶのは理想やポリシー。お堅いところはあるものの、勝ち方に拘りを持つのは良い事だ。
結局、その後は散発的な戦いに勝ちはしたものの、チケット数で道化師に敗れる結果に終わった。当然、悔しくはあったが、それでもアニキに結果を報告したところ、普通に労をねぎらわれたので、多分、これで良かったんだと思う。
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