#298(7週目月曜日・午後・????)
「よっし! にゃんころ仮面に勝ったぞ!!」
「しかし、ランカーってマジでバケモノだな。まさかここまで粘られるとは」
「そのにゃんころ仮面だって、はじめから強かったわけじゃないわ。私たちだって頑張れば、いつかは…」
「それで、まだ回ってる?」
「あ、いけね。 …OK。撮影終了だ」
「ははは、最初はこんな事でって思ったけど、やってみると"八百長"でも達成感はあるな」
「「だな」」
強敵を倒し、張り詰めた緊張が一気にほぐれる。
「ふい~。お疲れさまにゃ~」
「うっす! お疲れさまです!!」
「えっと…、その、どうも…」
「「 ………。」」
そこに猫耳姿のPCが加わり、場は何とも言えない妙な空気に包まれる。そう、現れたのは先ほど倒したはずの元ランカー、にゃんころ仮面ことニャンコロ、その人である。
「私はまだ、認めた訳じゃないからね。協力したのは、あくまで手柄のためなんだから!」
「まぁまぁ、ヒィちゃん。理由はどうあれ、私たちに協力してくれているのは事実なんだから、お礼は言わなきゃだめよ。み、ん、な、も」
「ヒィちゃんゆうな! まぁ、その…、あ」
「「ありがとう、ございました」」「「 ………。」」
とは言え、6人は気が合ってつるんでいる者どうし。いつもの流れと思えるやり取りで、その場はなんとか落ち着きを取り戻す。
「そんなわけで、改めて紹介する。こちらが、6時代、ソロでL√のランキングにまで登りつめた拳闘士のにゃんころ仮面さんだ」
「よかったじゃん。憧れの人に会えて。前からファンだったもんね」
「ちょ! 赤、テメー!!」
一同が笑いに包まれる。場を仕切っているのは緑の仮面。そう、以前ニャンコロに協力を要請したSiである。
「ごめんなさいね~。私たち、いつもこんな感じなの。あっちの子たちも、まだ気持ちの整理が追いつかないだけだから。悪く思わないでやってちょうだい」
「「 ………。」」
「えっと、別に…、おかまいなく」
一歩引いた位置で黒、白、青の3人が素っ気ない態度をとる。しかし彼らも(作戦に納得のいかないものの)緑の呼びかけに応じてこの場に集まったわけで、一概にニャンコロを嫌っているわけではない。
因みに、何かにつけて噛み付いてくるのが赤の女性PC。荒っぽい性格ではあるが、唯一の女性プレイヤーとして、メンバーの参加率を引き上げている掛け替えのない存在。そして、オネエ言葉でそれをなだめる黄色の男性PCは、灰汁の強いメンバーをなだめる仲裁役となっている。
あと、初対面の相手を前に、みるみる勢いを無くしているのがニャンコロだ。
「それじゃあ、改めて、予定していたとおり、ここで会議を開いて意見を交換しようと思う。まず、ザックリこれまでの経緯を纏め…。…。」
①、かねてから戦力強化のためにランカークラスの実力者を募集していた鬼畜道化師商会。そこに名乗りをあげたのがEDの残党。彼らは商会の強化に協力するかわりに、狩場の安全確認やアイテムの補給などの協力をおこなう事となった。
②、勢力は順調に拡大していったが、組織が大きくなるにつれ残党の要求に私怨が混じるようになった。そのターゲットこそが、セインを中心とした派閥であった。
③、限度を超える要求に反感をもった緑が『残党は商会を使い捨ての傘程度にしか考えていない』証拠をおさえ、ニャンコロ、そして気の知れた古参メンバーに事情を打ち明け、今回の作戦へと至った。
④、ニャンコロの提案により、彼女はわざとPKされることとなった。
「気に入らないわね。そんなことをして、ランカー様に何の得があるのよ!」
「えっと、それは…」
「簡単な話さ! 俺たちが新入りにデカい顔されている状況を容認していたのは、頼れる相手がアイツラしかいなかったから。じゃあ、他にもっと頼れる相手がいたらどうだ?」
「それは、まぁ…」
「ぶっちゃけた話、EDの連中を売り渡したって痛くも痒くもなくなるんだよ。そのために、にゃんころ仮面さんは俺たちが結束できるよう、利害が一致する報酬を用意してくれた!」
今回の作戦の概要はこうだ。
ギルドホームの拡張機能を使い、既存エリアであるアルバの山脈のコピーマップを作成する。そこでニャンコロがわざと隙を晒し、商会メンバーにキルされる。これにより、ニャンコロにデスペナを科すことなく、キルされる映像を撮影できる。
この映像は、EDを選ぶにしろ、ニャンコロを選ぶにしろ参加メンバーのプラスでしかなく。つまりは離反者候補を集めるための"飴"となる。大々的にランカーを倒したことをふれ回るもよし、EDに実力を売り込むもよし、ニャンコロに協力するもよし。6人である程度方針を纏める必要はあるが、それ以外に、この作戦に参加するリスクらしいリスクは存在しない。
「いや、アチシは別に、手下が欲しいわけじゃなくて…」
「なるほど、ヘイト管理か!」
「「??」」
「そう、それにゃ」
そこへ、青がドヤ顔で推理を語る。
「上を目指す以上、ライバルに嫉まれ、蹴落とされるのは必然。しかし! そこで頻繁にキルされている映像が公開されたらどうだ?」
「あぁ、これ以上、無理してチョッカイを出す必要は無くなる!」
「そういうことだ」
「なるほどね。私たちはランカーをキルしたって手柄をえて、にゃんころ仮面さんは、ライバルに足踏みしていると思い込ませられるわけね。実際には、なんのペナルティーも受けていないのに」
「そうそう。それが言いたかったんだよ!」
そして緑も、その話に乗っかる。
「なるほどな。つまり、鞍替えしろって話じゃなく、してもしなくても演技の段階で得しているから、身の振りは各自自由に決めていいって話か! やっと理解が追いついてきたぜ!」
「えっと、そ、そうなのにゃ」
そしてニャンコロも『もう、それでいいや』と肯定していく。
「それでも! 私は納得いかないわ!!」
「「また始まったよ…」」
「たしかに私たちはPKよ! 卑怯でもフェイクでも、それで倒せるなら手段は選ばない! でもね、それは私たちが考えた作戦じゃなきゃ、意味がないの!!」
「たしかに、一理あるな」
「まぁ、ヒィちゃんの場合、実力差に腹がたって当たっているだけだけどね~」
「バラすなオカマ!!」
ドッと沸きたつ道化師たち。悪にも悪の美学があり、なにより個人の趣味嗜好がある。それが最善だとしても、従えない不器用な者は少なからず何処にでもいるものだ。
「ハハハ、それじゃあ、赤はどうするって言うんだよ?」
「それは…」
「やっぱり、考えなんてねぇんじゃねぇか」
「ぐっ…」
気まずい雰囲気が徐々に漂う。もとより答えのない問いかけであり、しかも事は既に起こしたあと。いかに反対をしても進めた針は戻らない。
「えっと…」
「「??」」
そこに、意を決してニャンコロが一石を投じる。
「だから、その…」
「「 ………。」」
「テレフォン!!」
「「はい?」」
ただし、別の人が。
こうして、収拾がつかなくなった話し合いは、別の誰かの手で纏められる形に終わった。
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