#292(6週目日曜日・午後・K2)

『ビンゴ! EDのブラウスと愚息蟲だ!!』

『焦るなよ。まずは相手の装備とスキル構成を見極めるんだ』

『完全にやる気だな。まぁ、全然OKだけど』


 林に身を隠す3人の黒い影。自警団が有するPKK部隊・K2が、ついに宿敵であるEDの残党、それも1軍メンバーを捕捉した。


『しかし、どうやって攻める? 相手はランカークラス。2人だけとは言え、ミスは許されないぞ』

『つか、応援を呼んだ方がよくね?』

『却下』

『だな。せっかくのチャンスだ。ここで一軍メンバーを2人もキルできれば、K1昇格も夢じゃない』


 Kの各部隊は、同じ組織であっても仲間意識は殆ど存在しない。その関係はあくまでライバルであり、団長も部隊間での連携を強制してはいない。一応、有力な情報やアシストでもポイントは加算されるので、相手によっては合同作戦もあり得るが、Kと言う組織のコンセプトはあくまで部隊個別であり、手柄を焦ってエモノを取り逃がしたところで罰則はない。


 なぜこのような形態になったかと言えば、それはもちろんスパイ対策だ。自警団は組織の形態上、誰でも気軽に加入し、情報を共有できてしまう。そのせいでEDにいいように出し抜かれ続けたことから、PKK専門部隊のKは完全な独立部隊として、各部隊が自由に動けるよう設計され、成果も出来高払いとなった。


『こっちも賛成だ。まぁ1人か2人はキルされるだろうけど、その分また養殖してもらえば、トータル黒字でしょ?』

『それ、キルされる確率高いのフロントだよね』

『どんまい!』

『くっそ、他人事だと思って』


 因みに、K2の彼らは6人PTをフロントとバックの2グループに分けて連携する戦法を主軸に据えている。例えば今は、フロントがターゲットを確認するために前に出て、バックはフロントに魔物が寄り付かないよう魔物のタゲを少し離れた位置から拾っているのだ。


『まぁいいじゃないか。行くなら、さっさといこうぜ。こんなチャンス、滅多にあるものじゃない。むしろ、刺し違えてでも強引にキルしに行くべきだろ?』

『たしかに。つか、日曜日の午後に、2人だけって奇跡だよな?』

『まさかイベントに参加しているってことはないよな?』

『流石にないだろ? むしろ、イベントに人が流れているのを良い事に、狩場に使えそうなエリアを確認して回っているんじゃないか?』

『なるほど、ありそうな話だな。よし! いくか!?』

『『おう!!』』




 フロントが注意をはらいながらジリジリと距離をつめていく。その間にバックが全力で逆サイドに回り込み挟撃の形をつくる。相手が誰であろうと関係ない。これが彼らK2の必勝の陣形なのである。


「チッ! そのこ黒いの、止まれ!!」

「申しわけないですけど、それ以上近づいたらPKと見なしますよ?」


 背後からギリギリまで距離をつめるフロント。しかし、相手はベテラン中のベテラン。背後への警戒を怠るわけもなく、10メートルほどの距離を残してあっさり見つかってしまった。


 しかし、それは珍しい事ではない。K2の戦法はワンパターンではあるものの、それゆえに洗練されている。


「あんたら、EDのメンバーだろ?」

「俺たちもPKを目指しているんだ。せっかくだから記念に勝負しないか?」

「見ない顔だな。俺たちの正体を知っても挑んでくるか? まさか、3対2なら勝てるなんて、思ってないよな?」


 あえて堂々と自身の目的を語るフロント。しかし、嘘こそついていないが、確り肝心なところは伏せて居る。もちろん時間稼ぎの意味もあるが、格上に対して下手な小細工は悪手となる。初心者やファンを装って近づこうものなら、逆に隙をつかれることとなっただろう。


「滅相もない。でも、上を目指すなら、体験しておいて損はないだろ?」

「そうそう。デスペナも授業料と思えば充分だ」

「まいりましたね。そこまで言われては、お相手しない訳にもいきません」

「はぁ~、しゃぁない。手加減は出来ないからな。勉強だって言うなら、せめて1分くらいはもってくれよ…、な!」


 愚息蟲が、ゴング替わりに不意打ちを仕掛ける。彼らはPKであり、卑怯こそが流儀。むしろ正面からいきなり襲い掛かる程度は"加減"と言って差し支えないほどだ。


「おっと! 流石はED、恐ろしく早い突きだな!」

「それじゃあ、遠慮なく、こっちも行かせてもらうぜ!!」


 愚息蟲の装備は、重めの短剣の二刀流。SP管理が難しいが、攻撃力と手数に優れた構成だ。ブラウスは一歩引いた位置からレイピアでアシストに徹する様子だが、レイピア型はスキルの自由度が高く、型の特定は難しい。つまるところ、愚息蟲が強引に押し込み、ブラウスがそのフォローをしつつ、隙あらば奥の手を…、と言った戦法に見える。


 対して、フロントは基本を忠実に守った構成だ。盾+鈍器が前に出て攻撃をさばき、それを杖装備のヒーラーが補助する。のこる1人はガントレットとショートソードで、防御的なアタッカーをこなす。基本的には捨て身でダメージを取りに行くが、ガントレットは盾と違って手の自由がきく。場合によってはアイテムを使って補助にまわることも出来るのが利点だ。


「あまい!!」

「ぐは!?」


 盾持ちが強引に距離をつめるが、回り込もうとするショートソードの動きを見て、愚息蟲はすかさず盾持ちを蹴り飛ばして距離を作る。


「おっと。二刀流だけじゃなく、足技も使えるのかよ!?」

「中にはタンクにハグさせて、動きを止めようとする、ヤツも! いるからな!!」

「つっ!!」


 3対2どころか、3対1でも押されるフロント。実力の差は明白であり、決着がつくのも時間の問題だろう。


 しかし、バックはまだ突入しない。移動もそうだが、相手が格上であればあるほど、挟撃が決まる確率は低くなる。ブラウスがサポートに徹しているのも、経験から伏兵を警戒しているのだろう。


『どうする!? このままじゃジリ貧だぞ』

『苦戦しているみたいだな。俺たちはいつでも突入できるぞ!?』

『くそ! 余裕をなくすどころか…、チッ! 喋っている余裕がねぇ!!』


 フロントも決して弱いわけではない。むしろ平均を遥かに上回っていると言えよう。しかし、それをもってしても実力と、なにより経験の差は埋められない。


『ダメだ! こうなったら一か八かでも総力戦で決着をつけよう!!』

『くっ! たしかに奇襲とか言ってられないな』

『よし! 人数減らされる前に、数で押し切るぞ!!』


 決意を固める面々。挟撃と言えば聞こえはいいが、少人数の戦闘では、挟み込む形をとっても前後が簡単に入れ替わってしまう。挟撃とは本来多数、それこそ複数のPTが入り乱れる大規模戦闘でこそ真価を発揮する戦法であり、ソロでの戦闘になれた相手に対しては、相手の土俵である乱戦とさほど変わらないのだ。それを重々理解しているK2は、挟撃を奇襲の一種と割り切っているのだが…、今回は実力差から、そこへたどり着くことも出来なかった。


「あぁ、そうそう」

「「??」」


 とつぜん手を止め、口火を切る愚息蟲。突然の事に一同が我を忘れて剣を止める。


「お仲間さんだけど、とっくに気づいていたから」

「「なっ!!」」


 一瞬にして空気が凍り付く。


『わるい、やられた』

『こっちもだ。動き出したところを持っていかれた』

『相手は2人だ。どうやら、別動隊作戦はお互い様だったようだ』


 一瞬にしてバックの3人がキルされる。彼らは攻撃と索敵に特化した部隊であり、本来ならば奇襲を受ける事はありえないのだが…、戦闘に参加していなくとも、意識は充分すぎるほど戦闘に引きずられていた。タイミングが悪かったのも大きいが、早い段階で気づけていたとしても結果は変わらなかっただろう。


「さて、それじゃあコッチも終わらせましょうか? どうです、勉強になりましたか??」

「「 ………」」


 ブラウスの言葉に、顔を見合わせるフロントの3人。少しの間をおき、3人は目配せのみで、この後取る行動を導き出した。


「「ありがとう、ございました!!」」


 こうして、フロントの3人もあっさりキルされる形で幕は下りた。




 彼らK2は…、自警団でもなく、PKKでもなく、いちプレイヤーとして負けを受け入れる結果に終わった。

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