#291(6週目日曜日・午後・K2)

「道すがらPKを狩れたのはいいが、今ので連中に見つかったってことは無いよな?」

「考えすぎだろ? それに、本当に連中が、この辺りに潜んでいるって確証もないわけだし」


 ひと気の少ないエリアを黒ずくめの6人PTが進んでいく。彼らの正体は、自警団の派生組織。通称"K"と呼ばれる部隊だ。


 以前の自警団の活動は検問や見回りがメインであり、一部では一般ユーザーの権限を逸脱した行為が問題となり、通報されることもあった。しかし、アバター判別ツール、通称"BL"の導入により、検問は簡略化され、メインはPKの抑止と団員の育成にシフトしていった。


「他の部隊の動きはどうだ?」

「今のところ、応援要請はきてないな。まぁ、手柄を立てるために隠している可能性もあるが」

「K1の連中に先を越されてさえいなければいいんだが…」

「それは考えても仕方のない事さ。いっそ、スパイでも送り込むか?」

「まぁ、あまりポイントに差をつけられるようなら、それも考えなくちゃな」

「 ………。」


 Kは複数の部隊に分かれて活動しているが、その実態は『ともに助け合う同士』と言うより『出し抜くべきライバル』に近い形となっている。その理由はシンプルで合理的、Kとしての活動にポイントを割り当て、成果に応じた報酬を自警団本体が支払っているからだ。


 Kに加入したメンバーの多くは『プレイ時間の問題でランキングや最速攻略を目指せない中堅』だ。彼らはKとして活動する報酬として自警団から経験値や活動資金を受け取っている。充分なプレイ時間を確保できない彼らは、どうしてもレベリングやクエスト消化が遅れてしまう。もちろん、実力は充分にあるので時間さえかければ最終的には(ランキング入りは難しくとも)ある程度の高見まで登ることは可能だろう。しかし、なまじ実力があるせいで実力に劣るライバルに攻略で後れをとることが我慢できない。それなら、別の道を目指すのも一興。幸いなことに、L&Cにはログアウトしながらでも経験値を稼ぐ方法があり、自警団は養殖と呼ばれる経験値獲得行為を行っている。


 つまるところ、彼らはPKを狩るなどの行為でポイントを稼ぎ、それを経験値や装備に換算しているのだ。そして、そのポイントの獲得ランキングに応じて追加報酬が発生し、さらに入手したレアアイテムの優先獲得権が得られる。Kのあとの数字は、定期的に更新されるポイントランキングの順位であり、若い数字を目指すのは単純な順位付けだけでなく、貴重な装備の入手にもつながるのだ。


「そろそろ目的の休憩所(ログアウトポイント)だ。もし、ターゲットを確認しても手柄を焦るなよ」

「わ~ってるって。3人以上だったら、手出ししないで撤収だろ?」

「それもあるが、まずは相手に見つからずにターゲットを確認するところからだ」


 Kのターゲットは、何を隠そうEDの残党である。EDはすでに表舞台から去っており、現状では無理に仕掛ける意味は薄い。しかし、EDの実力は確かなものであり、このまま転生させては敵対勢力化で自由に行動できるようになってしまう。それを抜きにしてもEDに何らかのペナルティーを科すのはポイント的にかなり美味しく、また6時代の個人的な恨みもあり、多くのチームがEDの残党を狙っている。


「タレコミの情報だと、このあたりなんだけどな…」

「ヤツラは用心深い。時間帯が合わなかっただけかもしれないが、他にも使っている狩場は、間違いなくあるだろうな」

「とりあえず、次の休憩所まで移動しながら目立たずレベリングできそうな場所がないか、チェックしてまわろう」

「「おう!」」


 しかし、EDの残党と言っても、残党なら誰でもいいわけではない。EDメンバーの多くはBLで判別可能だが、その多くはPKを引退あるいは一時的に自粛しており、中にはユーザーイベントで護衛役として堂々と姿をさらしている者までいる。いくら元EDメンバーであっても、PKをしていなければシステム的には非犯罪者。それを一方的にキルしてしまえば逆に指名手配される危険がある。


 なにより、重要なのはEDと呼ばれる悪徳ギルドを実際に運営していた幹部であり、すでに本体から切り捨てられた2軍以下のメンバーを狩っても意味がない。Kの狙いは、あくまでEDの幹部であり、過疎エリアで彼らをキルする事なのだ。


「そう言えば、その鬼畜道化師だっけ? その連中はキルしなくていいのか?」

「あぁ、そっちはパス」

「だな。派手に暴れているって言っても、われているのは捨て駒の新人ばかりで、肝心の幹部が判明していない。なにより…」

「「ポイントが低い!」」

「まぁアレだ。クチには出さないけど、団長は鬼畜道化師を泳がせておくつもりなんだろ」

「だな」


 自警団団長は、独善的で頭の固い人物だが、決して無能ではない。たしかに戦闘のセンスは無いものの、組織の運営力は確かであり、勝手な行動をとりがちなプレイヤーの特性を把握して、良くも悪くも自警団を大きくしている。結果として勇者同盟に目をつけられる事となったが、その勇者同盟も活動を自粛しており、目立った妨害は受けていない。EDと違って勇者同盟は、まだまだ健在なので油断こそ出来ないが、今や自警団の支持は絶大であり、ここから彼らを止めるのは容易なものでは無いだろう。


「しかし、流石に徒歩で探すのは効率が悪いな。いっそ手分けして探すか?」

「騎乗スキルはまだ無いんだから諦めろ」

「手分けはいいが、各個撃破されたら目も当てられないぞ」

「それに、騎乗は移動には便利だが隠密性は死んでいる。結局、捜索は地道に足で稼ぐしかないぞ?」


 現実問題としてL&Cのマップは広大であり起伏や遮蔽物もあるので、単独での捜索には限界がある。彼らもポイントにつられて不確かな情報にすがったわけだが、実のところ、効率はとてもいいとは言えないだろう。とは言え、やらなければライバルに先を越されてしまう。手柄だけならまだいいが、順位の変動は彼らにとって死活問題。LルートPCでありながらイベント攻略を進めていない彼らには、自警団から供給されるアイテムの数々はそれだけ重要なのだ。


「たく、めんどくせ~な。いっそ、堂々と移動して襲ってもらうか?」

「ふっ、それで勝てる相手だったらよかったんだけどな」

「ちげ~ねぇ」

「シッ! 誰かいるぞ」

「ここからじゃよく見えないな…」

「よし、慎重に近づくぞ。BLの有効範囲に入らない事には話にならない」

「うっし! 盛り上がってきた!!」


 描画距離ギリギリで人影を察知したはいいが、ここはゲームの世界であり、距離が離れてしまうと表示が簡略化され、BLでは判断できない。一応、アイテムやスキルに遠くを拡大表示するものは存在するが、残念ながら活動しているユニットは、拡大しても解像度は変化しない。つまり、近づくしかないのだ。



 こうして彼らは、怪しげなPCに近づいていった。

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