#290(6週目日曜日・午後・????)

「うっし! 2組目だ!!」

「3人相手でも、結構いけるもんだな」

「だな。下手に高レベルのソロを狙うより、PTでも初心者を狙ったほうがいけるな!」

「よし、さっさと(ドロップを)回収して移動しよう。最悪、さっき倒したPCが援軍を呼んでくるかもしれない」

「だな!」


 人気の少ないフィールドに、ドロップクリスタルを回収する2人のPC。そう、彼らはPKであり、たった今、3人PTをキルしたところだ。


 最近は自警団やBLの影響で、NPC狩りやPKの効率は落ちているが、もともとこの手の行為は効率など気にしていてはやっていられない。人によっては『Cルート=PK』と一纏めに見る者もいるが、レベリングとルート値集めを両立するのは困難であり、本来ならば『条件達成に必要なNPCを倒したら、転生まで犯罪はしない』のが定石となっている。そもそも、プレイヤーをキルしたからと言って得られるルート値にボーナスがつく事は無いので『PKは攻略から遠ざかる行為』と言ってしまっても過言ではないだろう。


「そこの2人。すこし話をいいか?」

「え? なんですか?」

「相手にするな。勧誘ならお断りします。それじゃ!」

「おっと、逃げようったって無駄だぜ?」


 突然現れた黒ずくめの6人PTが、手際よく2人を取り囲む。


 PKの2人は、内心でこう思った。『まずい。同業者に目をつけられた』と。しかし、その真相は真逆であった。


「お前たち、PKだろ? 悪いけどこのまま帰すわけにはいかない」

「な、なんですか。俺たち、このへんで普通に狩りしてただけですよ」

「そうそう。何か証拠でもあるんですか?」

「ぷっ。お前たち、なにも知らないんだな」

「「はい?」」


 黒ずくめの一団がニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる。


「最近、BLに自動通報機能が追加されたんだよ」

「「え?」」


 BLは、団員のアイディアと団長の投資で随時アップデートをくり返している。今回の『自動通報機能』は、犯罪者を自動判別する機能であり、犯罪者および犯罪経験者(犯罪は犯したが通報不成立にて犯罪者判定を回避した者)を自動でリストアップしてくれる。これにより、即座に行動できるようになったほか『ターゲットの視界に入ってもアウト』となりPKの難易度も跳ね上がった。


「まぁドライブレコーダーみたいなもんだな」

「目撃判定を持ったPCをキルしても、キルした事実はBLで自動共有される。お前たちを指名手配することは出来ないが…、これで俺たちは、自由にお前たちをキルできるって寸法さ」

「チッ! コイツラ"K"だ!!」


 得意げに語る一団。彼らの正体は自警団から派生したPKK専門部隊『アルバ警邏隊』であった。彼らは複数の班に分かれて活動しており、お互いをK1、K2などと呼称する。彼らをKと呼ぶのはソレが由来となっている。


「くそ! 警察のマネ事なんかして、ほんとキメー奴らだな!」

「つか、外部ソフトでPK根絶とか、何様だよ!? PKはゲームデザインの一部なんだぞ!」

「ふっ、その言葉、そっくりそのまま返してやる。抗う事もまたプレイヤーの権利だ。加えて、ゲームの規約に外部ツールに関する文言はない。まぁ、そのうち修正は入るかもしれないが、その判断を下すのはあくまで運営であり、お前たちではない」


 そう言ってKの1人が片手を掲げて合図を送る。その意味を知らない2人も『あの手が下りたら終わり』と直感的に悟っていた。


「やるしかないみたいだな…」

「勝てると思っているのか? こっちは6人だぞ??」

「ふっ。6人って言っても、勇者やランキングを諦めた素人だろ? 少なくとも、1対1なら楽勝な相手だ」

「だな。せっかく6人も居るんだ。最初に代表がタイマン勝負をするってのはどうだ?」


 実際のところ、自警団として活動する事は(クエストを消化する時間がとれないので)Lルート攻略を諦めるに等しい。いくら自警団の活動が評価されるようになったからと言って、それでランキングを目指せる実力者が何人も集まるとは考えにくい。


「安い挑発に乗るつもりは無い。コッチも暇じゃないんだ。話が終わったなら…」

「待ってくれ! その前に1つ聞きたいことがある!」

「 ………。」

「マンホールってどういう意味なんだ?」

「は?」

「いや、ホールが"穴"なのはわかるけど、じゃあ"マン"の意味はなんなんだよ?」

「お前、それはやっぱりマン…」

「隙あり!!」


 話術を利用して隙を作るのもPKのテクニックの1つ。しかし、決まったと思われた1撃は、寸前のところガラスのような壁に阻まれた。


「残念でした。PKを相手にしようって言うんだ、不意打ち対策くらいしているさ」

「くそ! バリアーなんてネタスキル!」


 Kが使っていた防御魔法は<ホーリーシールド>。効果は一定以下のダメージを1回だけ無効化すると言うもの。効果だけ見れば有用そうにも思えるが、無効化できるダメージ量が少ない上に、防げるのは1回のみで多段ヒットに対しても効果が薄い事から『限られたスキルスロットを割くのは無駄でしかない』と言われている。しかし、今回のような不意打ちや状態異常攻撃に対しては有効であり、実際には対人メタにカテゴライズされる魔法となっている。


「好きなように言え。それじゃあ、さようなら」


 そう言って掲げられた手が、ようやく振り下ろされた。その後の攻防は、語るに値しない一方的なものであった。


 しかし1つ補足するなら、KがBLの新機能を説明したことや、PKの策につき合ったのは、全てパフォーマンスであった。彼らの目的は、あくまで『PKの撲滅』であり、一時的な戦果ではない。だからこそ、抑止力としてBLやH以外にも戦力が揃っている事実を見せつけたのだ。


 いや、訂正しよう。彼らの目的は確かにPK撲滅なのだが、今回この場所に来たのは、他の目的があったからだ。




 そんなこんなで、自警団のPK対策チーム、アルバ警邏隊の1部隊が、人気の少ないフィールドを進んでいく。

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