#289(6週目日曜日・午後・セイン)

「そいえば兄ちゃん」

「ん? なんだ」

「いや、兄ちゃんは"IF"に挑戦するのかにゃって」


 昼、いつものようにギルドに集まると、ニャン子が今、最近話題になっているタイトルの話を持ちかけてきた。


「あぁ、多少興味はあるが、挑戦する予定はないな」

「兄さん、何の話ですか?」

「アイは知らなかったか。まぁL&Cとは直接関係ないしな。IFって言うのは…。…。」


 正式名称はたしか『インフィニティーファイターtype7Oタイプセブンオー』だったか? もしかしたらインフィニットファイターだったかもしれないが、ようはオンライン格闘ゲーム、IFシリーズのオープンアクションバージョンだ。それまでのIFは『VRの三次元的なアクション+2D格闘の操作感』を売りにしていたが、新しく第7世代VRのオープンアクションの規格を採用したラインナップが追加される事となった。


 加えて、IFの魅力には多彩過ぎる使用キャラが上げられる。既存の操作キャラもかなり多いのだが、加えてキャラの自作機能や、コンバート機能を利用して別ゲームで使っているアバターも使えてしまう。しかも、外見だけでなく装備や戦闘システムも含めてコンバート可能なのだ。版権的に限りなくアウトに近い上に、パワーバランスにも問題を抱えているが、IFの魅力はその闇鍋感であり、性能差の問題はルールや定期的な調整、戦績表示機能を駆使することで目立たなくしている。


 つまり、完全な別ゲームであり、アイが知らないのも頷ける話なのだが…、詳細が明らかになるにつれ無関係でない事が分かってきた。

①、コンバート目的で新規ユーザーが増えたり、逆にユーザーが離れる危険がある。全くの別ジャンルのゲームであり、コンバートしても元のアバターはそのまま使えるので共存は可能だが、プレイ時間の問題は避けては通れないだろう。(コンバート機能を利用してアバターの設定を吸い出しているだけで、元データはそのまま残るので、正確には変換コンバートではなく、複製変換となる)


②、アイテムの価格や戦闘スタイルの割合の変動。IFの対戦形式は『1対1』だけではなく『3対3』や『対モンスター』など多彩だが、対応した装備の価格が急騰したり、有利なジョブの育成が流行ったりする可能性が高い。特に1対1の対人戦はC√PCが得意とする分野なので関係性は高いと思われる。


③、オープンアクションの共通規格に対応しているため、非公式ながらリハビリシステムにも対応している点。俺としては、あくまでL&C1本に絞っていきたいところだが、研究結果によると対戦モノ、特に『命のやり取りをするタイトルの方が効果が高い』と言う研究結果も出ている事から、今後関わる機会が来るかもしれない。そうでなくても(非公式とはいえ)システムに対応している以上、完全に無視するわけにもいかず、軽く情報だけは集めている。


「なるほど。聞く限りだと、時間のかかるL&Cにユーザーが流れてくるのは考えにくいと思いますが」

「時間に関しては、レベルに補正がかかるから問題じゃないのにゃ。問題は装備とスキルツリーにゃ」


 L&Cは職業による装備やスキルの縛りが存在しないので、より自由なキャラメイクが可能となる。もちろん、それでも時間はかかるのだが、極めるのに時間がかかるのは何処も同じ。たしかにアイテム課金制ゲームだと、新規特典として強力な装備を大盤振る舞いしているところは少なくないが、一式そろえるとなると課金は必須となる。対してL&Cは、レベリングが大変なだけで装備の入手難易度はMMORPG内ではトップクラスに低く設定されている。それこそ、進行度が上がれば街から出ずとも露店で"わらしべ長者"しているだけで装備一式が揃ってしまう。まぁ、それでも定額課金のハードルは低くないと思うが…。


「もちろん、いきなり1万人くらいユーザーが増えるって話じゃない。IFもメインはあくまでコマンドアクションらしいから、流れてくるのは数百とか数千程度だろう」

「まぁ、そのくらいなら…」

「でも、IFの動画は人気だにゃ~」

「そうらしいな。L&Cもそうだが、玄人向けの難しいゲームは動画の需要も高い」

「ロールプレイの自由度が高いのも好印象だにゃ」

「それに、L&C既存プレイヤーなら、本当に片手間で挑戦できるのも魅力だな」

「あとあと、スキルとかは調整が入っちゃうけど、フリー対戦が出来るのも魅力だにゃ!」

「たしかに…。L&Cだとギルド員同士ならホームで対戦できるけど、フリー対戦をノーリスクでやる手段は存在しないからな」


 妙にクチが滑らかなニャン子。そう言えば戦闘スタイルも格ゲー型だし、もしかしてIF経験者なのか? むしろ、誘おうとしている?


「兄さん!!」

「ん? どうした?」

「え、いや、その、あ、そうです! 早く出かけましょう! 時間が勿体ないです!!」

「あぁ、そうだな。とりあえず移動するか…」


 どうやら俺も、少し浮かれていたようだ。正直なところ、IFに興味が無いと言えば嘘になる。まぁ、あくまで腕試しと言うか、興味があるだけだが、俺だってたまには他のゲームで遊んでみたいと思ったりもする。


「猫! 貴女は罰として留守番です!!」

「いや、何の罰なのかは分からないけど…、お留守番はOKなのにゃ」

「え? いや、その…」


 珍しく狼狽えるアイ。いつもの軽口を言ったはいいが、ニャン子が素直に従ったので着地点を見失ってしまったのだろう。


「その代わり、ちょっと頼みがあるのにゃ。じつは…。…。」




 こうして、俺はニャン子をギルドに残し、アイと二人でレベリングに出かける事となった。

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