#285(6週目土曜日・夜・セイン)
「ん? 悪い、メッセージが来た」
「はい、警戒はお任せを」
「ういうい」
夜、狩場に移動する途中でSKからメッセージが届いた。緊急アイコンもついていないのでスルーしてもいいのだが、もしかしたら焦って付け忘れただけかもしれない。ここは安定の既読スルーで対応しよう。
『私の名前、素顔っていうの。それだけ』
「なんだこれ」
「どうかしましたか? 兄さん」
「いや、まぁ、なんだろ?」
「「??」」
これって本名が
SKとはそれなりに気は合うが、今までプライベートの話をしたことは無い。性格から察するなら『ただの思い付き』って線が濃厚だけど、まさか身バレしたってことは無いよな? 俺はSKがモニター参加者だと知っているが、俺のリアルは(アイ以外)誰も知らないはず。アイが口を滑らすとは考えにくいし、なによりアイとSKには接点がない。
これだけ特徴的な名前なら、全国のモニター参加者のデータを確認すれば、特定は容易だ。つか、その気が無くてもそのうち視界に入りそうで怖い。しかし、俺が開発に関わっているせいで深読みしすぎている可能性も考えられる。案外、友達に『興味を示したら脈あり!』みたいなノリを押し付けられたのかもしれない。
よし! ここは安定のスルーだ。下手に深読みして墓穴を掘ってもバカらしい。それに、顔も知らない相手に恋するほど、俺も恋に恋していない。
結局『了解』とだけ返して、移動を再開した。
「そう言えば兄ちゃん」
「なんだ?」
「トイレなら気にせず行ってください。私たちも気を使いませんから」
先ほどから妙にソワソワしていたニャン子が、とうとう意を決して声をかけてきた。俺もアイも、早い段階から気づいていたが、正直興味がなかったのでスルーしていた。
「それだと、置いて行くって意味に聞こえるのにゃ」
「そうですね」
「お願いだから否定して!」
因みに、今回は少し趣向を変えてエレメンタルを狩ろうと思っている。エレメンタルは名前の通り精霊の魔物で、属性や魔法関係のアイテムをドロップする。出現率が渋いのが難点だが、金銭効率がいいグループに分類されている。
「「 ………。」」
「いや、だからね」
「「 ………。」」
つまり(レベリングついでに)アイのスキル育成用素材を集めに来たわけだ。まぁ、普段は同じことを考えたライバルとエモノを取り合う形になるので、効率は伸び悩むのだが、幸い今はイベント中。少しは人が流れているんじゃないかと思ったわけだ。
「聞いてます?」
「いいからサッサと言え。勝手に耳に入ってきた部分は聞いてやる」
「兄妹そろって、ほんと酷いのにゃ~。まぁでも、ちょっと気が楽になったから許してやるのにゃ。じつは…「もうすぐ目的地です」はう~~!!」
絶妙なタイミングの横やりをうけ、悶絶するニャン子。
この面倒くさいやり取りは、いつぞやの妹の話を思い出すが、流石にニャン子もあの話を蒸し返すほどバカでは無いだろう。話の内容が気にならないと言えば嘘になるが…、大体7割は気になっていない。
「あとで補給がてら、近くの休憩所によろう。話はその時でいいだろ?」
「にゃんにゃん。お願いなのにゃ~」
「キモ」
「ひど!?」
猫なで声がキモいと言うか『話が後回しになった』ことを喜んでいる素振りがウザい。デートの誘いでもないだろうし、勿体ぶる意味が分からん。
え? 違うよね!?
*
「出来る限りは頑張ってみるけど、ホントに勝てるかな~」
「ふはははは~。我のゆく道を阻める者なぞおらぬわ」
「まぁ、私は最・強、ですから、ワイバーンなんて8秒でぶっとばしてやりますよ!」
「もぐもぐ…」
エレメンタル狩りも一段落つき、近くの山小屋(休憩施設)に補給も兼ねて休憩に来ると、そこは想像を遥かにこえる賑わいを見せていた。
「うげ、なんなのにゃ」
「そう言えばワイバーンの出現エリアが近かったな…」
近いと言っても、もっと近い場所は幾つかある。まず間違いなく、混雑を避けて遠くの中継地点を選んだ連中だろう。今回のイベントで1番人気は、まず間違いなく竜系素材をドロップするワイバーン。しかし、竜系種族の中では最弱の彼ら?も転生前のPCには充分すぎる強敵。半端な実力では敵わないと思うのだが…、それでもここまでPCが集まると言うことは、対象エリアは大いに賑わっているのだろう。
「おい、アレ、セインじゃないか!?」
「ホントだ、にゃんころ仮面もいるぞ!」
「マジかよ!? ペアでワイバーンとか、ランカーまじでパないな!!」
早速見つかってしまった。つか、さり気なくアイが俺の陰に隠れていて内心で笑ってしまった。普段強気なので忘れがちだが、アイも何だかんだ言って人見知りなのだ。
とは言え、相手にする意味もないので、無視して山小屋に入る。入ってさえしまえば、そこは酒場と同じプライベートエリアなので有象無象に邪魔をされる心配はない。
「結構効率よくまわれたな」
「はい、これなら成果は期待できそうです」
「 ………。」
「「(面倒くさい猫だなぁ)」」
「おい、言いたいことがあるならサッサと言え。言わないと、外の連中にお前が手伝うって言いふらすぞ」
「ひど! そんなことされたら、みんなに頼りにされて、活躍し放題にゃ!!」
どう見ても喜んでいるようなセリフだが、これでも本人は本気で嫌がっている。
結局、なかば強引に聞きだす形で、俺たちはニャン子の話を聞くこととなった。
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