#286(6週目土曜日・夜・セイン)

「 …そんなわけで、道化師の離反をどうしたらいいかって話なのにゃ」

「なるほどな。まぁ好きにしたらいいんじゃないか?」

「そうですね。そちらは猫に任せて、私たちは2人きりで攻略を進めましょう」

「あれ? なんか思っていたのと違う反応が返ってきたのにゃ」


 キョトン顔のニャン子。いったい俺に何を期待していたのかは知らないが、俺としては、相手がニャン子を信頼?して声をかけてきた以上、ニャン子がそれに応えるのが道理だと思う。


「別に、自分の傘下に加えて顎で使うなり、俺にけし掛けて試すなり、好きにすればいいだろ?」

「えぇ~、兄ちゃんはそれでいいのにゃ??」


 話は少しそれるが、俺の計画には1つ誤算がある。先ほどの外での反応もそうだが、意外なほどに俺へのヘイトが上がっていないのだ。ランキングを意識しているベテラン以上のプレイヤーがリスクを避けて不干渉を決めこんでいるのは理解できるのだが、もっとこう、自警団のように噛み付いてくる層が出てくると思っていた。しかし、蓋を開けてみれば噛み付いてきたのは鬼畜道化師くらい。肝心の自警団も(表向きは俺を要注意人物に指定しているものの)一向に仕掛けてくる気配は無い。


 PKや妨害行為は、もちろん迷惑なのだが、ぶっちゃけて言えば合法的?にC値を稼ぐチャンスでもあるので『程々』に挑戦しにきてもらいたい。取りあえず転生条件は満たせているので、自分から能動的に動いて(稼いで)上位陣のヘイトを集めすぎるのは問題だが(侵攻イベントで注目を集めすぎた俺にとって)今の『道化師に邪魔されて(ルートではなく)ゲームの攻略が遅れている』と思われている状況は都合がいいのだ。


「俺を何だと思っているんだ。それより、時間が勿体ない。狩りの続きをするぞ」

「はい、行きましょう兄さん」

「ん~……」


 まぁ性格からして、ニャン子の本心は『俺に全部決めて欲しかった』ってところだろう。しかし、流石にそこまで脇道にそれていては前へ進めない。なにより、勝手な行動をとらないのはいいが、決断力が無さすぎるのも考え物だ。いや、言い換えよう。アイのように拒絶するか丸投げするか、ハッキリわかれていれば、それはそれで良いのだ。しかし、迷った挙句『報告するか』すら迷うようでは話にならない。


 相手にしても、男で、しかも格上の俺がしゃしゃり出てきたら立つ瀬がない。人を使う上で、もっとも大切なのは『個人の能力』ではなく『人との相性』なのだ。L&Cは所詮ゲーム。いくら能力や立場が適していても、そこにモチベーションがともなっていなければ、思いもよらないところで失敗する。その緑の仮面も『行動方針が気に入らない』と言っているようだが、ランカーを取り入れるところまでは同意していたわけで、結局『仕切っている連中(EDの残党)とソリが合わない』ってのが離反に行きついた根幹の理由なのだ。そこを勘違いして俺がしゃしゃり出ては、また同じことになりかねない。


「まぁあれだ。助言は他のヤツに伝えておくから、お前は好きにやってみろ」

「えぇ~、なんで直接アチシに言わないのにゃ~」


 いまいち納得していない表情だが、それでもニャン子は引き下がり、この話は一旦ここまでとなった。





「おぉ! セインが出てきたぞ!!」

「やった! これで勝つる」

「助けてエロい人!!」


 小屋を出ると、出待ちをしていたPCに囲まれた。コイツラはワイバーンを狙っていたはずなのだが…。何となく予想はついたが、全員通報して強制ログアウトを待つのも不毛なので、仕方なく話を聞いてやる。


「えっと、そこを退いてほしいんだけど…」

「それより! ワイバーンが"入り口沸き"して困ってるんです!!」

「お願いします何でもはしませんけど何でもしますから!」


 どっちだよ! と心の中でツッコミを入れつつも、とりあえず現状は把握できた。


 L&Cのマップタイプは"セミ・オープンワールド"となっている。つまり、基本的には明確にマップ境界が分かれていないわけだが、街や休憩所などは正規のゲートを通らないと実際の"中"には入れない。イメージとしてはギルドホームを想像すると分かりやすいだろう。各街のギルドホームエリアには各ギルドのホームが並列存在しており、外見は1軒にしか見えない。しかし(実際には攻撃できないが)これを外部からの攻撃で破壊すると、表面的には共通の外見を持つホームが破壊されるが、並列存在している個別のホームは無傷となる。


 イベントエリアも同じ構造になっており『既存のエリアの出現率をイベント期間中変更する』のではなく『別サーバーに用意した専用エリアに入れるゲートをイベント期間中設置する』形式を採用している。まぁそのへんの事情は不正対策だけではなく、プログラミングなどの大人の事情が絡んでいそうだが…、とにかく、イベントエリアには専用のNPCに話しかけないと入場できないのだ。


「あちゃ~、死んじゃったね~」

「無理無理ムリむり無理茶漬け! あんなの勝てっこないですよ!!」

「むきー! めちゃくちゃ難しいんですけど!? なんで足に当たっただけで死ぬかな!!」

「いただきます」


 そして、そのゲート近くにワイバーンが複数体出現して、コイツラでは処理できなくなったわけだ。


「なるほどな。まぁいいだろう」

「「おぉー!!」」


 コイツラを助ける義理は無いが、ワイバーンは(すんなり処理できれば)エレメンタルよりも稼げるわけで、しかもそれが手負いの状態で入り口付近に待機してくれているわけだ。それなら纏めて一掃しない手はないだろう。


「えっと、いいのかにゃ? 目立つことになると思うけど…」

「ゲート付近を掃除するだけなら問題ないだろう。思いついたこともあるし、折角だからイベント記念に参加させてもらおう」

「??」




 こうして俺たちは、成り行きでワイバーンを狩ることとなった。

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