#283(6週目土曜日・午後・ニャンコロ)

「一概に魔法と言っても、先行する属性でスタイルは大きく変わる。…。…。」

「「 ………。」」


 えっと、これはどういう状況なんだろう?


 あれから話は変な方向に転がり、なぜかSiが魔法について解説する流れになった。一応、彼は(変則的ではあるが)魔法使いであり、色々とアピールしたかったのか、突然現れた赤の他人、しかも敵陣営のPCに場を仕切られ、非常に居心地の悪い空気となってしまった。


「基本となる魔法は、4大属性すべてに存在しているが、威力や範囲をみると、この時点ですでに特徴が出てくる。……


・属性の特徴

  攻撃力: 射程 : 詠唱 : 拡散

火: 高 : 短 : 並 : 並

水: 低 : 並 : 並 : 広

風: 低 : 短 : 早 : 広

土: 高 : 並 : 遅 : 狭


火属性:有効な相手が多い事もあり攻撃魔法としては最も一般的。ただし補助魔法のバラエティーは乏しく対策に脆い。魔法使いを始めるなら先行して伸ばして間違いないが、対人戦では不安が残る。


水属性:癖の少い典型的な器用貧乏。火属性に有効なのでメタがハマれば強い。回復魔法もあるので、器用さから少人数PTでは重宝される。


風属性:補助が得意な反面、攻撃には向かない。単体では運用しにくいが物理攻撃主体のL&Cでは、手っ取り早い魔法対策と重宝される。


土属性:魔法でありながら物理判定も持っている特殊な属性。癖が強く、先行して伸ばすのは悪手と言われている。風属性に有効だが、基本は上位魔法の前提スキル扱いになっている。


 ……。ここまでで何か質問は?」

「「 ………。」」

「無いようなので次は…」


 淡々と解説を続けるSi。なんと言うか、メンタルの強さには感服する。


 因みに、皆が大人しく話を聞いているのは、私が判断を保留にしているからだ。もしアイちゃんなら…、当然Siは無視するとして、兄ちゃんならどうするか? 多分選択肢は2つだろう。

①、アイちゃんと同じで、相手にしない。不確定要素なのもあるが、あれで兄ちゃんは意外に非好戦的だ。動向(情報)は把握しておきたいだろうが、EDや勇者同盟が大幅に弱体化している現状で、あえてトドメをさす必要があるだろうか? この調子なら鬼畜道化師が分裂するのは時間の問題であり(後押しくらいはするだろうが)あえてそれ以外では使えない中堅プレイヤー集団を傘下に加える利点は無い。兄ちゃんの最優先は、あくまで『前に進むこと』であり、足踏みしてまで策略を巡らせるような迷走はしないだろう。


②、配下に加えて利用する。兄ちゃんは善悪や敵味方の意識が乏しい。加えて、自分が悪役になるのもいとわない。利用できるなら何でも利用するし、方法も全力で汚い。しかし、あれで意外にフェアプレイヤーなところがあって、本当につかめない。なんと言うか、悪というより悪魔的って感じだ。


 話がそれたが、つまり、すでにEDの2軍が配下にいるのに、この状態でわざわざ『EDの2軍より格下のPKグループを傘下に加える利点があるのか?』って話だ。普通に考えたら『面倒見きれないので情報だけで充分です』となるだろうが、そこはあの兄ちゃんだ。思いもしないような閃きで何かやってくれるかもしれない。


「えっと、ちょっとききt…「はい! にゃんころ仮面さん!!」お、おう。ここには専門の魔法使いはいないのにゃ。だから上位魔法の説明よりも、対人戦における魔法について聞きたいにゃ。その、緑ノ(Siの呼び名を知っているのは不自然なので見た目から緑ノと呼ぶことにした)や鬼畜道化師には、どんな魔法使いがいるのかにゃ?」


 ちょっとあからさますぎただろうか?


 念のために探りを入れてみる。一応まだ、分裂の話が嘘で、Siがスパイの可能性も残っている。すでにペラペラと重要な情報を漏らしているが、PKとして、自分たちのスキル構成を話すのは嫌がるだろう。


「なるほど。それなら任せてください! 俺の正確な戦闘スタイルは、拳闘士プラス風魔法。機動面に優れた拳闘士に速射の風を加えた型で、お世辞にも火力は期待できません。魔物に比べて耐久値が低い対人戦ならではですね。…。…。」


 流石に了承なく仲間のスキル構成は話せないようだが、あいかわらず自分の構成は(自称)包み隠さず話してくれるSi。いったい、何がそこまで彼をそうさせるのか? EDの残党にそれだけ恨みがあるのだろうけど、それにしたってPKとしては致命的なほどオープンだ。


 あと、一応補足しておくと、Lルートプレイヤーには正統派の魔法使いが多いのに対して、Cルートには変則的な魔法使いが多い。効率だけ見れば間違いなく悪いのだが、スキル取得条件がギルドやクエストに縛られないこともあり『意表をつく奥の手』としてだけでなく、ゲームを楽しく続けるエッセンスとしてスロットをさくことも多い。




 その後は、講義を一通り聞き『返事は後日』と言う事でSiと別れた。つまりは、結局判断をくだせなかったのだ。相変わらず、優柔不断で断れない自分の性格が嫌になる。とは言え、なにも私1人で決める必要はない。


 確実なのは兄ちゃんに相談する手だが、それはそれで何か怖いものがある。それこそ、正式にSiが私の部下になったりしたら、間違いなく私の胃は死ぬ。ここは、口裏を合わせる意味も込めて、居合わせた4人の意見も聞いておくべきだろう。(最悪、全て無かったことにしよう)


「やはり、怪し過ぎます。受け入れる利点も魅力を感じませんし、相手にするだけ無駄でしょう」


 ナツキちゃんは相変わらずと言うべきか、常識人なのに好戦的。(ぶっちゃけツンデレ)完全に拒絶ムードで『取り付く島もない』と言った雰囲気だ。


「でも、なにか利用できるかもしれないし、もう少し話を聞いてもいいと思うよ? 裏切られても、割り切った付き合いをしていれば被害は出ないだろうし」


 対して妹のコノハちゃんは、ゲームとして駆け引きを楽しんでいる感じだ。たぶんそのあたりの感性は、1番兄ちゃんに近いのかもしれない。


「でもでも、やっぱり師匠に相談するのが1番だと思いますよ! ボクたちが変に気を使って拗れさせても困りますし!」


 そしてスバルちゃんは…、相変わらずの忠犬っぷりだ。これほど愚直だと色々と心配になるが、これでも人を見る目はあるらしく、なにより勘が鋭い。普段は過疎エリアを一人でぶらつき、幾度となくPKを返り討ちにしている。兄ちゃんは彼女の事を『体育会系の戦闘狂』と思っているようだが、普段の温和な性格とは裏腹に、たしかにそんな一面も持っているのだろう。


「ん~、よくわかんないけど、アタシもアニキに相談するのに賛成かな?」


 最後にSKちゃんがアクビ交じりに意見を述べる。彼女の場合は根本的に興味が無いようだ。スバルちゃんと同じ戦闘狂だが、こっちはスイッチが入った時だけ力が出る気分屋タイプとなっている。


「なるほどにゃ。みんなの意見はよくわかったにゃ!」


 どうしよう。三者三様すぎて全く参考にならない。しっかり自分の意見を持っているのは羨ましいと思うが、今はそんなの求めていない。願わくは、意見が偏ってほしかった。まぁ1番ダメなのは、間違いなく私だけどね!




 結局、私は多数決で『兄ちゃんに相談する』案を採用した、のだが、多分、話を切り出すのは、もう少し時間をおいてからになるだろう。ほんと、優柔不断でごめんなさい!

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