#277(6週目金曜日・夜・ニャンコロ)

「アイにゃんは、学校の友達と何処かに遊びに行ったり、放課後に寄り道とかしないのかにゃ?」

「はい? いきなりなんですか猫」


 夜、私はアイちゃんと2人で、素材集めをかねてサーラムにゴーレム狩りに来ていた。因みに、兄ちゃんは今回不参加。魔人の街でアイテムを交換しているので手伝うことも出来ず、仕方なく素材を集めに来たわけだ。


「ほら、アイにゃんも生JKなんだし、友達付き合いとかあるんじゃないかにゃって」

「ナマって…。学校が終わった後に、なぜ学友に貴重な時間を浪費しなければならないのですか? そもそも、貴女こそ人のことを言えるのですか?」

「 …あぁ、すんません。アチシも帰ってゲームしていたクチだったにゃ」

「「 ………。」」


 早速会話が無くなってしまった。前はブラコンのアイちゃんをお膳立てすることで上手く取り入ったわけだが…、アイちゃんのブラコンがガチすぎて、本気で心配していたりする。流石に、アイちゃんが彼氏を作るとは考えられないけど、せめて同性の友達、それもリアルの友達と過ごす時間を増やせたらと思ったのだが…、ボッチに関しては人のことを言えた義理は無い私に、的確なアドバイスを送るすべはない。


「ザコ相手に、退屈なのは分かりますが、私語は感心しません」

「うっす。がんばります」


 3メートル近くあるゴーレムをザコと割り切るアイちゃん。確かに大ぶりで回避しやすい相手ではあるが、それでも1撃は即死級。一般的には強いグループに分類される。それを本気で退屈と思っているあたり、やはり兄ちゃんの妹だ。


 しかし、兄ちゃんも兄ちゃんだ。彼が兄として毅然とした態度で接していれば、ここまでブラコンが拗れることは無かったはず。実の兄妹ということで、幼いころからアレが当たり前と思って育ったのは理解できるが、それにしたって鈍感と言うか、結構モテる癖に、本人は『自分はモテない』と思っているきらいがある。


「 …早速1つですね。やはり大物は纏めて処理できない分、効率が悪いですね」

「にゃんにゃん。魔法使いが恋しくなるのにゃ」

「逆に言えば、魔法使いはそれくらいしか必要性は感じませんけどね…」

「だにゃ」

「「 ………。」」


 いちいち会話が止まるが、これでもアイちゃん的にはデレている方。普段は話しかけもしてこないのが当たり前であり、私が知る限り、これ以上親密になった相手は存在しない。


 あ、そう言えば…、なんかライバル的な相手がいたんだっけ? まぁ、友達とは言えないだろうけど、ギャルゲー的にはライバルポジションも立派な攻略候補(ゲーム脳)だ。つか、どうせライバルって、成績的な意味じゃなくて、恋のライバルだよね? アイちゃんがそこまで他人を意識するのって、それくらいしか思い浮かばない。


 恋のライバルと言えば、兄ちゃんが彼女を作るのも1つの解決策だ。今、1番親密な異性と言うと、やはりネナベ(女性が男性キャラを演じる事)のスバルちゃんだろう。前から彼女は応援しているのだが…、なんだか最近は師弟の関係に落ち着いてしまっていると言うか、積極的にアプローチしようとする気概が無くなってしまった。兄ちゃんもネナベに気づいていないみたいだし、あまり進展は期待できないかも?


 あと、仲の良さだけで言えばコノハちゃんだろう。一緒に行動することは無いが、地味に裏でSNSのやり取りを欠かさない。しかし、当人たちは兄妹の感覚が強いと言うか、姉のナツキちゃんに譲ろうとする意志が感じられる。


 ナツキちゃんは、恋愛意識は強いようだが、イマイチ押しが弱いと言うか、アイちゃんと同じで肝心なところで尻込みしてしまうところがある。恋愛感情も『頼れるお兄さん的な存在』に憧れている感じだし、そういう意味では結構似た者同士だと思う。


 あとは出会って日が浅いけど、意気投合しているSKちゃん。彼女は間違いなく好意は持っているだろうけど、残念ながら恋愛感情は殆ど感じない。でも、逆にそれが良いのかも? コノハちゃんもそうだけど、兄ちゃんは恋愛否定派であり、はじめから異性としてアプローチするよりにも、友達や妹のポジションから攻める方が勝算があるように思える。


 総合的に考えると、やはりスバルちゃんが一番可能性が高い。アバターが男性なのは考え物だが、転生すれば性別は変更できるし、性癖が拗れているだけで好意自体は本物。背中を押してあげれば、案外一気に好転するかも? 次はSKちゃんだけど、残念ながらまだ肩を並べるには実力不足。才能は有るので、今後もチャンスがあれば(色々な意味で)応援しよう。


「ハァーイ(そこの)女性PC」

「「 ………。」」

「オー、聞こえなかったかな? そこの2人だよ」


 すると、明らかに不審なPCが声をかけてきた。ピエロ風の姿にオーバーな手ぶり。どう考えても鬼畜道化師なのだが…、あからさますぎて逆に本人たちなのか怪しくなってくる。つか、私たちが誰だか知らないの? いや、気づいていないんだろうな。6時代は、私も注目を集めていたが、今は兄ちゃんのおかげで(分かりやすい格好にもかかわらず)目立たずにいる。猫耳は人気装備なので装備人口自体は多い。多分、何処にでもいるペアPT程度の認識なんだろう。


「 ………。」

「えっと、お構いなくなのにゃ」


 気づいていないわけではないだろうが、相変わらずのガン無視スタイルのアイちゃん。普段から私も酷い扱いを受けているが(兄ちゃんも含めて)私は今の環境をすごく気に入っている。誰かさんと違って私にMの気は無いが、頼ったり頼られたりするのが重いと感じてしまう私には、これくらいの距離感が1番ありがたい。


「まてや! もうちょっと聞く耳も持とうな? 悪いことは言わない、そっちは危ないから、こっちにおいで」

「「 ………。」」

「チッ! 仕方ない、予定は狂ったが、このままやっちまうぞ」

「しゃ~ない。そうするべ」

「く~、腕がなるな」


 無視して進もうとすると、木陰からゾロゾロと仮面装備のPCが現れた。どうやら、私たちが誰なのか分かった上で襲撃をかけてきたようだ。




 こうして、鬼畜道化師商会とのバトルが始まった。

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