#278(6週目金曜日・夜・ニャンコロ)

「残念でした。こっちは通行止めだ」

「まぁ、前も後ろも、通行止めなんだけどな」


 木陰からゾロゾロと現れたのはドクロ柄の仮面のPCたち。PTにスカウトが居ないと、このように死角を使って包囲される。とは言え、相手は4人と1人(最初に声をかけてきたPC)、あと3~4人くらいなら増えるかもしれないが、それでも私だけなら余裕で突破できる程度の包囲だ。もちろん、タンク役のアイちゃんを置いて逃げるつもりは無いが…、さて、どう料理したものか。


「あれ? ちょちょ!」

「なんだコイツ。俺たちが見えていないのか!?」

「いや、だから待ってって!」


 と、考えている私がバカみたいに思えるほど、アイちゃんは平常運転だった。木陰から現れた4人を無視して、そのまま真っすぐ進む。4人も困惑しながら物理的に道をふさいて応じる。


「進路妨害です。直ちに退かないと、通報しますよ」

「ちょ! 通報しながら言うなし!!」

「つか、俺たちPKなんだって! 進路妨害もそうだけど、その前に命をだね…」

「それなら、口よりもまず、武器を動かすべきなのでは?」

「「え? あ、あぁ…」」


 完全によくわからない空気になってしまった。実際、アイちゃん的には、有無を言わさず襲い掛かってこない時点で『脅威』とは認識していないのだろう。実際、コイツラの襲撃は、マニュアルをなぞっているだけ。もし相手がランカークラスなら、奇襲攻撃のチャンスを逃してまで包囲する事に拘ったりはしない。


「お前たち、悪いことは言わないから諦めるのにゃ。実力もそうだけど、アチシたちに喧嘩を売ったら、それこそ取り返しがつかなくなるのにゃ」


 取りあえず、おずおずと構えるドクロたちに最終警告だけはしてあげる。これで引いてくれるとは思わないけど、無駄な争いは極力避けたい。別に、勝つ自信がないわけではないが、変に逆恨みされても後が面倒だ。


「おい、コイツラもしかして、セインの妹じゃね?」

「え? まじで!?」

「にゃんと、気づいていなかったのかにゃ。そうです、アチシたちが、セインの妹です」

「チッ! 猫が、調子にのって」


 私が妹を名乗るのが癪に障るのか、アイちゃんがPKよりも禍々しい殺気を向けてくる。だが、それをいちいち気にしていたら、このギルドではやっていけない。しかし、私たちの正体を知った上で仕掛けてきたのだとばかり思っていたが、どうやら違ったようだ。そう言えば…、私たちってBLのリストに載っていなかったし、イベントでも兄ちゃんとは別行動。意外に顔は知れわたっていないようだ。


「マジかよ!? 大物じゃん!」

「にゃんころ仮面さん!」

「え? はい」

「ファンなんです! フレンド登録してください!!」

「ちょ、おま、ズルいぞ! 俺も俺も!!」

「えっと…、ごめんなさい」

「「がーん!!」」


 なにこの空気? いや、6時代は度々あったけど、まさかPKにまでフレンド登録を迫られるとは思わなかった。と言うか、もっとガチなPKギルドだと思っていたのに、蓋をあけたらC√らしい砕けた連中だった。フレンドになりたいとは思わないけど、最初の嫌悪感は、かなり薄れていた。


「おい、お前ら、仮にもターゲットなんだぞ。ふざけるのはいいけど、自分たちがPKであることは忘れるなよ」


 そう言って木陰から現れたのは、緑の仮面のPC。


「ハハハ、硬い事言うなよ。初心者だと思って仕掛けたら、大物だったってのはよくある事だろ?」

「お前、さては気づいていてわざとやったな…」


 雰囲気から察するに、最初に声をかけてきた紅白のスタンダードなピエロと緑のピエロが保護者で、あとの4人が育成中の新規メンバーと言ったところだろうか。


「フフフ、そんなわけで、悪いが新人教育も兼ねて、胸…、じゃなくって、おっぱいを貸してくれないか?」

「いや、胸であっていたから」

「いいじゃないか別に、貸してもらえるなら、ぜひ貸してもらいたい」

「「 ………。」」

「うわっ、お前のせいでマジで引かれたじゃないか! つか、むこうの方がヤル気なんですけど!?」


 どこまで本気か分からないが、ピエロとしてとことん道化を演じてくるようだ。私も下ネタには軽く嫌悪感を感じたが、アイちゃんは既にキレている。非常に分かりにくいが、彼女の場合、キレると(無関心ゆえに)相手に向けられていなかった意識が殺意の形で相手に向けられる。結果として(普段と変わらないが)容赦なく相手をキルする殺戮マシーンになり(やっぱり普段と変わらないが)相手の話も聞かなくなるので心理攻撃なども通用しない。つまり、平常運転だ。


「おっと。いきなり仕掛けてきやがった。しかし、そんな重斧で、対人戦が務まるとでも思っているのか?」

「ほらよ! 脇がガラ空きだぜ!!」

「っ!!」

「今度はコッチだ。のろま!」

「くっ!!」


 真っ先に仕掛けるアイちゃん。しかし、彼女をただのタンクと侮ってはいけない。キレていても、そこは兄ちゃんの妹。正当防衛を成立させるために、わざと当たりもしない攻撃を空ぶって隙を晒し、PTメンバーである私が心置きなく戦えるように(正当防衛判定はPTで共有される)舞台を整えてくれたのだ。(たぶん)


「そいつはタンクだ! 先ににゃんころ仮面を仕留めろ!!」

「「うっす!!」」

「しかたないのにゃ。キルしちゃうけど、逆恨みだけはしてほしくないのにゃ」

「戦う前から勝ったつもりか?」

「元ランカーだからって、調子にのっていられるのも今のうちだぞ!」


 お膳立ても貰ったので、ここは活躍しないわけにはいかない。紅白と緑は高みの見物のようだが、私も元ランカー。頼られるのは苦手だが、しっかり戦えるってところはアピールしていかないと、いつも失敗している八平ポジションだと思われてしまうからね!


「にゃんころ仮面は速度と手数を武器に戦うナックル使いだ。カウンターに気をつけろ!」

「「うっす!」」

「そこだ!」

「甘いのにゃ~」

「ナックルの利点は隙の少なさだ。大ぶりな攻撃は控えて、細かく攻撃してスタミナを消費させろ!」

「「うっす!」」


 さっきから、緑のアドバイスが、本当にウザい。わざと聞こえるようにオープンで言っているあたり、心理攻撃も狙っているのだろう。とは言え、この程度で後れをとってもいられない。こう言うのは相手のペースに呑まれたら負け。指示による改善は、所詮ツケヤキバ。大事なのは『場の空気』なのだ!


「くそ、ちょこまかと!」

「まて、この!」

「甘いにゃ!」

「のあ!?」


 囲まれないよう逃げる素振りを見せ、追ってきたところを逆に近づき懐に入ってしまう。相手の武器は、リーチと攻撃速度を重視した軽量の片手剣。間合いの外が安地なら、ワンインチも安地なのだ!


「くそ! これでも食らえ! しまっ!!」

「なっ! 仲間を盾に!?」


 懐に飛び込み、そのまま攻撃…、は、しないで、あえて密着状態から無理やり位置を入れ替え、追撃を肉壁で凌ぐ。いくら目の前の相手は攻撃できないと言っても、ほかのヤツは攻撃できる。むしろ他のヤツには背中をさらしている状態。それでは刺し違えることは出来ても、全員返り討ちには出来ない。打開策はそう、相手の攻撃も利用してしまう事だ!




 取りあえずザコは、なんとかなっているが…、はたして残りの2人の実力やいかに。

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