#272(6週目木曜日・午後・セイン2)

「いいだろう。ただし、言うのはソッチが先だ。お前の情報が面白いものなら、教えてやろう」

「そうですね…。セインの交友関係とかどうでしょう? あと、侵攻イベントでの裏話とか、組織関係とかもありますよ」

「なんだよ、結構知ってんじゃん」

「よし、全部言え。なんだか面白そうだ」

「いやだな~。全部は欲張り過ぎですよ。1つだけ。あ、じゃあこうしましょう。最初に1つ教えるので、そちらの話を聞いたら、また1つ教える。これでどうですか?」


 セインを探す謎のPC3人。俺は同じ顔の別人に成りすまして対応する。コイツラの目的は、ハッキリ言って分かり切っている。キルしないのは、情報の裏付けと、ついでに情報操作に使えるからだ。


「「 …。…。」」

「まぁいいだろう。正直、侵攻イベントの話はどうでもいい。交友関係と、組織関係を教えろ」

「はいはい。そうですね、セインってPCはL√ランカーのにゃんころ仮面の実の兄で…。…。」


 成り上がるためなら情報操作までやる、マジでゲスイやつなんですよ。って事で、勇者同盟や自警団が持っている極秘情報(笑)を教えてやる。コイツラもそうだが、流れた情報が再度、勇者同盟や自警団の耳に入る事で、信ぴょう性はさらに増す。


 こういった情報操作は、手間ではあるが、やってみると結構面白い。


「なるほど、魔人陣営に入って、完全にC√に落ちたのかと思っていたが、実はL√プレイヤーとして、進行度を上げるために魔人側についていたのか…」

「ほんと、L√ランカーは正義感とか欠片もないよな。自分たちが活躍するために、わざと相手を勝たせようとするんだから」


 ついでに、流れで進行イベントの裏話(笑)も教えてしまう。ぶっちゃけ、はじめから全部教えてやるつもり。渋ったのは、怪しまれないための演技だ。


 因みにセインは、L√の有力者と繋がりがあり、義理もあった。ゆえに報酬と引き換えに一部のL√上位陣の総意である、進行度の引き上げに協力した。つまり、彼はC√攻略者でありながら今も変わらずL√側のプレイヤーなのだ。


 こんな感じで、『本当』の中に『嘘』を混ぜていくのがポイントだ。


「よし、合格だ」

「これなら後払いの報酬も期待できそうだしな」

「セインを狙っている理由だったな」


 いや、そこまでは言っていない。俺は『セインかと尋ねられて、その理由を聞いただけ』。狙っているとなれば、目的がキルだと言っているようなものだ。まぁ、雰囲気からして、最初から言っているようなものだったが。


「実はアイツ。今、賞金がかけられているんだよ。非公式のな。賞金金額は、驚け! なんと1Mだ」


 やすっ!? いや、流石に安すぎるだろ?


「へ、へぇ~、凄いですね。でもセインって相当強いんですよね?」

「ふっ、たしかに強いらしいな。しかし、勝負は腕だけで決まるわけじゃない。折角ついているんだ、頭だって使わなきゃな」

「そうそう、いざとなったら3人で強引に刺し違えるてだって使える。確かにデスペナは痛いが、1Mあれば、ほとぼりが冷めるまで隠れている期間を考えても、お釣りがくる」


 頭を使って、出てきた作戦がゴリ押しでは、勝算はなさそうだが…。


 それはさて置き、コイツラ、曲がりなりにも考えている。考えたうえで1Mなら利益が勝ると判断したのだ。実際、俺からしてみれば1Mなんて『半日あれば余裕で稼げる』程度の額だが、一般プレイヤーから見れば『1週間粘ってやっと稼げるかどうか』くらいの額なのだ。L&Cに限らず、MMOではそれだけ上位陣とそれ以外に格差がある。戦士セットもそうだったが、有用なレアアイテムは上位陣の言い値で売価が決まる。


 そこには間違いなく格差があり、不公平と言えば確かに不公平だ。しかしRPGとは、積み重ねたものを武器に競い合うもので、つまりこの状態が正常なのだ。そう言った意味では、アイテム課金制ゲームも、本質は同じなのかもしれない。


「因みに、賞金を懸けている組織はどこですか? まさか匿名(匿名だと詐欺の可能性が高くなる)ってことは無いですよね??」

「いや、匿名だけど? そういう、専用の掲示板があるんだよ」


 アホくさ。彼らの行為は、PKに該当するが、より厳密に言えば『賞金稼ぎ』だ。あくまで報酬ありきで、普段は無差別にPCをキルしない。ゆえに、PKとして知識不足な部分が多い。多分、なれたPKは内容を見た時点で不参加を決めている。これはあくまで嫌がらせ。はじめから、報酬を払う気も無ければ、成功するとも思っていないのだ。


「それ、詐欺の可能性が高いから、やめた方がいいですよ」

「いや、たしかに匿名なんだけど、ID登録は必要で、裏で管理人が責任をもって仲介しているんだよ」

「そうそう。いくつかクエストはあるけど、どこもちゃんと成立しているみたいだし」

「いや、それ、管理人もグルですよ。成立例は自演で、不成立は即消去。炎上したらサイトを封鎖してお引っ越し。そのサイト、6時代の実績はどうなんですか?」

「え? いや、最近できたところだけど…。え? マジ!?」


 公式の指名手配なら、システム的な仲介が入る。L&Cはワンアバターなのもあって、この手の詐欺は殆ど存在しないが…、逆に非公式は殆どが詐欺だと思った方がいい。


「そうそう、あと報酬の話とも絡むんですけど、最近、セインは悪徳ギルドの鬼畜道化師商会に狙われているんですよ。その詐欺サイトも、たぶん鬼畜道化師が運営しているサイトですね。…。…。」


 もちろん、そのサイトが詐欺だという証拠も無ければ、鬼畜道化師と非公式指名手配の関連性も、存在しない。しかし、この流れなら、間違いなくコイツラは信じるだろう。


「しかし、なんで鬼畜道化師はセインを目の敵にするんだ? お互い、やりあっても何の旨味も無いだろうね」

「それはですね…。…。」


 悪徳ギルドは2種類に分類できる。EDのようにL√PCを狙うハイリスク型と、鬼畜道化師のようにC√PCを狙うローリスク型だ。同盟からみれば、EDのように大きな騒ぎを起こしてくれる組織は進行度を大きく引き上げてくれる有益な存在となる。しかし、ローリスク型も最低限の進行度は加算されるので、あえて潰す必要は存在しない。


 しかし、鬼畜道化師からみると事情は変わってくる。ローリスク型はローリターンであり、やっている事は殆ど初心者狩り。ポイント的にもランキングは絶望的で、対人特化なので自前で強力な装備を揃える事も困難。じゃあ、C√で強力な装備を揃えているヤツ、とくにC√界隈では流通していない装備(現状ではL√でないと入手できない強力な装備)を揃えているヤツは誰なのか? そう、それはC√でありながらL√に強いコネクションを持っているPC。すなわちセインだ。


「なるほどな。それでこの前、セインが主催者をしている、買い取りイベントを襲ったわけか」

「たく、迷惑な話だよな。詐欺サイトまで作って嫌がらせするくらいなら、自分たちで襲えばいいものを」

「ですよね。勝てないからの嫌がらせなんでしょうけど。やっぱり、C√専門のPKは、やることがセコイんですよね」


 1番セコイのは、あることない事言いふらして嫌がらせをしている、セインってPCだけどね?


 実のところ、鬼畜道化師商会については、ある程度情報を把握している。ヤツラは勇者同盟とはライバル関係なので、ヘアーズ同様、情報を得やすい組織だったりする。もちろん、新しい組織なので同盟も完全な全貌は掴んでいない。しかし、不確定な部分には思い当たる部分もあるので、牽制は入れておく。


 まぁ、それでも最初は放置しておくつもりだった。考えを改めたのは、買い取り祭りで俺の顔に泥をぬられたのが切っ掛けだったりする。狭量なのは理解しているが、俺は『裏でコソコソと工作ばかりして、表に出ずにL&Cを牛耳ろうとするヤツが嫌い』なのだ。




 そんな感じで、全力でブーメランを投げつつ、俺は賞金稼ぎの背中を見送った。

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