#273(6週目木曜日・夜・????)

「おい、旧都の入り口でセインが大勢のPCとやりあっているらしいぞ!?」

「セインって、たしか魔人側についた強いヤツだよな?」

「もしかして、セインも無差別テロを? 鬼畜道化師といい、調子のり過ぎだろ?」

「いや、襲われているのはセインの方らしいぜ! とにかく行ってみようぜ!」


 その日、旧都はいつにもまして大勢のPCで賑わっていた。


 ことの発端は、セインに賞金が懸かっている事が公になったこと。非公式ではあるが、賞金首が人通りの多い場所に現れたことにより、彼に挑む者と、それを見物する者で溢れていた。


「おい、見えないぞ、もっと詰めろよ!」

「ギャラリーは武装を解除しろ! 前列のPCは座って後ろのPCにも見えるようにしろ!!」

「挑戦者はコッチに並んでくれ! 挑戦する前にサイトでクエストを受注するのを忘れるな!!」


 しかし、L&Cプレイヤー足るもの、この手の集まりはなれたもので、自然に列ができ、頼んでもいないのに場を整理するPCが現れる。それは間違いなく野良試合ストリートファイトではあるが、雰囲気はリングファイトと言っても差し支えないものだ。


「おいおい、皆、お利巧ちゃんかよ? なんで順番守って挑戦しているんだ? 皆で囲んでボコっちまえば終わりだろ?」

「てめー、さてはL&C初心者だな。ビーストのところもそうだけど、こう言うのにはルールがあるんだよ」


 ギャラリーの言う通り、フリーファイトである以上、ルールはあっても違反は存在しない。1対1の勝負を挑んでもいいし、PTで挑んでもいい。それこそ、ギャラリーも加えて全員で挑むのもありだ。しかし、そんなことをすればフレンドリーファイヤー(FF)が多発して、すぐにそれどころではなくなってしまう。順番を守っているのもそうだ。ほかの挑戦者をFFしない意味もあるが、勝負を受ける応戦者も含めて気持ちよく戦えるように、皆が一丸となって配慮を尽くす。これは、応戦者の好意で成立しているフリーイベントであり、応戦者の機嫌を損ねれば、イベントは即終了。応戦者が近くのゲートに退避してしまえば、システム的に誰も手出しできなくなるからだ。


「PTで挑戦するのもありなのか? それなら俺たちも挑戦してみようぜ!?」

「いや、マジかよ!? 絶対に勝てないだろ?」

「でも、相手は対人戦最強って言われているPCだし、負けても勉強になるか…」

「あぁ、たしかに」


 ギャラリーが、そこかしこで似たやり取りをくり返す。デスペナの重いこのゲームでは、意味もなく対人戦を挑むのはリスクが勝る不毛な行為なのだが、それでもペナルティーは取り返しのきかないものでは無い。現実ならまだしも、ゲーム内であるこの場所、とくに自由を尊ぶC√攻略者は、重いペナルティーを払ってでも挑戦しようとするPCは少なくない。


「よし! そうと決まれば予備の装備を…」

「装備なら大丈夫だぜ? 負けても装備は返してもらえる。所持金はとられるけど、最終的に勝ったPCが総取りにできる。なんでも、今の総額は5Mだとか」

「はぁ!? いや、ありえねえだろ? なんでそんなに持ってんだよ!?」

「あくまでセインが言っているだけだから確証はないけど、勝てば分かるぜ? あと、もちろん賞金首だから賞金も手に入る。まぁ…、たったの1Mだけど」

「いや、1Mは大金だから。俺の全財産の10倍だから」

「そうは言っても、対人戦最強PCの討伐報酬としては、ありえないほど安いだろ? 最低でも10Mはないと、ランカー連中は誰も挑戦しないぜ?」

「そんなもんか…」


 たしかに、C√にはノリのいいPCは多い。しかし、セインを倒せたところで、得られるC値は他のPCと同じ。ランキングを目指す実力者になれば、おのずと資金にも余裕が生まれ、報酬よりもリスクが際立つ構図になっている。


 この方式で挑戦者を募ってC値を荒稼ぎしているのが元魔王のビーストだ。彼は殆ど毎日、決まった場所で挑戦者を待ち、それを動画で配信している。彼の実力は、たしかにトップクラスではあるが、転生前の不完全なアバターでは負ける事もある。しかし、彼の場合はそれでいい。程よく勝ち、程よく負ける。デスペナに√値の減少は無いので、多少負けても(経験値が減っても)それ以上に√値が稼げてしまう。レベルアップは遅くなるだろうが、それでもランキングはあくまで√値依存。ゆえにビーストは、ランキング不動の1位であり、色欲の魔王の玉座は彼の指定席となっている。


「なぁ、このサイト、詐欺じゃね?」

「え? そうなの??」

「いや、ほら、匿名だし、不成立になった事例が少なすぎる。こう言うのは、ちゃんとしていても結構な頻度でトラブルが起こるものなんだよ」

「そうなの? でも、それだけ管理が確りしているだけかも」

「ログを洗わないとわからないけど、多分、洗ったらすぐにボロが出ると思うぞ。こういうサイトは、やり逃げって言うか、いざとなったら引っ越せばいいやってノリだから」

「マジか!?」

「そもそも賞金が安すぎる。ただの嫌がらせだな」

「いや、金を払うつもりがないなら、もっと賞金を釣り上げればいいじゃないか?」

「そんなことしたら、目立ちすぎるだろ? こう言うのは、ベテランには見向きもされないくらいでいいんだよ。それで、バカな素人に捨て駒になってもらって、装備を確認したり、消耗したところを自分たちで襲ったり、あとは順調に攻略が進まないようにするのが目的とか。色々だな」

「マジか…」


 必然的に(参加しないPCも含め)サイトを確認する流れになる。そこにあるのは、非公式の怪しい賞金サイト。本来はシステム的に保障されているゲーム内(公式)の賞金首システム(WS)を使うものだが、今回は相手が非犯罪者であり、公式のWSは使えない。


 WSは、指名手配が成立したPCに対して、既存のシステム的な対応とは別に、一般PCが追加で報酬を提示するというもの。これは、相手が敵対陣営であっても同様で、つまりは誰に対しても使えるものでは無い。セインに関しては、敵対陣営PCであり、対人特化PCであり、公の場でもPCをキルしている。しかし、イベントであったり、同意があったりと、未だに指名手配は受けていない。


「つかさ、詐欺なら通報した方がよくね?」

「通報って、何処にだよ? 詐欺が本当なら間違いなく無視されるだろうし、L&Cの運営に抗議してもゲーム外のことだぜ? それに、もう誰かがやっているだろ」

「そういうとこだぞ。誰かがやっているから俺は必要ない、って言って何もしない」

「それは、まぁ…。でもこう言うのって第三者が言っても意味ないんだろ? 当事者じゃないと、見たいな?」

「そんなの関係ないよ。大事なのは声の大きさ。選挙と同じ。正しいとか最善とか綺麗事を並べても、結局最後はなんだ。少なくとも、この詐欺サイトは炎上したら閉鎖不可避だろ?」

「たしかに…」

「たぶん、セインもそれが分かっているから、あえて人前に出て、詐欺サイトの存在を知らしめているんだよ」

「マジか! 俺、てっきりC値を稼ぐのに利用しているだけかと思っていた」

「いや、まぁ稼げるっちゃあ、稼げるけど。すでに相当貯め込んでいるはずだぜ? すでにランキング入り確定。そんなのリスクに見合わないだろ?」

「それもそうか。俺はてっきり、ガチで魔王を狙っているのかと」

「あ~、まぁ、どうなんだろうな?」

「ま! どうでもいいじゃん。面白ければ!!」

「ぷっ、それもそうだな」


 L&Cには様々な妨害行為が存在する。中には個人の力ではどうにもならないものも存在するが、それでも何かしらの対処法は存在する。それは頂点を極めようとするなら必要な知識であり、頂点を極めた者なら知っていて当然の知識だ。


「お、今度は女性PCが挑戦するみたいだぜ!」

「つか、なんかモメテね?」

「ほんとだ。あの大鎌のPC、1対1で戦いたいってPTメンバーと口論になっているな」

「大鎌って、また凄いロマン型だな。タイマンで勝機があるとでも思っているのか?」

「案外、強い人に叩きのめされたいって言うドMの変態かもよ?」

「ぷっ、それは無いだろ?」

「だな」

「「ははははは」」




 その後、一騎打ちを挑むPCが、しばらく続いた。

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