#260(6週目火曜日・夜・セイン)

「そういえば兄ちゃん」

「ん?」

「最近、PKKが盛り上がっているらしいにゃ」


 夜。俺たちは旧都の"騎士団"に来ていた。ここは上級兵士の詰め所であり、表(昼間エリア)でも裏(夜エリア)なみの難易度となっている。


「未転生時の現状でPKKか…」

「気になるのですか?」


 俺の悩む仕草に反応したのか、アイが心配して声をかけてきた。


 たしかにBLもあるのでプレイヤーキラー狩りが流行るのは分からない事も無い。しかし、実際は未転生時の不十分な装備でリスキーな対人戦に挑むことになる。本来は、もっと終盤にやることが無くなってから憂さ晴らしで挑戦する様な事だ。まず間違いなく、裏で糸を引く者がいるのだろう。


「少しな。ニャン子、どこの界隈かいわいが盛り上げているか分かるか?」


 時期もそうだが、俺の情報網に引っかからなかったのも気になる点だ。俺は商人でもなければ情報屋でもない。だから四六時中、情報収集にあけくれることは無い。たまたま網から漏れていた可能性もあるが…、どこかの組織が「不意打ちで仕掛けた作戦」の可能性が高いだろう。そうなると問題は「どこの組織か?」ってところだろう。


「ん~、そこまではちょっと。アチシも、ログインする前にちょっとチェックしていたら、たまたま見かけただけにゃし」

「兄さんが気になるようでしたら、私が調べておきましょうか?」

「いや、その必要はない。情報もち情報屋もちやだ。それよりも今は騎士団ここだ。油断していると死ねるぞ」

「はい」

「うぃ~」


 騎士団は重装備のアンデッドが出現するエリアで(「質より量」で攻めてくるアンデッドのセオリーに反して)質を活かす個体が多く出現する。中には中ボス判定と言うべきか、ボスのように取り巻きを召喚する個体までいる高難易度エリアだ。


「よっと。やはり大剣は避けやすくて助かるな」

「にゃんにゃん」


 即死級の攻撃でも、当たらなければどうと言うことは無い。ベテランクラスまでのプレイヤーには危険極まる狩場だが、ランカークラスになれば大ぶりの攻撃をしてくる敵は逆にカモだ。


「アイ! 背後は任せた!」

「はい!」


 回避型が有利な本体を俺やニャン子が処理して、取り巻きは防御型のアイが処理する。耐久値も高く、危険な相手ではあるが、倒せるなら見返りはそれなり。しかし、騎士団は"不人気狩場"に分類されている。その理由は…。


「…!」

「……!?」

「!!」


 遠くで他のPCの叫び声が聞こえる。オープン会話であるあたり、ドロップにつられて集まった臨時の合同PTあたりだろう。(PTがわかれるとPT会話は使えない)


 レベリングの基本は「質より量」であり、避けられるからと言ってわざわざリスクを背負って高難易度の狩場に籠もる意味はない。しかも、ドロップは装備系が殆どで、長時間籠もることを考えると拾ったアイテムを運搬する手間がストレスだ。


「あぁ~、あのPT、崩壊すると思うのにゃ」

「助けたければどうぞ。私は兄さんと先に行きますので」

「アイにゃんはブレないにゃ~。それ、兄ちゃんが助けるって言ったらどうするにゃ?」

「? 助けるに決まっているじゃないですか」

「ブレないにゃ~」


 相変わらず仲良しの2人は置いておいて、コッチも目的があるので初心者には構っていられない。


 多分、あのPTは博打であることを承知して挑戦している「装備集めPT」だ。L&Cは他のRPGに比べれば装備の入手難易度は遥かに低い。例えデスペナのリスクはあっても「それで高ランクの装備が手に入るのなら儲かる」と考えている連中だ。たしかに生存できればソコソコの収入にはなるだろう。しかし、長い目で見れば、やはり身の丈に合った狩場でコツコツ頑張ったほうが効率はいい。


 もちろん、それはあのPTも承知しているだろう。承知して、普段はコツコツ頑張って…、たまにバカ騒ぎがしたくなって臨時を組んで無茶な狩りをしている。それなら俺たちが出しゃばる必要はない。ダメならダメで、嘆き、成功したら、皆で喜びを分かち合う。それで充分だ。


「兄さん、[フルプレート]がドロップしました」

「そんなクソ重い装備、捨ててしまえ」

「はい」


 お隣のPTが必死で集めている装備を捨てるのは、若干の罪悪感があるが…、それを気にしていては上は目指せない。


「兄ちゃん、[タワーシールド]だにゃ」

「そんなクソ重い装備、捨ててしまえ」

「うぃ~」


 そう考えると、ココは上級者向け狩場ではなく、はじめから初心者向けの博打用狩場としてデザインされているのかもしれない。確かに重量装備は1回の儲けは他に比べて遥かに高い。ピストン輸送しながら狩れば、初心者でも結構な儲けになるだろう。もちろん、デスペナを加味しなければの話になるが。


「兄さん、[グリードアックス]がドロップしました」

「そんなクソ重いそ…、それは拾っておこうか」

「はい」




 そんなやり取りをしながらも、俺たちは旧都・騎士団を進んでいく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る