#261(6週目火曜日・夜・セイン)

「うぅ~、まさか、未転生でここまで来るとは。本当に、いけるのにゃ?」

「猫、いつも言っていますが…」

「あぁ、うん、マジで一人で帰れる自信にゃいから、頑張ります」

「チッ」


 相変わらず2人は以下略。騎士団を抜けて、やって来たのは旧都・坑道。紛らわしいので「地下迷宮」と呼ばれる事も多いこのマップは、その名の通り迷路状に入り組んだ坑道を進む地下マップだ。


 L&Cには隠しの裏ストーリーが幾つも存在しており、このエリアもその1つ。鉱山でもない旧都の地下に何故こんな場所があるのか? その答えは明言されていないものの、この先の施設やNPCの会話を紐解いていくと過去に何があったのか推測できる。まぁ、分かったからと言って何もない、お楽しみ要素の1つでしかないのだが。


「2人とも、間違っても"監視者"のタゲを貰うなよ。流石に勝ち目はないからな」

「うぃうぃ。入り口にいたら、詰んでたにゃ」

「猫」

「だから、やらないって!」


 猫の一言で考えが分かるとか、本当に仲良しだな…。


 それはさて置き、ココから先は転生後でも手こずる高難易度エリアだ。特に監視者に関してはヘタなボスよりも強く、現状ではどうにもならない。幸い、出現数は少なく、索敵範囲も視界内のみ、移動速度も遅いので、袋小路さえ注意していれば回避は可能だ。(地形のせいでソレも結構な難易度だが)


 狙いは"エターナルワーカー"。アルバの炭鉱にいるゾンビワーカーの上位種だが、ありえないほど耐久値が増えている他、状態異常攻撃も使ってくる厄介な相手だ。機動力は据え置きなのがせめてもの救いだが、調子にのって喧嘩を売ればカウンターで状態異常をバラ撒いてくるので全く油断はできない。


「<レジスト>は過信するなよ。一応、ヒーラー系のスキルはセットしたが、SPは知れている」

「うぃうぃ」

「はい、兄さん」


 今回、坑道に挑戦するにあたってショートカットをヒーラー仕様に変更した。基本的に回復はアイテムに頼る派だが、流石にそれでは通常攻撃にまで状態異常がついている魔物は相手にしていられない。そこで重要となるのが<レジスト>などの予防系スキルだ。スキルレベルが低いので期待はできないが、かけておけば[祝福の指輪]と同様に確率で状態異常を無効化してくれる。


「あぁそうだ。先行はニャン子、任せたぞ」

「にゃんですと!?」

「兄さんはスカウト系スキルを外しているので、当然でしょう」

「ですよね…」


 まぁ、厄介な遠距離攻撃や奇襲攻撃は無いので、俺も前に出ようと思えば出られるのだが…、相手がアンデッドならヒーラースキルは有効なものが多い。今回はヒーラーに特化する方針だ。


 狩り方は…。

①、ニャン子が1体ずつワーカーを釣りだし、キルゾーンに誘導する。

②、アイが溜め攻撃で相手を吹き飛ばす。

③、俺がアイの状態異常を回復しながら、余裕を見て相手にデバフをかけていく。


 あとはピンボール感覚で同じ動作を繰り返すだけ。状態異常で毎回地味にタイミングをズラされるのが嫌らしいが、基本的にはタイミングゲーだ。失敗したら、もう一回ニャン子にタゲを持ってもらう事になるだろうが…、それは生きていたらの話。今回は死んでもいいように、予備の装備だったりする。


「これ、リスクのわりに、効率はわるそうだにゃ」

「間違いなく悪いだろうな。カウンターのせいでアタッカーも制限されるし」


 オープンワールドのRPGだと"地形ハメ"などの技術を駆使すれば、格上の相手でも強引に倒すことは可能だ。しかし、測定してみると恐ろしく効率が悪いことが分かる。体感で言えば、強さが2倍になっても経験値は2割増し程度にとどまるだろう。とくにワーカーは回避型殺しのカウンタータイプ。俺やニャン子では、攻撃に参加するだけ邪魔となる。


「これ…、も! 猫が我がまま…、を! 言うからです」

「はい、すんません」

「まぁそういうな。経験値効率は悪くても、他に利点があると判断したからココを選んだわけだし」


 そう、経験値効率は確かに重要だが、それで優劣が確定することは無い。なにより、最終的にはレベルカンストしているのが当たり前、その頃には経験値効率なんて「初心者向けコンテンツ」と成り下がっているだろう。


「ふぅ…。やっと終わりました」

「おつかれ。SPはどうだ?」

「1体倒すのに7割ですね。アイテムでの回復を加味しても2連続が限界かと」

「うわぁ、完全に破産狩りにゃ」

「赤字かどうかはドロップしだいが、流通量の少ないアイテムだから、充分モトは取れると思うぞ?」


 SP回復系のアイテムは高価なため、ほとんどの場合で赤字になる。しかし、それで全てにおいて既存の狩りの下位互換になることは無い。経験値、アイテム、スキル育成に、イベントなどの条件達成。様々な条件が絡み合うRPGにおいては、既存の効率プレイにしがみついていては得られない"何か"が様々なところに眠っている。


「それで、ドロップはどうにゃ? [呪われた鋼]は出たかにゃ?」

「いや、狙いは[囚われた魂]だから」

「え? それって何かに使えたのかにゃ?」

「おまえ、元L√だろ? 使い道は色々あるが、まぁ、イベントの免除アイテムだな」

「あぁ~」


 [囚われた魂]は、ヒーラー系のクエストで必要になる収拾アイテムだ。本来は専用エリアで"試練"と言う形でアンデッドを浄化(倒せれば手段は問わない)する形で集めることになるが、最初から持っていれば試験は即終了となる。


 特に今の時期は攻略も進んで需要が高まっている。ヒーラーはPTやギルドに加入している割合が高いので面倒なイベントの免除アイテムは多少高くても買い手には困らない。そして、相手が高レベルのヒーラーなら、あのアイテムを持て余している可能性は高い。




 こうして、回復アイテムを惜しまず使い、限定的だけど高価で取引されるアイテムを、一晩かけて集めまくった。

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