#256(6週目火曜日・午後・セイン2)

「おい! あれ、魔人の試験に合格したヤツじゃないか!?」

「あぁ、セインだっけ? どうだろ? デフォルト顔なのは確かだけど…」

「いや、別人だろ。セインっていったら対人特化の短剣使いだろ? 両手剣で、しかも"ゴルゴ"にくるわけねぇじゃん」

「だよな。気になるなら、お前、聞いてみろよ」

「いや、そこまでは…」


 午後、俺はスバルを連れてゴルゴン山脈(通称ゴルゴ)に来ていた。ゴルゴンは7世代に入って来たのは初めて。以前のバージョンでも数えるほどしか来た記憶がない。と言うのも…、大雑把に分けると「L√PCは(王都からみて)北や西で、C√PCは東や南で活動する」というセオリーがあるからだ。違うエリアに来たからと言ってシステム的なペナルティーがあるわけではないが、やはり俺みたいに悪目立ちしているPCは、L√PCが大勢いる狩場に来るべきではない。まぁ、今回は装備を変えているので"人違い"だと思われるだろう。


 あと、どうでもいいが…、なんで(PT会話ではなくオープン会話で)本人に聞こえるか聞こえないかの声でソノ話をするんだろう。正直、耳障りだ。


「スバル、このあたりは人が多い。さっさと奥のエリアに進むぞ」

「 …そうですね」


 いつもの忠犬っぷりはどこへやら。歯切れの悪い返事をかえすスバル。どうやらSKの事で機嫌を損ねてしまったようだ。これだから恋愛を持ち込むのは嫌なのだが…、それは今言っても仕方ない事。


 俺としては、良かれと思ってSKと手合わせをしたが…、スバルにしてみれば、せっかく仲良くなりかけた異性を師匠に横取りされたようなもの。これでは忠犬ではなく噛ませ犬。機嫌だって悪くなって当然だ。


「スバル!」

「 …なんですか?」

「 ………。」

「??」


 考えてみたら俺、こういう時、上手くフォローできるほど器用な人間ではなかった。これがアイなら…、頭を撫でてやるとか、普段の感謝をクチにすれば機嫌をなおしてくれるのだが…、流石にスバルはそんなにチョロくは無いだろう。


 アイは、見た目こそクールでドライ、大人びて見えるが…、じつは「手をつなぎたい」とか「一緒に寝たい」などと子供っぽい我がままを言ってくる。まぁ、甘えたい盛りの年頃で親を亡くしているので(思春期を超えていた俺と違い)家族にスキンシップを求める欲求が強くなるのは当然。早く兄離れしてほしい気もするが…、いつまでも甘えん坊なアイを、迷惑に思いつつも"可愛い"と思ってしまう俺は、やっぱり"兄バカ"なのだろう。


「なんか考えていたら、思考が横にそれて纏まらなかった」

「はぁ…」

「面倒になったから、勝負だ」

「え? あ、えっと…」


 こんな事なら犬の躾についても調べておくべきだった。いや、スバルは犬ではないけど…、なんとなく、俺の中で"犬扱い"すると喜びそうなイメージがある。まぁ、流石に失礼だからやらないけど。


「そうだな…、キル数勝負でどうだ? より多く魔物をキルした方が、レアを総取り」

「いや、流石に全部は…」


 俺としてはお金には困っていないので特殊な素材以外は全部スバルの取り分でも問題ないのだが…、そういう養殖じみた行為は反対派だ。身の丈と言うか、正当な報酬と言うか…、やはり身内でも甘やかすのは本人のためにならない。


「なんだ? もう、勝負に勝ったつもりか??」

「いや、だって師匠…、今日は両手剣だし」


 今回の装備は、両手剣の[バスタードソード]と[ウィザーズグローブ]。[バスタードソード]はハーフツーハンドソードとも呼ばれる小型の両手剣だ。両手剣カテゴリーの中では小型でステータスやスキルが揃っていれば片手でも扱える。流石に俺でも同時に使うことは出来ないが、一時的に片手持ちに切り替えれば(攻撃力にペナルティーがはいるが)装備変更なしで魔法も使える。


「両手剣は使えないとでも思っているのか? 確かに武器熟練度は低いが、ステータスは充分に足りている。なにより、ここの魔物は両手剣の方が相性がいいんだぞ?」


 刀は、アニメや映画では、強大な敵を真っ二つにできる最強武器の一角だが…、L&Cでは武器の重量の概念があり、なにより(漫画と違って)刃渡り以上のエモノを両断する事は出来ない。一応、スキルを使えば射程距離を一時的に伸ばせるが…、それでも実際に刃が当たっているかどうかはダメージ計算に大きく影響する。つまり、大きな敵や様々な耐性を持っている魔物に対しては「軽量武器よりも重量武器の方がダメージが稼ぎやすい」の法則が適応される。


「そうなんですか? たしかに、攻略サイトにそんなことが書かれていた気が…」

「スバルは経験が本当に片寄っているよな。まぁ初心者だから当たり前だけど。 …そうだな。アイテム総取りは確かに極端だ。って事で、レア1つでいこう。この先には、面白い魔物が色々でてくるから、装備も期待できるぞ?」

「え? あぁ、ちょっと調べてみます!」


 なにか思い出したかのように調べものに励むスバル。ゴルゴン山脈の道のりは長く、道中にはボスやユニークが出現するエリアも存在する。L√PC向けのエリアであるため、あまりソロや少数で来ることは無いが…、その分、戦いごたえのある魔物が出現する。


「一応言っておくが、流石にまだグリフォンとかワイバーンみたいな大物は無理だからな。かと言ってストーンタートルみたいな硬いやつも面倒なんだが…」

「師匠! この、ラムチョッパーって…」

「渋いところをつくな。普通はゴートとかヘルハーピーを狙うところなのに…」


 ゲームには、たまに開発者の遊び心と言うか、ギャグみたいな魔物が出てきたりする。ラムチョッパーは…、たしか「逃げ出した子羊が魔物化した」とか言う訳のわからない設定を持っている羊の魔物だ。実物は、ヤギの悪魔バフォメットの成り損ない。同じく山羊の魔物のゴートは"動物"として魔物化した山羊なら…、ラムチョッパーは"キメラ化"と言うべきか、家畜として"首輪"を巻いてはいるが、毛が抜け落ちていたり、背中に翼っぽいものがあったりと異様な姿をしている。レアは…、なんだったっけ? たしか悪魔系の何かだった気がするが、それほどイイものは落とさなかったはずだ。




 そんなこんなで、妙にやる気を出したスバルと共に、ゴルゴン山脈の山道を2人で進んでいく。

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