#255(6週目火曜日・午後・セイン)

「そういえば、食材集めの方はどうなんだ?」

「お兄ちゃん、マジで私の動画、見る気ないよね…」

「うん」

「うんって…。まぁ、だからこそ気楽に感じている部分があるのは否定しないけどね」


 午後、スバルとSKの手合わせを眺めながらユンユンに食材収拾の成果を訊ねる。


 因みに…、スバルはSKの対策を早くも整え、一進一退の攻防を繰り広げている。とは言え、一応、手はぬいているようだ。SKの強さは「才能でビギナーズラックを多発させている」ようなものなので、タネが分かればスバルには通用するはずはない。まぁ、おかげで「手合わせ」と言うより「指導」っぽい雰囲気になってしまっているが…。


「飽きたらいつでもやめていいからな。水場は確かに幻想的で画になるが、それも2~3日通えば飽きる。中には、水面の揺らぎを見ているだけで気持ち悪くなるヤツもでてくるらしい」

「ご忠告ありがと。金策狩りは撮れ高が無いから籠もれていないけど…、コツコツと続けていくつもりだから、買い取りはよろしく」

「そうか。まぁがんばってくれ」


 持ち込む量が少ないと思ったら、そう言うことだったようだ。


 MMORPGを続けていくうえで避けては通れない要素の1つが"金策"だ。自由度が高く、何をやってもいいオープンワールドの世界では(コンシューマRPGとは違い)行動をあるていど取捨選択する必要がある。コンシューマRPGでは入手できる装備やイベントをコンプリートするまで次のエリアに進めないって人は多いようだが、MMOでソレをやると本当に前に進めなくなる。その解決法として1番シンプルな回答が"金策"であり、(L&Cでも)大半のプレイヤーは「装備は露店で買い集める」スタイルをとっている。


「その…、一応、感謝しているんだから、感謝しなさいよね!」

「それ、なにかのモノマネか?」

「あぁ、うん。私も正直に言っちゃうとアニメとか興味ないんだけど…、職業柄、ネタとして有名作品は抑えている感じ」

「そうか、アイドルも大変だな」

「そうよ、アイドルは大変なのよ…」


 シミジミとした空気が立ち込める。


 最近のアニメだと、主人公は知り合った女性に無条件でモテるそうだが…、残念ながら俺の場合は、そこまでモテる気配はない。確かに女性PCとの接点は多いが…、なんだろ? 「頼れるお兄ちゃん」的なポジションに落ち着いている。まぁ、恋愛否定派の俺としては、トラブルを回避できるので助かっているのだが…。




「タァーー!!」

「おっと、今のはいい踏み込みでしたね」

「はぁー、はぁー、ぜんぜん攻撃が通らない…」

「そろそろ、終わりにしますか?」

「あぁ、じゃあそんな感じで」


 「ありがとうございます」と一礼して剣を納める2人。


 スバルは充実した表情だが…、対してSKは納得がいかない表情。確かにスバルは手加減をしているし、指導者として見ても充分な仕事をしているのだろう。しかし、それをSKが必要としているかは別問題。非の有無とは別ベクトルの問題で…、つまりはスバルとSKは(悪いと言うほどではないが)微妙に相性が噛み合っていないようだ。


「よし、それじゃあ少しだけ相手をしてやるか。スバル、かわれ!」

「え? あ、はい!」


 スバルを引っ込めて、かわりに俺が前に出る。先ほどまで疲れた表情を見せていたSKだが…、早くも目をギラつかせている。(失礼な話だが)本当に女性か疑いたくなるほど好戦的な性格だ。スバルもそう言う部分はあるが…、スバルが"静"ならSKは"動"、スバルが"柔"ならSKは"剛"。似た者同士でもあり、相反する者同士でもある。


「それじゃあ、いくぞ!」

「うっす! お願いしまっす!!」


「あれ? お兄ちゃん、それって…」


 手にした装備はいつもの短剣ではなく…、片手剣とマジックロッドのハイブリッド。つまり、SKと同じスタイルだ。


「へへへ、流石はアニキ。わかってる~」

「ゴタクはいい、行くぞ!」

「うっす!!」


 全く同時に、お互いが真っすぐ突っ込み、ぶつかり合う。


 当然、当たり勝つのは俺だが、SKも当然それは予測済み。吹き飛ばされながらも迷わず魔法を放ってくる。


 俺の"誘い"にまんまとのっかってくるSKは、やはり才能と勘で戦う初心者だ。俺は冷静に剣で魔法を両断し、SKの着地点に魔法を放つ。


「勝負あり! 勝者、お兄ちゃん!!」

「完全に師匠の誘いに乗せられちゃいましたね」

「あ"ぁ~~! 体が勝手に!!」


 俺の"返し"を予測出来ていたかは別にして、体が勝手に動いたのは本当なのだろう。


 直感で戦うスタイルの天敵は、こうやって2手3手先を読んでくるタイプだ。その瞬間では最善の判断だったとしても、さらにその先が袋小路では詰んでしまう。


 じゃあ、どうするべきか? スバルは冷静に1手1手を捌いて着実な立ち回りを示したが…、それ以外にも"答え"は存在する。


「もう、終わりか? 意外と根性無いんだな」

「はっ! まだまだ!!」


 俺の安い挑発にのって、飛び起きるSK。


 言い方は悪いが…、こういう短気で喧嘩っ早い少年漫画の主人公みたいなタイプ、俺は嫌いじゃない。こう言うやつは、なかなかランキングには上がれないが、野良のバトルには結構出没する。


「挨拶は不要だ。かかってこい!」

「上等!!」


 突撃と同時に、今度は攻撃をイナし、回転しながら脇に滑り込むSK。


 俺もそれに応えて半回転して背中をぶつけてやる。


「お~、いいねいいね。そういうダンスみたいなバトル、すごく画になる」


 面白がって撮影するアイドルを横目に…、俺とSKは、壁や机も使って縦横無尽に暴れ回る。イメージはカンフー映画だろうか? 酒場にあるものは何でも使って戦う。最後の方なんて白熱しすぎて、素手で殴り合う羽目になったが…、まぁ、SKの顔は満足そうだったので"よし"ってことにしておこう。




 多分俺も「満足そうな顔をしているんだろうな…」っと思いつつも、今日の昼の手合わせは、いつもより遅めの解散となった。

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