#252(6週目月曜日・午後・セイン3)

「あ、セインさん、探しましたよ! 同盟には連絡を取ったんですか!?」

「いや、別に…」


 夕方、適当に売るものを用意して草餅のところに行くと…、案の定、血相を変えて駆け寄ってきた。草餅は勇者同盟の情報屋であり、現在俺は同盟の呼び出しを無視している。


 もちろん、イベントでは指示に従って依頼をこなした。結果は(同盟の意に反して)負け越しに終わったが…、ともあれ、依頼はこれにて完了。次のイベントでは、流石に何人か試験をクリアするか、転生して魔人側に属しているPCが出てくるであろう。だから、俺みたいにヘマをして負け越す無能の契約を更新する必要はない。


 まぁ、それでも声をかけてくるって事は「本当は誰がヘマをしたのか」が分かっているって事だろう。


「ログインしているなら、すぐに連絡をとってくださいよ。同盟は、いま結構な騒ぎになっているんです」

「そうか。まぁ俺としては、契約はアレっきりでいいと思っている。実際、俺の力が及ばないばかりに負けてしまったわけだし…」


 とは言え、とりあえず「自分が悪い」って態度はとっておく。同盟は大雑把に分けると3つの組織に分かれている。元勇者をはじめとする攻略組と、アイテムや情報を管理する商人組、そして妨害工作などの汚れ仕事を担当する暗部。この中でも俺は(普段ボスドロップを売却しているので)商人からの支持が厚い。


「いえ、そんなことは! 同盟は今回の結果をセインさんのせいだとは考えていません。ここだけの話ですけど…、一部の幹部が暴走して、勝手な指示をだしていたんですよ。それが判明して、今、同盟は荒れに荒れていて…」


 一部の幹部って、白の他に誰かいるの?


 ディスファンクションは、イベントの途中で、俺に直接指示を出して個人的な利益のために俺を動かし…、俺もそれに素直に従った。結果として「ガラ空きになって(A)を赤に奇襲されてしまった」し、そのまま「(A)をあきらめて(B)と(C)をとる判断」もできずに、「一か八かで俺に(A)を、PKに(B)を守れと勝手な指示を出してしまった」。


 最終的に商人組に指揮権が戻り、俺は(A)を放棄して(C)へ。(B)は掻き集めたPKに守らせたが…、やはり止めきれずに陥落。せめて(B)にアイたちを配置していれば状況は変わっただろうが…、ヘタに守り切られても困るので身内連中には今回"傍観"を支持していた。


 つまるところ、作戦通りだ。


「経緯はどうあれ、結果が残せなかったのは事実だ。それに…、俺はやはり、自由気ままなソロプレイが性に合っている。別に同盟の活動を邪魔する気はないが…、俺は俺、同盟は同盟、今までの関係がベストだと思っている」

「そ、そこをなんとか…、いえ! 結論を出すのは早いですね。ここはお互い時間をおいて、じっくり考えるべき時です。セインさんも、気が変わったらいつでも声をかけてください」


 あっさり引き下がる草餅。流石に商人をやっているだけあって駈け引きを心得ている。


 現在、勇者同盟が俺を引き留めるカードは存在しない。この状態で無理に引きとめて…、それこそボスドロップの売却の話も"無し"になっては本当に繋がりが切れてしまう。それに、同盟がバタついているのも事実だ。唯一、敵対勢力のエリアを自由に行き来できるPCは引き留めて損は無いが…、「具体的に何をさせたいか」「報酬は何を出せるのか」そう言った部分を決められる状況では無いだろう。


「それもそうだな。レアアイテムの売却は助かっているし、今回みたいに無茶な指示を出されない限りは、いい関係は続けられると思っている」

「うっ…、そ、そうですね。重ねて言いますが、同盟はセインさんを高く評価しています。あと!」

「??」

「同盟は、あくまで同盟員の利益を最優先に考える組織です。今回、セインさんには無茶(デスペナを押し付けるよう)な指示をだす形になってしまいましたが…、本来はギブアンドテイクであり、お互いがウィンウィンになれる関係を目指しています」


 そう、勇者同盟はたしかに最速攻略を望んでいるが…、それはあくまで進行速度を早めるためのものであり、特定個人の利益のためではない。たしかに中堅以下のプレイヤーを軽視しているが、それは本気でL&Cを極めようとする意志の表れであり…、俗っぽい言葉を使って表現するなら「遊びでやっているんじない!」ってところだ。


 本気で極めようとしているから、やれることは何でもやる。皆で和気あいあいと慣れ合うつもりも無い。だから、時にはラフプレイだってさない。しかし、EDと違って他人を陥れて悦に浸るためにあるのではない。あくまで「本気で上を目指すプレイヤーのために」を目指した組織であり…、間違っても協力者や身内にデスペナやゲームオーバーを強要する組織ではない。すくなくとも…、6時代はそうだった。


「あぁ、そうだな。俺も、6時代は距離を置いていたとは言え…、妹から色々と話は聞いていた。正直なところ、驚きと落胆があったのは事実だ」


 今回、歯車が狂った原因は…、やはり自警団に対応するために「暗部に無茶をさせてしまった事」。そしてその「暗部を"仲間"として認識していなかった事」。そしてなにより、そう言った考えを強く押し出していた幹部の「ディスファンクションの存在」であろう。




 そのあとは、普段通りにアイテムを売却し…、とくにクドクドと引き留められる事も無く解散した。まぁ、買い取り価格には色がついていたが…。


 今回の一件で同盟は(自警団やBLのせいで)危うくなっていた暗部のEDを切り捨てるような決断をした。それ自体は、いくら同盟の仲間と言っても初めから切り捨てる前提の組織だったのだろう。しかし、転生後、指名手配などの制約がなくなってからは、まだまだ利用価値のある組織であり…、切り捨てるにしてももう少し気を使うべきだった。


 それに加えて、俺の策略にハマり、見事に白は本性をあらわして独断専行をおこなった。(EDの切り捨てにも、白が大きくかかわっていたとは思うが…)これにより、勇者同盟の組織構造に大きな亀裂がうまれた。腹黒いとは言え、そう言った部分を纏めていた白の失墜により、PKとの繋がりが絶たれてしまった事。そして新たな方針や、協力者の補強の問題。


 盤石だと思われていた勇者同盟の支配構造は、一気に危ういものへと変貌した。もちろん、これからいい方向に生まれ変わる可能性もあるが…、まぁ、ダメならダメで、また潰すまで。




 こうして俺は、L&Cに新たな波乱の種を植え付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る