#251(6週目月曜日・午後・セイン2)

「それで、SKと手合わせしてみてどうだった?」

「そうですねぇ…、猛々しくて、何よりも"勘"がいいですね」

「今どき珍しいよな。直感タイプであそこまで戦えるヤツは…」

「武道を始めたての子供は、みんなあんな感じですけどね~」

「 …。」


 なんとなくスバルの私生活の臭いがしたが…、それは気づかなかったことにして、SKを話のネタにしながら2人で狩りに出かける。今回向かうのは、ブラックマウスなどが出現するハルバ要塞Dの近くのフィールド。動物系の魔物を中心に色々と出現するが…、これと言って目立った見どころのない過疎マップだ。


「色々なスポーツをやっていて…、こういう言い方は好きじゃないですけど、才能、ですか? 独自の感性を実戦で使いこなしちゃうみたいな…」

「そうだな。より正確に言うなら…、"空間認識能力"が極端に高いってところだ」

「えっと…」

「つまり、例えば視界端に飛んでいくボールを見たとして、それが正確にどんな軌道で、いつどこに落ちるかが正確に分かるんだよ。だから最小限の視界情報だけでも充分に周囲の状況を把握…、違うな、予測できるんだ」

「なるほど…。たしかに言われてみれば、立ち回りのつたなさのわりに、異常に視界外からの攻撃が上手かったです。全然(魔法の)狙いをつける素振りは無かったのに、いきなり迷いなく撃ってきました。アレは、そういう事だったんですね…」


 しげしげと考え込むスバル。人は自分が思っている以上に、空間認識能力が低い。普段生活している自分の部屋でさえ、目を閉じて動き回るのは困難だし、打ち上げられた瞬間の(野球の)ボールを見て、それがどこに落ちるかを正確に予測するのは不可能だ。しかし、自分の部屋ならマジマジと見なくても不自由なく動き回れるし、ボールも経験を積めばある程度は予測できる。


 つまり、プロはその分野を極める事で、限定的に常人の空間認識能力を超えているわけだが…、SKの場合は、最初から空間認識能力がプロの域に達している。これは間違いなく"才能"と言っていいだろう。しかし、別に俺やスバルも斬り合いならその領域に達している。それなのにSKに出し抜かれるのは、SKがそれ以外の部分で素人であり、油断が生まれてしまうからだ。


「一応、言っておくが…、多少は手を抜いてやれよ? あれでも勘がいいだけで、ただの素人なんだから」

「え? あぁ、すみません…」


 どうみてもガチで勝ちにいこうと作戦(イメージ)を練り上げていた表情だ。たしかに手を抜くのは失礼って考え方もあるが…、才能ある初心者相手に本気で勝ちに行く行為は「大人げない」と言わざるをえないだろう。




 そんなやり取りをして、ついたのは何の変哲もない林? ひと気の少ないダンジョン付近の、更に人気のない、草原だか林だか、形容しがたい中途半端な場所だ。


「さて、それじゃあ始めるか。悪いが火力がガタ落ちするから、もしもの時は守ってくれ」

「はい! まかせてください、師匠」


 頼れることがよほど嬉しいのか、仕草の節々に喜びの感情が読み取れる。やはりスバルは、犬系だ…。


 俺としてはこんな難易度の低いエリアで、しかも弟子に守られるのは気恥ずかしいのだが…、本当に今回は、相手をキルできないので仕方ない。


 今回は、魔法系スキルを伸ばすために装備をソレ系で統一する。ハルバここを選んだのも、そのため。別に見られて困るわけではないのだが…、イベントで派手に暴れ回った有名人が、今さら地味にスキル上げをしているところなんて見せられない。


・追加装備

ウィザーズグローブ:ナックルカテゴリーの魔法補助武器。同ランクの魔法杖には補正値で及ばないものの手が自由に使える。


ミスティックロッド:魔法攻撃力が低い代わりにステータスの補正値が高いヒーラー向けの杖。派手な装飾は無く、直接攻撃や防御にも使える。


「よし、それじゃあ行くか。俺が最初に色々魔法をブチ込むから、ほどよいところで…、悪いが処理してくれ」

「あの…、師匠?」

「なんだ?」

「いや、なんでグローブとロッドを装備するのかなって」

「あぁ、本職用のマジックロッドは割合で補正が入るからな。素の魔法ステータスが高くないと効果が薄いんだ。だから[ミスティックロッド]で牽制とステータスの底上げをして、攻撃は[ウィザーズグローブ]を使う。これなら格闘系スキルも使えるしな」


 本来なら意味のない組み合わせだが…、俺の場合は装備の縛りを緩めるスキルが伸びており、なおかつ魔法面の基本ステータスが低いので魔法倍率ではなく、ステータス補正値と既存の物理スキルをいかせる装備を選んだ。


「その…、鞭とかは、使わないんですか?」

「いや、あっちは必要以上に(スキルレベルを)上げてもな…。それに、鞭はPTで使うとFF(同士討ち)しやすいからな。実際、この前なんどもFFしてしまったし…」


 そう、鞭は便利だが…、長物以上に狭い場所や密集陣形では使えない。イベントの時も、それで何度も(突然飛び出してきた)スバルを叩いてしまった。


「そんな! 気にしないでください。ボクなら…、その…」

「とりあえず、今回は魔法系スキルを伸ばしに来たんだ。お前は気にしないで経験値を稼げ。俺はMPの許す限り、ブッパしているから」

「は、はい…」


 L&Cの面白い要素の1つに、職業の概念があるのに、スキル自体はフリーな点が上げられるだろう。ある意味これもリアル志向の運営の計らいなのだろうが…、最低限の条件さえクリアすれば、スキルはちゃんと覚醒する。実戦で使おうとするとステータスやスキルスロットの問題が出てくるが、それでも転生前に転生後を見据えたスキルを上げておけるのは非常に助かる。




 そんなこんなで、午後はスバルに介護してもらいながら、魔法を放ちまくった。

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