#250(6週目月曜日・午後・セイン)

「せ! たっ! はぁーー!!」

「おとと、なかなかやりますね」

「ははは、派手でイイね~」


 昼、いつものようにギルドに顔を出すと…、スバルとSKが手合わせをしていた。SKにはこの前知り合った時にゲストIDをわたしておいたが、早くも馴染んでいる一安心。


「やっているな」

「おはよ~」

「あ! 師匠、お疲れさまです!!」

「お邪魔してるよ、アニキ」

「あぁ、しばらく(ギルド)掲示板をチェックしているから、そのまま続けていてくれ」


 (ちゃっかり録画しているアイドルは無視して)2人の試合を横目で見ながら、ギルド掲示板をチェックする。


 やはり、多いのは見る必要を感じない罵詈雑言や、ベテランぶった素人のアドバイスが多い。それと…、同盟関係の呼び出しなどだが、これはわざと無視しておく。煮物やカレーと同じで、時にはじっくり寝かせるのも大事だ。あとは…、「私のご主人様になってください」とか「瞬間移動接着剤の定義と利用法について」など本当に意味の分からない書き込みがチラホラ。


「はっ! そこだー!!」

「おっとと。1発もらっちゃいましたね」


 SKが放つ魔法が見事スバルにヒットする。まぁ、SKの魔法はただの目くらましなので実戦では無視が安定なのだが…、それでもヒットはヒットだ。スバルは、たしかに1対1の対人戦ではすでに充分すぎる強さを持っている。しかし、ゲーム初心者であるがゆえの弱点も多い。打撃系の武器の回避が苦手なのもそうだが、リアルに存在しない魔法や珍しい武器や戦術への対処など、まだまだ改善点は多い。


「キリもいいし、そろそろ終わりにしたら?」

「そうですね。それじゃあ…、ありがとうございました」

「うっす! あざーっす!!」


 相変わらず律義に礼をするスバル。そういう所はまさに「日本武道をやっています」って感じだ。それに…。


「別に詮索するつもりは無いが、やはりSKは部活でスポーツをやっていたクチか?」

「いや、まぁ…、その…」

「無理に言わなくてもいいから」

「そう言うわけじゃないんですけど、中学までは掛け持ちで運動部に所属していて、どれか1つってのが無くて…」

「あと、無理に敬語を使わなくていいぞ。多分だが…、歳はそんなに変わらない気がする」

「ん~、でも、なんかアニキって"お兄ちゃん"って感じなんだよな~」

「そ、そうか…」


 そんなに俺ってお兄ちゃん気質なのだろうか?


 それはともかく、俺が気を使うまでもなくスバルと打ち解けているようで安心した。スバルは一見、人当たりがよくて誰とでも仲良くなれそうに見えるが…、ナツキやアンダーワードみたいに時々まったくソリが合わないヤツもいる。SKは、夜はナツキたちとつるんでいるので、もしかしたらと思ったが…、どうやら杞憂だったようだ。


「しかし、お兄ちゃんもスミに置けないね~」


 嫌らしい笑みを浮かべてエセアイドルが話しかけてくる。そう言えばコイツはそのへんの事情を全く知らないんだった。


「そう言うのじゃないから。俺は初心者だからって甘やかす気はないし、連れまわす気もない」

「はぁ~、実際、アニキとアタシじゃ実力が違いすぎるもんね~」

「でもでも! SKは充分、スジは良いともうよ!?」

「へへへ~、ありがとっ」


 恥ずかし気に鼻をこすりながらこたえるSK。


 まぁ実際、贔屓しているのは事実だろう。たしかに才能はあると思うし、ナツキたちの事もあるので無下にする気はない。しかしそれ以上に「実験のこと」が気になっている自分がいる。


 SKと知り合い、彼女?が俺と同じリハビリシステムの被験者だと知ったのは、本当に偶然だった。切っ掛けはSKが魔人の試験に挑戦してソレが切っ掛けでナツキたちと知り合った事にはじまる。そして、俺が試験をクリアした後、その流れでナツキたちと一緒にいたSKと話をして…、自己紹介でアッサリ被験者だと判明した。俺の場合は開発にもかかわっているので守秘義務があるのだが…、孫世代の被験者であり、システムを一般公開した今、ただ最新のリハビリに挑戦しているだけのSKに守秘義務などは存在しない。だからリアルで俺とSKには何の繋がりもなく(選択肢は限られるが)どこの病院でシステムを体験しているのかも分からない。俺が勝手に気にかけているだけ。それだけだ。


 それが分かった後は、ナツキたち同様にゲストIDをわたし、昼なら特訓の相手(スバル)がいると教えた。もちろん、俺が養殖反対派なのは変わりないので…、間違っても狩りに連れて行って経験値を吸わせたり、装備を貢ぐようなマネをするつもりはない。まぁ、たまに指導と称してデスペナをプレゼントすることはあると思うが…、少なくとも実力がともなうまでは背中を任せるPTメンバーとして連れ歩くことは無いだろう。


 なにより、SKには同じ境遇のプレイヤーとして、一時的な快楽ではなく、本当のMMORPGを体験してほしい。そう思うからこそ、甘やかすことは無いだろう。


「それじゃあ悪いが、スバルは連れて行く。ホームは夕方までは自由に使っていいが、夜と土日は解放していないから悪しからず」

「うっす!」


 とは言え…、イベントもあってナツキたちを放置しているのも事実。3人にはPKとして協力してもらったし、埋め合わせの意味も込めて、今度時間を作って指導でもしてやるか? まぁ、その辺はあとでコノハにメールすればいいか…。




 そんな事を考えながら、用意しておいた新しい装備を持って狩りに出かける。出かけるのだが…、「コレを使うならSKを連れて行ってもいいか?」と、早くも決意が揺らいでしまう。まぁ、揺らいだところで俺がそんな優しい行動をとるわけも無いのだが…。

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