#253(6週目月曜日・夜・セイン)

 MMORPGのレベルに対する流れを大まかに3つに分けると以下のようになる。

①、序盤のサクサクとレベルが上がる時期。どんどんレベル(ステータス)やスキルが増え、いける場所や出来る事が増え、オープンワールドの"広さ"と"自由"が楽しめる。


②、中盤は成長が穏やかになり、装備やスキル構成でアバターの性能差が顕著に出てくる。経験値だけでなく、金銭効率や装備を目的とした行動も求められ、他者との交流機会も増える。人によってはアバターの作り直しも視野に入る時期だろう。


③、終盤はレベルアップやスキル覚醒が遅く、攻略が単調な作業になりがちになる。完成系に近い状態となり(不足を補い合うPTプレイより)ソロで黙々と狩りをする機会も多くなる。単調な作業であるからこそ序盤中盤よりも効率が重要で、人によって大きな差がでる。


 と、なるのだが…、L&Cにはスキルの獲得上限が存在していないので、終盤の単調なレベル上げの時期もスキルは流動的だったりする。そこで問題になるのはスキルスロットにセットするスキルやアイテムの構成だろう。狩場の難易度を下げて若いスキルを限界まで詰め込んだ状態で行くのか、難易度を落とさずに最低限の変更だけで行くのか。基本的には後者が推奨されているが、MMOは"自由"であり、明確な"正解"は存在しない。




「ん~、兄ちゃんが短剣以外を使っているのって、やっぱり違和感があるにゃ…」

「そうか? 今までもたまに鞭やシューターを使っていただろ?」

「そうにゃけど…」

「ふっ、武器の種類に意味はありません。兄さんは兄さんである時点で、兄さんなんです」

「うん、なんかイイ事言ったみたいな顔しているアイにゃんは、やっぱアイにゃんだにゃ~」

「よくわかりませんが…、つまりそう言うことです」


 相変わらず、全く噛み合っていないようで噛み合って…、は、いないけど、上手くやっている2人。2人のやりとりはしばらく放置するとして…、


 今回装備しているのは[ウィザーズグローブ]と[レイピア]。魔法使いにも色々な型があるが、今回は俗に「エルフスタイル」と呼ばれる物理攻撃と魔法攻撃を両立させるスタイルでいく。ステータス補正値と応用力で言えば[ミスティックロッド]のほうが高いのだが、物理攻撃力や軽さ(攻撃速度)は[レイピア]が勝っており。刺突系のスキルも伸ばしていきたいので…、しばらくはグローブを軸に、狩場にあわせて武器を入れ替える形になるだろう。




 そうこうしながらもやって来たのは旧都の夜エリア。シャドーハウンドやレイスなどの非実体系の魔物も出現するので魔法攻撃も有効になってくるエリアだ。


 とは言え、俺の魔法攻撃は相変わらず実戦で使えるほどの火力は無い。魔法はあくまで防御用。対抗魔法で魔物の魔法攻撃を軽減して、攻撃は今まで通り属性武器を使用する。


「そう言えば兄さん」

「ん?」

「次の金策はどうしますか?」

「あぁ、もう少し考えさせてくれ。そろそろ、市場に流して良いか悩ましくなってくるアイテムも増えてくるからな」

「そうですね、判断は兄さんに任せます」


 L&Cはアクション主体であり、他のRPGに比べれば遥かに装備の依存度は低い。それでも属性武器など「あるなし」で大きく選択肢を広げる装備も数多く存在する。


 ちょうど今相手にしているレイスなどの霊体系の魔物がまさにそうだ。霊体系は共通の特徴として「物理防御力が低い」ことが上げられる。当たり前と言えば当たり前だが、そもそも質量を持たないので物理防御力は基本ゼロだ。半霊体などの例外もあるが、ボスでも霊体系だと物理防御力はゼロだったりする。本来ならば物理攻撃自体が無効なので物理防御力は必要ないのだが…、何事にも例外があり、属性武器などの属性物理攻撃や一部のブーストスキルは霊体系にもダメージが通る。


「ん~、やはり霊体系は、相手にしていてつまらないな」

「装備やスキルで勝負がついちゃうからにゃ~」

「ラクに稼げますが、多用していると、腕がなまりそうですね」


 黙々と霊体系を狩っていく。


 シャドーハウンドがいい例だが…、霊体系は特殊能力が厄介なだけで、知能はゾンビと大差ない。それでも魔法を使ってくるヤツもいるが、それはそれで魔法対策さえできていればカカシも同然。むしろ、意味のない魔法を無駄に詠唱してくれる分、ゾンビよりも狩りやすいくらいだ。おまけに、属性武器があると、ステータスが足りていなくてもダメージが充分に通ってしまう。本来ならば相手の防御に軽減されてしまう部分が、全体が急所状態となり「何処にあてても同じ、それよりも手数」状態となってしまう。これではプレイヤースキルは育たない。むしろ鈍っていく一方だ。


 分かっていたことだが…、やはり俺には、こういう効率だけを重視するプレイングは肌に合わないようだ。




 とは言え、今さら止めるのも無駄が多いので思考停止して黙々と狩りを続ける。すると…。


「あぁそうだ、兄ちゃん」

「ん?」

「そのうち、ゴルゴン山脈の方にも行きたいにゃ」

「ドワーフか? それともエルフか??」

「どっちでもいいけど、"猫パンチ"がほしいのにゃ」

「あぁ…、考えてみよう」

「よろしくにゃ~」


 猫パンチとは、[ビーストグローブ]の俗称だ。物理面のステータスを大きく引き上げてくれるナックルで、ステータス補正値はナックル系では最大となる。最終的には特化装備の方が強いが、転生後も使える汎用装備としてはトップクラスだろう。


 しかし、とうぜん入手難易度も跳ね上がる。[アベンチャー]もそうだが、この手の装備を未転生の現状で入手しようと思うと…、L√のイベントでキーアイテムを報酬として貰うか、かなり無茶をして素材を集める必要がある。6時代ならイベントで入手できるアイテムは、けっこう露店で投げ売りされていたが、転生者がいない現状で強力な装備に加工できるアイテムを売りに出すバカはいないだろう。


 それこそ、勇者同盟のようなツテがあれば別だが…、草餅に啖呵を切った手前、いまさらだ。かと言ってゴルゴンはPTの相性が悪いので狩りで入手するのも神頼みになるだろう。しかし、まったく無理でも無いのが、また悩ましい。


 よし、あとで調べておこう。ナックル系は専門外だが、もしかしたら何かいい入手方法が見つかるかもしれない。




 そんな事を考えながら、霊体系の魔物を狩って狩って、狩りまくった。

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