#245(5週目日曜日・夜・????)

「くっそ! またやられた!!」

「つかさ、PK多すぎだろ!?」

「もうすぐ後半戦だ! 勇者出勤組に美味しいところを持っていかれる前に、俺たちも成果を上げるぞ!!」

「おう! PKなんかに負けてたまるか!!」


 (B)の村、王国軍侵攻部隊スポーンエリア。その場には…、頭に血がのぼったPCが"死に戻り"をくり返す光景があった。


「軽減があるとは言え…、あの人たち、ペナルティーが怖くないのか?」

「SKがそれ、言っちゃう?」

「ん~、アタシって、なんか皆が盛り上がっていると、逆に引いちゃうっていうか…、なんか上手く混ざれないんだよね~」

「よくわからないけど、まぁいいか。私も、無駄に死にたくないし」


 しかし、誰もが場の空気にのり、ハイになれるわけでは無い。3人はまさにそうだった。前日は勇者に挑んだりと暴れ回っていた3人だが…、今回は打って変わって、1歩引いた位置から傍観に徹している。


「勇者出勤だっけ? そろそろ、強い人が来るんだよね??」

「そうみたいですね。前半戦は、道中の魔物(経験値やドロップ)やマッピング(ルート値)で稼ぐ人が主体で、後半は本気で本陣の攻略を狙う人が来るみたい」

「「ふぅ~~ん」」


 何やら思うところはあるが、それをクチに出さずに遠くを見つめるナツキとSK。この2人、性格は真逆だが、根っこの部分で妙に気があうのであった。


「ぷっ」

「なによ、コノハ」

「いや、お姉ちゃんたち、息ピッタリだなって」

「ハハハ、まぁ、アニキの事もあるけど…、アタシ自身、ちょっと驚いてる。ぶっちゃけ私って、ホント友達いないし」

「え!?」

「意外ですね。アクティブだし、交友関係広そうだと思っていました…」

「ん~、なんて言ったらいいんだろ? 自分で言うのもなんだけど、中学の時まではソコソコ人気者だったんだ。でも…、その調子でお高くとまっていたら、見事に高校デビューに失敗して、それからズルズル落ちて行っちゃってね…」

「あぁ~、男の人だと、そういうパターンは多いみたいですね」

「みたいだね~」


 こんな調子で、なかなか出発しない3人。しかし、出発しない理由は他にもあった。


「あ、来たみたいですね」

「あぁ…、来ちゃったか…」

「ははは、いっぱい来たねぇ」


 現れたのは、コロッケがリーダーを務める自警団の戦闘部隊と検問部隊であり。コロッケは6時代、ヘアーズに在籍してランキングに名を連ねるところまでいった実力者だ。しかし、現在はリアルの都合でプレイ時間を大幅に自粛しており、ヘアーズから自警団に籍を移した。


「さて、それじゃあ、私たちもいきますか」

「そうですね」

「く~~ぅ、やっと暴れられるね」

「これで、村に潜んでいるPKの人たちが、かなり減るはずです」


 彼女たちは(魔人陣営の)セインに組するプレイヤーではあるが…、EDや同盟の工作とは無関係であり、村に入れば普通にPKの標的になる。今回(B)の村はEDメンバーに加えて多くのPKが参加しており、彼女たちは衝突を避ける意味も込めて活躍の舞台を譲ったのだ。




 コロッケたちはまず、スポーンエリアに検問を作る。彼らの作戦はこうだ。


①、(B)に集まったPCをBLでチェックする。BLは仮面などで判定を回避されてしまうが、リスポーンしてきたPCは例外なく仮面が破壊された状態であり、この段階ならBLが充分に機能する。


②、自警団の戦闘部隊が内部に突入して、PKを返り討ちにしていく。もちろん、なかには負けてしまう者もいるだろうが、それはそこまで重要ではない。最新のBLには性別や身長などで相手を推測する機能が追加された。例え仮面を破壊できずに負けたとしても、相手の姿を見てさえいれば、相手の判別が可能となる。


③、リスポーンしてきたPKを観衆の面前でPKだとバラしてしまう。PKが多く集まっているとは言え、総量では一般参加しているPCが遥かに上回っており、すでに散々キルされてヘイトも充分すぎるほど溜まっている。そんな状況で、PKが再度村に突入しようものなら、あっという間に囲まれてキルされる…、俗に言う"リスポーン狩り"状態となる。


 しかし、自警団も勇者同盟から釘を刺されている通り、イベントで魔人陣営に味方する行為は(運営基準では)違反とはならない。ゆえに前回は非参加だったが…、負け越す可能性が高いとあれば話もかわってくる。そして何より、自警団を束ねる団長は、傲慢で、自分の行いを都合よく正当化する人物だ。例え勇者同盟に釘を刺されていたとしても、グレーな部分があるなら、躊躇なく部隊を送り込んでくる。


 今回の場合なら、判明したPKをリストに加えて永続的に要注意人物にすることは出来ないが…、一時的な注意人物として、その場で晒し上げることは出来る。もしかすれば、ほかのプレイヤーがPKを掲示板などでさらし者にすることもあるかもしれないし、その事で結果的にアバターのデリートを余儀なくされるかもしれない。しかし、それは結果論であり、自警団は一切、そういった行為は指示していない。あくまで偶発的な産物にすぎないのだ。


「これでEDはお終いかな? なんか、釈然としないけど…」

「お姉ちゃん、言っておくけど、戦っても勝てないからね?」

「ぐっ」

「ハハハ、いいじゃん別に。折角だから挑戦しにいこうよ! PK専門のトップギルドなんでしょ? 挑戦する価値は、あると思うよ?」

「え、いや…、まぁ、いいのかな? どうせこれで最後だろうし」

「一応、主要メンバーは殆ど不参加で、しっかり生き残ってるけどね。まぁ…、シッポと言わず、胴体まで無くなるのは確かだけど」


 切っても痛くない下っ端しっぽと言えども、無限に生えてくるわけもなく、大々的に壊滅すれば…、例え主要メンバーが残っていても、組織が機能しなくなる。場合によっては残った主要メンバーが新生EDを結成する可能性はあるだろう。しかし、そこに「悪徳最強」のネームバリューは無く、弱体化は免れないだろう。それが現実であり、マンガのように都合のいいパワーアップも存在しない。


 その後3人は、一般参加者に混じって通常通りにイベントに参加し、PKと剣を交えたり、普通に魔物と戦った。




 そして最後に、彼女たちがPKに加わらなかった理由をもう1つ付け加えると…、この展開を事前に知っていた事が上げられるであろう。

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