#244(5週目日曜日・夜・????)

「しかし、本当にバックレてよかったのか?」

「行きたければどうぞ。まぁ、参加してもBLホモに目をつけられるだけ。俺はまだ自警団にケツを捧げる気はねぇよ」

「おまえ、来るもの拒まず、後ろの穴はワールドワイドじゃなかったのか?」

「ホモじゃねぇし! あと、ヤルなら受けよりも攻めだな。そっちなら、まぁ…」

「お、おう…」


 L&Cのイベントは、ほかのネットゲームに比べるとプレイヤーの参加率は悪いと言えるだろう。その理由は「イベントに魅力がない」とか「時間帯が悪い」と言った理由とは別ベクトルの問題であり…、作為的にそうなるようにデザインされているのだ。つまり、L&Cは「プレイスタイルを強制しない」と言う言葉に集約される。ハッキリ言ってしまうと、制作スタッフのマネージメント能力やコンテンツを提供する提案力は、現行タイトルの中では下から数えた方が早い、むしろ「ネットゲームの運営の常識に喧嘩を売っている」ような運営スタイルとなっている。


 もちろん、悪いのは営利目的で運営を考えた場合であり、独自のゲームデザインには根強いファンが多数おり「唯一無二のタイトル」として確固たる地位を築いている。そんなわけで、L&Cは何度か経営危機に陥ったものの…、買収されて制作会社が今の"OVG"に代わってからは経済状況は安定しており、制作陣も(基本的には)安心して「自分たちが思い描いた理想のゲーム」の制作に取り組めている…、と、言えるだろう。


「おっす。なんだ、こんなところで。狩りにはいかないのか?」

「おっす。気が乗らなくてな」

「つかさ、なんか最近、つまらなくなったよな…」

「だな。さっさと転生しちまえばいいんだろうけど…、それまではBLに怯えながらって感じで…」

「ぶっちゃけ、怯えさせるのは好きだけど、怯えながらプレイするのはゴメンなんだよな…」

「「だな」」


 イベント中にもかかわらず、何をするでもなく路地裏でたむろするPCがいた。MMOでは珍しくない光景なのだが…、たむろしているのは他でもないPK主体のギルドではトップと謳われるEDの1軍メンバーだ。


「つかさ、同盟、ウザすぎじゃね?」

「だな」

「俺たち(ED)ってさ、基本的に持ちつ持たれつっつうか、情報とか報酬目当てでって感じだったのに…、最近じゃ完全に見下して、命令するばっか。リスクなんて無視の捨て駒扱いだよな?」

「だな」

「まぁ、前からそう思っていたんだろうけど…、BLのせいで本格的に使いつぶしに来てるよな。もう、EDは終わりだから、いくらガメオベラしてもOK…、みたいな?」

「だなだな」

「あぁ、わかりみでハゲそう」

「だな」

「「(こいつ、さっきから"だな"しか言わねぇな)」」


「そう言えば、ム~チョやブラウスはどうしてるんだ?」

「ブラウスはともかく、ム~チョさんは本当に見なくなったな」

「だな」

「あの人は武闘派だからな…。もしかしたらアバター作り直してるかも」

「あぁ、ありそう」

「だな」

「「(イラッ)」」

「ブラウスは…、多分、ヘアーズのところだと思う」

「例の新チームか…」

「正直、気のりはしないけど…、このまま同盟に組していてもジリ貧になるのは見えている。それなら、鞍替えは仕方ない事だ」


 EDは、同盟の庇護で大きくなった悪徳ギルドであり、6時代まで互いに切っても切り離せない関係だった。しかし、7に移行してからは…、「最速攻略のためにC√PCに積極的に暴れて欲しい」勇者側と「リスクが高いので未転生時は目立ちたくない」ED側で、徐々に認識や心の距離が離れて行った。


 そんな中、EDが新たに注目したのはヘアーズだった。ヘアーズは(同盟のような)組織的な工作はおこなっていない。あくまでチーム間で競い合う事で上を目指す組織であり、ゆえに表向きは「L&Cのトップ」と言われていても、裏では勇者同盟にゲームを支配されていた。


 そうなるとヘアーズの中にも、商人を中心にした情報戦専用チームや、PKやCルートの攻略チームを作ろうという意見が上がるのも当然の流れ。これまでも商人メインのチームはあったし、クエストをすすめないNルートのチームは幾つかあった。しかし、それぞれは自由意思によって集まっただけに過ぎず…、妨害工作などを前提としたチームでは決してなかった。


「ぶっちゃけどうよ? ヘアーズって」

「むしろ、お得意さんだったしな。もちろん、エモノ的な意味で」

「だな」

「チッ! あそこは良いも悪いも無い。ヘアーズとしての漠然とした行動方針とかはあるけど、個々の活動は名前に泥をぬるような行為をしなければ基本フリーだ」

「でも、PKのチームまで作ったら、泥パックもいいところだよな?」

「上手いこと言うな。泥でも、それで綺麗になれるなら、人はかぶる」

「いや、そこまで考えていったわけじゃ…」

「ブラウスもこの件はかなり慎重で、なかなか教えてくれないが…、どうもヘアーズのシステムをパクった別組織って事になるみたいだな。もちろん、表向きは、だけど」


 ヘアーズは、専用のホームページでギルド員を募集しており、そこに必要事項を記入すると、自動的に時間帯やPT構成にマッチするプレイヤーを紹介してもらえる。最初に紹介などは必要もなく、マッチングまでは機械的で、他者と話をする必要もない。ネットゲームにハマるものはコミュニケーション能力に難を抱えるものが多く、そう言った部分もヘアーズの人気を支える1つの大きなポイントと言えよう。


 もともとCルート攻略はギルドなどに属する利点が少ない。C値の分配はPTに属していても個別分配であり…、例えば直接戦闘に参加しないヒーラーが居れば、そのPCにはC値は殆ど加算されない。他にも様々な理由から、C√で長く続くギルドは(悪徳ギルドを除き)殆ど存在しない。


 しかし、ヘアーズのお見合いスタイルは、未転生時の一時的な連携にもマッチしている。とくに今は、BLや自警団が目を光らせているので未転生時のCルート攻略は困難と言われており、状況がソレを後押ししていた。


「怖いのは、やっぱり同盟の制裁だよな。もう、バックレちゃったから今更だけど…、最悪、引退かゲームオーバーかってところまで考えてた」

「だな」

「「チッ!!」」

「??」

「あぁ、そうだ。これはココだけの秘密なんだけど…」

「「??」」

「どうも、加入するならキャラリセの手伝いをしてくれるって話があるみたいだ」

「つまり、装備や経験値を補完してくれるってこと?」

「そういうこと。どういう風になるかまでは分からないけど、ガメオベラも1つの選択肢だと思っていいぞ」




 その後も、EDメンバーの雑談は続く。本来は見せ場であるはずの、侵攻イベントの最中に…。

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