#243(5週目日曜日・夜・セイン)
「こっちは行き止まりみたいですよ」
「あ、親切にどうも」
「判明している順路は、そっちを右に行って、家の裏を迂回するルートみたいです」
「魔物もいますけど、お願いしていいですか?」
「任せてください! 回復アイテムはバッチリですから!!」
「マッピングありがとうございます!」
「あざ~っす」
すれ違うPTが、情報を交換しながら攻略を進める。片方はじっくりマッピングに専念して、遅れて来たPCに判明している順路を伝える。
一見、微笑ましい協力プレイに見えるが…、マッピングをおこなっているPTはEDの下っ端であり、わざとマッピングを遅らせながら、やってきたPTをキルゾーンに誘導していく。
キルゾーンでは、別のPTが待機しており、ターゲットが魔物と戦闘になったところを"上"から襲う。魔人陣営とPKは「敵の敵」と言えども、システム的には王国軍側であり、魔物を囮にしようにも自分たちも襲われてしまう。だから建物の高低差を使い、安全な場所から奇襲するのだ。この作戦は使える場所が非常に限られるものの、誘導係とうまく連携すれば前半戦を乗り切れるくらいはもつだろう。
「お疲れさま」
「あ、セインさん。お疲れさまです」
「うっす!」
「ども…」
屋根から降りてEDの下っ端に声をかける。コイツラは(EDが分裂しかかっている事もあり)同盟が俺によこした協力者だ。一応、俺の部下って事になるのか? 俺が担当している(A)の村に配備されたPKを指揮しているのが、そこの"山形県太郎"で、そのPTメンバーの"焼29"と"岩田哲夫"だ。この3人は同盟とも繋がりがあり、その3人の指揮権が俺にわたったわけだ。
「厄介なPCや、団体は来ていないか?」
「今のところはデスペナを気にしていない特攻PTが中心みたいですね」
「(B)の状況は?」
「あっちは人数多めなので、今のところは問題ないみたいですけど…、多少苦戦はしているみたいですね」
「あっちはセインさんが居ないですからね~」
「コッチにはセインさんが居るんで、むこうに流れているんじゃね?」
「「あぁ~」」
攻め込める村が2拓なら簡単そうな方を選ぶのは当然の思考。あまり大変そうなら、俺が出向いて手を貸す必要も出てくるだろうが…、あちらにはすでに充分な人数(EDだけでなく他のPKグループも集まっている)がいるし、何よりグループを指揮する別の指揮官がいる。
同盟が気を使ったか、それとも単純に志願なのかは知らないが…、こちらのグループは俺に友好的なのに対して、むこうのグループは俺を敵視している傾向がある。言うなれば(B)は、EDの上位メンバーの支持者だったり、成り上がりを狙っているハングリーなヤツが中心に集まっているようだ。
「まぁいい、どうせ終盤になれば強制的にマップはオープンになる。無理しないで、厄介そうな連中はドンドン通していいぞ」
「このBL、L√PCにも対応してくれたらラクなのにな…」
「犯罪者を抑制する目的で作ったはずのソフトでか?」
「「ハハハハァ」」
出来ない事も無いんだが…、そのあたりに手を出すとブチ切れそうなヤツがいるので、手を出すつもりは無い。いや、全く無いわけでも無いのだが、それは"今"では無いだろう。
「それで、"赤"はまだ現れていないのか?」
「まだみたいですね」
「つかさ、そのへんの情報、同盟は掴んでないわけ?」
「スパイ的なのを送りこんでそうなもんだけど…、その手の情報はなかなか掴めないみたいだ」
「ヘアーズはあくまで、プレイスタイルが合う人を見繕っているだけ。同盟みたいに組織的に策を
「「へぇ~」」
クレナイが所属するヘアーズは、あくまでPTメンバーをマッチングしているだけで、基本的には各チームが個別に動き、互いに競い合う事で成り立っている。つまり、ヘアーズの各チームは同じギルドに所属する仲間である以上に"ライバル"なのだ。だからスパイを送り込んでもチーム個別の動きは掴めない。せいぜい、全体としての活動方針が分かる程度だ。
「それじゃあ、コッチはよろしく。余裕があるうちに(B)にも挨拶にいってくる」
「あぁ、そうですね。(B)は好き勝手に暴れ回っている見たいですけど…、話は通しておきますよ」
「あぁ、頼む」
ざっとコチラのメンバーを見てきたが、突出した実力者はいなかった。あつまったPKの中には転生用のC値を稼ぐために協力している人外転生予定者…、特にC√ランカーや元魔王が混じっていないかと思ったが…、少なくとも(A)には居ないようだ。やはりC√攻略者は、ヘイトを稼がないように転生序盤はセーブしているようだ。
気はすすまないが、いったん持ち場を離れて(B)へ向かう。あくまで挨拶だが…、今後の展開のためにも、危険な動きや頭角をあらわすであろうPCは出来るだけ確認しておきたい。
こうして、打って変わって最終日は、憂鬱な挨拶まわりに時間を費やした。
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