#241(5週目日曜日・夜・????)

「そちらの状況はどうだ? 怪しいPCは人数の許す限りマークをつけろ」

『こっちは今のところ問題ない。"新型"のおかげでアタリをつけるのも…。…。』


 魔人侵攻イベント最終日、王国軍側侵攻部隊スポーンエリア。本イベント開始を直前にひかえ、その場所はいつになく物々しい雰囲気につつまれていた。


 その1番の理由と言えば、自警団の本格介入が上げられるだろう。イベントは3つの村を2日間に分けて取り合うものだが…、普通のゲームと違い、結果が今後の展開に影響を及ぼす。

①、最終日に2つ以上村を支配している陣営が勝利となり3つの村(最後に強制イベントが発生してどちらかの領地に統一される)と周辺エリアの支配権が変更される。魔人陣営になった場合は王国側のPC(初期状態の全てのプレイヤーが該当する)は村に立ち入れなくなり(村にはギルドホームを設置できないので転送も不可)周辺エリアの魔物が強化される。


②、全てのエリアで魔物のAIが1段階強化される。(ボスなどの特殊AIを持っている個体は除く)魔物の中には同一種族でも個体差が存在する種族がおり(装備持ちゴブリンなど)対応した種族は特殊個体の出現率も増加する。つまり難易度が1段階あがるのだが、特殊個体には追加ドロップが存在する事もあり、メリットも存在する。


③、進行度依存のイベントの発生条件。隠し要素なので確認する手段は存在しないが、重要なイベントには様々な発生条件が存在する。極端な話、C√PCが存在しなくなるとL√イベントが途中で全く発生しなくなる。あえて嫌らしく言えば、英雄の登場には「人類の危機」が必要なのだ。


「ただいま。とりあえず目星はつけておいたが…、遅れて来るやつも多い。油断はできないぞ」

「おつかれ。新型はあくまで目星をつけるだけだからな。過信は禁物だが、使いこなせば大きな武器になる」


 彼らは自警団。自警団は、進行度よりも一般L√PCが快適にプレイできるよう、NPC狩りの根絶や難易度の維持を目的としている。イベントでは、当初は初回と言う事もあり王国軍側が勝つと思われていたが…、負け越す可能性が出てきたため、急きょ警備をとりやめてイベントに人員を投入した。


 そして彼らは新しい武器(新型)を投入していた。一般配布しているアバター判別ソフト、通称BLの自警団専用モデル。通常モデルでは、背格好などの身体データから個人を特定していたが、仮面やローブを用いることで判別を回避できてしまった。専用モデルでは、身長や性別などをもとに危険人物に"近い"PCを判別する機能が追加された。これにより、外見を隠しているPCが相手でも大体の目星がつけられるようになった。


 ED上位陣が同盟の指示を無視してイベントの介入をボイコットした理由はコレだ。EDは自警団に潜り込ませたスパイの情報からBLにアップデートが入ることを事前に入手していた。詳しい内容までは分からなかったものの…、彼らは同盟に逆らうリスクを背負ってでもイベントでの露出を避けた。


「そういえば、クレナイは見かけたか?」

「いや、見ていない。ほかの村にもまだ顔を出していないようだ」

「また、状況を見て遅れて現れるつもりなんだろうな…」

「だろうな。アイツが出てきてくれれば、仕事がラクになるんだが…」


 自警団の目標は"勝ち越し"であり、既に領地である3つめの村(C)の防衛に加えて、最初(A)と次(B)の村のうちどちらかを取り戻す必要がある。そこで考えた作戦は…、

①、クレナイなどのイベントに参加する上位PCを密かにサポートをする。つまりBL使ってPKK(プレイヤーキラー狩り)をするわけだ。


②、クレナイが攻略を途中で放棄した理由は「勇者候補が道中でキルされた」からであり、クレナイ自身は(おそらく侵攻イベントを早めるために)イベントの勝ち越しを望んでいない。つまり、勇者候補が途中でキルされないように陰ながらサポートすれば、部隊が直接手を下さなくとも、本陣も攻略してもらえる。


③、最悪の場合、自警団を動員してAかBを攻略する。攻略には殺気コロッケの部隊があたる手はずだが、同じくその露払いが求められる。(コロッケの実力なら本陣のボスは倒せるが、上位のPKには勝てる保証はない)


④、優先順位は下がるが、今後の活動のために魔人側に組しているPCのIDを出来るだけ多く集める。


 つまり、彼らは自警団…、正確には団長の指示で集められた新たな執行部隊。俗に"H"と呼ばれる部隊のメンバーだ。


 因みに、執行部隊は隠蔽のためにいくつかのダミーチームが作られており、お互いに本当のHがどのチームなのか知らないまま、連携を取り合って行動している。チーム間ではHの正体に目星をつけている者もいるかもしれないが…、それを抜きにしてもチームはそれぞれ実力と信頼性を兼ね備えた者が揃っている。決して、撹乱と数合わせで集められた烏合の衆ではないのだ。


「それで、あのセインだっけ? 実際のところ、どんなプレイヤーなんだ??」

「それは、実力的な意味でか? それとも人間性の話か??」

「どちらでもいいよ。半分、時間つぶしだし。こちらは相手が何であろうと作戦通りやるだけ。クレナイが負けるような事態にならないかぎり、直接の介入は避ける」


 準備も一通り終わり、話題は一連の騒動の中心にいる人物へと移る。


「なんでも、そうとう強気な性格らしいな。大勢に囲まれても、怯むどころかグイグイ威圧してくるらしいぜ?」

「正直に言って、正気の沙汰とは思えないよな。スリルジャンキーと言うべきか…、ゲームとは言え、L&Cのデスペナは重い。例え相応の実力があったとしても、わざわざ危ない橋を選ぶ意味は、狂気としか言えないだろ?」

「どうなんだろうな? どこの組織も、セインの正体は掴めずにいる。一応、つるんでいるPCはいるみたいだ。妹やその友達など、信頼できるリアルの知り合いで固めているみたいだが…、基本はあくまでソロみたいだ」

「まぁ妹の知り合いだと居心地は悪いよな」

「そうか? 俺としては羨ましくて血涙と血尿と血便を流しそうなんだが…」

「病院にいってこい。いや、実妹を持てばわかるさ…。それより、戦闘スタイルや6時代の実績はどうなんだ? まったくのノーマークだったらしいが」


「戦闘スタイルは対人特化の短剣使いだ。ジョブはスカウトで、派手なスキルには頼らず手堅く補助系パッシブでガチガチに固めているらしい」

「Cだとありそうだけど、本当にL√PCなのか? そんなんでボスは狩れないだろう??」

「そうでもないらしいぞ? 対人特化と言っても、対人戦をやるのは身内とじゃれ合う時だけらしい。なにより、一部ではボスハンターと呼ばれているくらいだ。まぁ、短剣でボスを狩るなんて効率悪すぎると思うが…、それでも各地でボスを狩っているところを何度も目撃されている」

「やはり他のゲームから引っ越してきたと見るべきだろうな。L&Cのセオリーから外れる部分が多すぎる。他のゲームで、短剣で無双できるタイプのゲーム、それも7世代に移行できなかったゲームを…」


「だな。まぁあと、勇者同盟やEDとのつながりは不明らしい」

「いや、間違いなく、EDやPKはヤツの味方だろ? グルでなかったら、誰が占領した村を守るんだよ?」

「そうなんだが、少なくともEDとは何度も衝突しているらしいぞ? ガセネタって可能性もあるけど…、もともとL√で、自警団に協力していたことから、全くのガセってわけでもなさそうだ」

「勇者同盟はどうなんだ?」

「同盟の情報屋に頻繁に接触している。商人だから偶然って可能性もあるだろうけど…、もしかしたら同盟がEDとは別口で雇っている…、つまり同盟がセインを援助する構図なのかもな。C√の進行度のために」

「なるほど。しかし…」

「ん?」

「情報網、すごいな」

「あぁ、なんか最近の自警団って相当デカくなったらしくって、結構タレコミが入ってくるらしいぞ?」

「なるほどな。…おっといけない。もうこんな時間だ。それじゃあ、お仕事、がんばりますか」

「おう!」


 自警団はセインと敵対しているものの…、じつはそれほど強い敵意は持っていない。一時期は一部の人物が過剰に意識して、根も葉もないうわさを流していた時期もあるが、それも当事者が組織から追い出されたことにより、完全に鎮静化した。加えて、彼がPKではない事や、団長が堅物な点があげられるだろう。団長の性格は皆が知るところであり、少なからず多くの団員が察している状況となっている。


 しかし、実害が出るのなら話は別。このまま魔人側に勝ちこされると自警団としては都合が悪い。幸いなことに、自警団の運営は好調であり、なによりBLとH、2つ大きな武器がある。そして、それを効果的に運用するための情報。自警団は、組織の特性上、攻略などの上を目指す行為には関わらない組織ではあるが…、それでも今の自警団は、ノリにノッテいた。




 しかし、彼らは知らない。その情報をもたらした者が、火中の人、本人であることを…。

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