#240(5週目日曜日・午後・ニャンコロ)
「そういえば…、アイにゃんのところには"お誘い"は来てないのにゃ?」
「ん? なんの話ですか??」
午後、私は(自由連合の集会に参加したくなかったので、同じく逃げてきた)アイちゃんと一緒に、旧都へ向かう事となった。目的はレベル上げ。特別ほしいアイテムも無いので…、経験値目的で黙々とザコを狩る予定だ。
「いや、だからギルドとかPTの勧誘にゃ?」
「はい? そんなものすべて断っているに決まっているじゃないですか??」
「うん。それは分かってるのにゃ。そっちじゃなくて…、断るのとかしつこい勧誘が来たら、どうしてるのかにゃって…」
私は、自慢じゃないが、よく声をかけられる。実力もそうだが…、一番重視されているのは、たぶん性別なんだと思う。特に、サポート特化の女性ヒーラーは実力を無視してモテまくる。サポート型のソロは困難なのでフリーである可能性は非常に低いが…、もしいれば、ストーカーまがいの困った人がでてきても何ら不思議はない。私はヒーラーではないが、マスコット的なポジションだろうか? やはり、PTやギルドに女性がいるだけで集まりが全然違うそうだ。
そんなわけで、6時代は様々な組織から粘着まがいの勧誘を受けた。今は兄ちゃんとツルんでいるおかげで落ち着いたが…、それでも1人でうろついていると、まず間違いなく声をかけられる。アイちゃんも、そう言う被害があるからこそ、ツンツンしながらもこうやって付き合ってくれているのだろう。あるいは、私の事を本当に空気としか思っていないか…。
「そうですね。無くは無いですが…、私は最初からハッキリ断っているので、そこまで酷くは無いですね。ただ…」
「ただ?」
珍しくバツの悪そうな表情を見せるアイちゃん。なにか秘密でもあるのだろうか?
「いえ、ただ…、高確率で戦闘になるので、結果的に予定が狂いやすいと言うか…」
「あぁ、うん。予想以上に予想通りで安心したにゃ」
ブレない、流石アイちゃんブレない!
「基本的には、即通報するようにしているのですけど…、やはり1人で出歩くと諦めなかったり、馴れ馴れしく(戦闘に)割り込んできてヒーロー気取りなPCは…、いますね」
「あぁ、いるいる。分かりみで十円ハゲが出きそうにゃ」
「犬は聞きますけど…、猫も円形脱毛症になるのですね」
「いや、なりそうってだけにゃ。勝手にハゲにしないで、これでも女の子だから」
「 ………。」
すると、とつぜん視線を外して歩きだすアイちゃん。
「あぁ、話の途中で興味なくして行こうとしないで! そんなだから、トラブルになるのにゃ!!」
「ぐっ。分かってはいるのですが…、どうにも興味のない話に思考をさくのが苦痛で」
「あぁ、うん。なんかごめんなさい」
女性でここまでバッサリ切り捨ててくる子は、本当に珍しい。普通は"嫌でも"周囲にあわせようとするし、周囲の評価や"普通"に埋没しようとするもの。私だって、本当はアイちゃんみたいに唯我独尊、好き勝手、自由気ままに自分らしく生きていきたい。そう思っているのだが…、どうにもこうにも、踏ん切りがつかずにダラダラと流されて、当たり障りのない選択を選んでしまう。
「…、そうですね。余裕があるとはいえ、今はレベル上げに専念しましょう」
少しだけ間をおいてこたえるアイちゃん。彼女は私の事を嫌ってはいない。あくまで"空気"であり、素直に私が謝ったせいで返しの言葉に詰まったようだ。今さらだが…、
模範解答は「アイにゃんは、もうすこし可愛げをもった方がいいのにゃ」かな? そうすれば、「できれば兄さんには、異性を意識してもらいたいのですけど…、やはり、もっと妹の立場を利用して積極的にスキンシップをとっていった方がいいのでしょうか…」ときて「いや、兄ちゃん以外の話にゃ」「??」の流れが理想かな?
「アイにゃんの冗談はマジすぎて冗談として成立していないにゃ」
「??」
そんなやり取りをしながら、混雑している旧都の入り口をやりすごし、奥へと進んでいく。すると…、
「まずい、処理が追いつかないぞ」
「ぐっ!? 回復を頼む、そろそろHPがやばい」
「さっきから無茶しすぎだ。もうすこしセーブしろ」
「そんなこと言ったって、まずコイツラを処理しないと!」
見るからにピンチそうなPTが目の前にあらわれた。
「 ………。」
そして、それを当然のようにスルーするアイちゃんがいた。
「あぁ、やっぱりスルーするのね…」
「??」
マジでピンチのPTを無視(気にもとめず)して、すこし行くと…、
「あの! にゃんころ仮面さんですよね? あと…」
「 ………。」
「 ………。」
「「 ………。」」
突然の沈黙。ナンパだか勧誘だかで2人組の男性PCに声をかけられるも(アイちゃんの)名前を聞く流れを完全に無視しているので話が進まない。
「えっと…、お名前を伺ってもいいですか?」
「お断りします」
当然、相手にしないで…、そのまま立ち去ろうとするアイちゃん。
「ちょっとまって!」
「いいジャン別に。キミたち姉妹なんでしょ? よかったら一緒に狩りしない??」
「そうそう、俺たちこう見えて…、って! いや、マジで話聞けよ!!」
「チッ! さすがに失礼すぎじゃね?」
制止を再度無視して立ち去ろうとするアイちゃんに、はやくもキレる2人。
「通報しました。お引き取りを」
有無を言わさぬ通報。無表情なので分かりにくいが…、すでにアイちゃんも、キレる寸前だ。
「はぁ!? こいつマジで通報しやがった!!」
「うわっ、通知きた。つか、俺らを誰だと思ってるの? しってる? 俺たち…、って! だから止まれっての!!」
あくまで取り合おうとしないアイちゃんに…、キレた2人が強引に道をふさぐ。雰囲気からして、この2人、有名人なのかな? ん~、だめだ。なんか見たことある気がするけど、思い出せない。たぶん、実況者か何かだろう。
「目障りです」
「はぁ? 今なんつった!?」
「下手に出てれば調子に…、って! だから、話を、聞け!!」
話の途中でもお構いなしに襲い掛かるアイちゃん。「取りつく島もない」とはまさにこう言うことを言うのだろう。
結局、その後は2対2の乱戦になってしまったが…、話し合いではなく武力での解決にスッキリとした気分を覚えている私に、アイちゃんを責める資格はないのだろう。
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