#239(5週目日曜日・午後・セイン3)
「そこのPC、止まれ」
「セインだな。お前に話がある」
「 ………。」
エキシビジョンも終わり、自由連合のギルドに戻ろうとしたところで…、仮面とローブで姿を隠した3人組みに取り囲まれる。声は、変成器だろうか? あえて質の悪い声に変換しているようだ。これは、照合しても無駄と言うアピールだろうか?
「3人で俺を止められるつもりか?」
「それだけの戦力を、用意した」
「「 ………。」」
いかにも「アニメとかに出てきて重要人物を口封じしそう」な連中だが…、流石にそこまでバカげた強さ(強制イベント)は無いだろう。たぶん、だが…。
「まぁいい。だいたい予想は出来ている。さっさと本題を言え」
「なぜ、同盟を裏切った。返答次第では…、制裁を加える」
「「 ………。」」
やはり勇者同盟のまわし者だったか。まぁ、メッセージは無視しているので、どうしても今日のイベントが始まる前に、真意を確認しておきたかったのだろう。
「裏切ったとは何のことだ?」
「とぼけても、ためにはならんぞ?」
「なぜ、指示に反して村を落としたと聞いている」
「 ………。」
どうでもいいが、勇者同盟にもファントムナイツみたいなノリの連中がいたんだな…。
「俺の依頼は、魔人の試験に合格して(魔人側の)村を守る事。役目は確り果たしたはずだ」
そう、俺は契約をなに1つ破ってはいない。ただ単に"余計な事"をしただけだ。
「結果論だな」
「お前の勝手な行動のせいで予定が大きく狂った」
「よもや詭弁でこの場を乗り切れると、思うなよ?」
「なんだ、ヤルきがあるならサッサとかかってこい。その方がシンプルでいい」
「「「 ………。」」」
挑発には乗らないか。まぁ、こいつらは伝達役で、報復は別の形の可能性もあるか…。
「冗談だって。あくまで俺はイレギュラー(クレナイの出現)に対してベストを尽くしただけ。むしろ、あの状況で最善を尽くしたと褒めてもらいたいくらいだね。ぶっちゃけた話、クレナイに取引を持ちかけられたんだよ。脅しまがいのな」
「 …続けろ」
「へいへい。クレナイは、たしかに後続の育成のために勇者候補を村につれてきた。しかし、連中の目的はソレ以外にもあった。だから、同盟が守っている村を俺に襲わせたんだよ。用意周到なことに、村のマップや手引きする人材付きでな。そうじゃなきゃ、あんな無茶な速攻アタック、決まるわけがないだろ?」
「「「 ………。」」」
「連中は基本的に同盟と同じ考えだ。しかし、違いがあるとすれば…、競合組織(人数ではヘアーズが最大勢力だが、実質的にゲームを支配しているのは勇者同盟)であり、同盟を蹴落とす事を最優先にしている点だろう。進行度は、まぁ出来るだけ程度?ってところか…。本当は自前で魔人の試験に受かるヤツを用意したかったんだろうが、そう都合よくもいかない。だから連中は、俺に村を襲わなければいけない理由を作った」
「ほほう、いったいどんな言い訳だ? それとも宣戦布告でもしてくれるのか??」
はじめから同盟に組するつもりは無いが…、俺がヘアーズに寝返ったとでも思っているようだな。
「まず、お前たちは俺が同盟を裏切ったと言ったが…、それは大間違いだ。むしろ同盟の"目的"を確り果たしている」
「 …それで?」
「まず、流石の俺もクレナイのフルPT相手じゃ勝ち目はない」
「だろうな」
「そこで、見逃すかわりに防衛側の村を襲ってこいと言われた。もちろん、デスペナ程度と引き換えに、同盟に逆らうなんて取引としてアンフェアもいいところだ。例え、ヘアーズで好待遇が約束されていたとしてもな。問題は…
①、このままクレナイと戦っても勝ち目はない。そして負けると村はとられるだけでなく…、魔人陣営に勝たせたいと言う同盟の目的を達成できなくなる。(初日に村を失うと、最終日には侵攻側として2つ以上村を落とす必要があり、流石にそれは1人では実現不可能)
②、対して、初日に防衛側の村を攻略しておけば、クレナイが約束を守ろうが守るまいが、1つ以上村を確保した状態で最終日を迎えられる。(防衛側の本陣に攻め込めるのは俺だけだが、占領した村を守るだけならパシリのPKでもなんとかなる)
③、勇者候補はともかく、クレナイ自身は(実力的に余裕だと思っているのか)√値稼ぎを焦ってはいない。俺が候補をキルしたことにより、候補は候補から外れ、このまま村を落とす必要が無くなった。さまざまな理由が(同盟と不仲にさせたいとか、最終日の戦略の都合など)考えられるが…、PTが欠けた状態で無理に本陣に挑む必要は無くなった。
…ってところか」
「なるほど…」
「だから俺は、同盟が最優先にしている"進行度"を確保するために、一か八かでクレナイの提案を飲んだわけだ。結果、クレナイは律義に約束を守り、村を攻めなかった。そして、同盟は俺を止められなかった。そもそも、クレナイが現れた時点で臨機応変な対応が必要だったのに…、現場の判断に丸投げしたのはソッチだろ? それなのに、最善の判断に文句を言うのはスジ違いだと思わないか?」
「っ!!」
「なるほどな…」
「では、なぜ連絡をよこさなかった?」
「連絡って、どこにだよ? 俺は同盟の正式なメンバーではない。(メンバーリストも貰っていない)回りくどい仲介役との面識はあるがな。そもそも…、同盟は、あくまで個人の利益を優先する切って切られての組織じゃなかったのか?」
連絡をとるべき相手は察しているものの…、それでも俺は使いっぱしりの捨て駒であり、正式な連絡手段を貰っていない。なにより、勇者同盟に
なにより、トップの座を巡って争いが起きてしまう。それが勇者同盟と呼ばれる組織の特徴であり…、弱点だ。
「知ったクチを…」
「まぁ押さえろ。言いたいことはあるが、今はその時ではない」
「時間が惜しい。本題に入ろう」
「そうだな…。色々と問題が複雑になっている。特に今回は自警団のHが出張ってくる可能性も考えられる。お前の意見を聞かせろ」
まぁ、詳しい事情を知っているはずの俺がギリギリまで逃げ回っていたんだ。まともな作戦なんてあるはずがない。
「ヘアーズは新しい勇者候補を連れて、また攻め込んでくるだろう。ハッキリ言って俺1人でフルPTに勝つのは不可能だ。頼みだった助っ人(EDの上位陣)はBLにビビッてボイコットを決めこんでいるみたいだしな」
「「「 ………。」」」
「だから、俺が狙うのは…。…。」
同盟は俺を信じきれていないのは確かだろう。しかし、俺の真の目的を見抜くのは不可能。せいぜい波乱に振り回されてくれ。
こうして、俺と同盟の話し合い?は取りあえずの形で纏まった。
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