#238(5週目日曜日・午後・????)

「ウソだろ…。 十字砲火とか、そんなレベルじゃねぇぞ!?」

「ランカーて、あんなバケモノの集まりなのかよ?」

「落ち着け! セインのアバターは俺たちのとはレベルからして違う。スキルやステータスで相当な補助が入っているはずだ!!」


 草むらに隠れた3人が慌てふためく。


 彼らは曲がりなりにもこのゲームをやり込んでおり、三方向からの同時攻撃を回避する難易度を理解している。それは漠然とした"認識"ではなく、自分たちには逆立ちしても辿り着けない遥かなる高見であるという確かな"実感"であった。


「つか、こんなバケモノどうやって倒せって言うんだよ? 無理ゲーすぎないか??」


 しかし、そこはあくまでゲームの世界。彼らは少なからず畏怖いふの念を感じていたが…、同時に喜びにも似た不可思議な感情を抱き、口元をほころばせていた。


「つかさ、アンダーワードの連中だけハンデなしかよ?って思ってたけど…、そう言うことかよ? いや、マジでウケるんですけど??」

「ダメだ、あのバケモノ、1人でアンダーワード3人以上に強いんじゃん!?」

「つまりはアレだ。抽選で選ばれた2チームはサクラ? はじめからこの戦いは、セイン1人対アンダーワードの3人だったわけか??」


 3人がそろって乾いた笑いを浮かべる。しかし、誰しもが絶対的な力量差を前に諦めてしまうわけではない。特にここは命すらやり直しのきくゲームの世界。普段から、無謀にも勝てない相手に挑み慣れている者たちも、少なからず存在していた。





「ハハッ! 相手にとって不足なし!!」

「ふふふ、疼く、俺の中に封じられし邪神が…、俺に代われと!!」

「えぇ!? やるんですか!??」


 なにやら不可思議なセリフを吐き捨てながら、果敢にもファントムナイツはセインことチーム・パンダに挑んでいく。


「おっ。迷いのない、いい踏み込みだ。これは出し惜しみするのは失礼だな」


 特別、苦戦しているようには見えないが…、嬉々として自身に挑んでくるファントムナイツにセインは賛美をおくる。


「ふっ。ついに宝具を解放したか…」

「神殺しに魔神殺し、対なす聖剣を同時に使いこなすと言うことは…、まさか! 超越存在、ネルエル・グランデか!?」


「えっ? えるね…」


「あ、お構いなく続けてください」


「お、おう…」


 セインが手にしたのは、何の変哲もない[ナイフ]。初期装備として配布されている[ナイフ]と同じもので…、それが左右に1本ずつ、握られていた。


 ルートモブからは様々なアイテムがドロップするが、中でも[ナイフ]はハズレ枠であり、本来は2本以上あっても何の役にもたたないゴミであった。しかし、この中に1人だけ、それをチートレベルで使いこなすバケモノが居た。





「まずいぞ!? よりにもよって、短剣はマズい!!」

「どうする? <二刀流>をだされたらアンダーワードでも刃が立たないぞ!?」

「いっそ、ファントムに加勢するか? いくら強いって言っても、相手の腕は2本。それ以上に攻撃すれば…」


 身を潜める3人に選択が迫られる。


 それもそのはず、当初はセインにアンダーワードの数を減らしてもらい、残ったセインを囲んで倒す算段だったが…、<二刀流>が使える(L&Cの仕様で武器も防御に活用できる)セインは、もはや遠距離攻撃で対処するのは不可能。対して、アンダーワードなら1人ずつ釣りだすことで万に一つの勝機はある。そう、3人は判断した。


「よし! ここは賭けでも攻めるべきだ!!」

「そうだな。戦力の逐次投入は愚策。いや、なにより噛ませ犬みたいでカッコ悪い」

「だな。いくぞ!!」

「「おう!!」」


 3人が射撃体勢に入り、弓を放つその刹那。彼らの意図を追い抜くかのように3本の矢が彼の標的に向かって駆け抜ける。


「「「!!?」」」

「アンダーワードの連中、やっぱり先に陣取っていやがったか!?」


 セインを最優先目標に掲げたのは3人だけでは無かった。そして、アンダーワードの3人は…、彼らよりも判断が早かった。


「いるのは知っている! トリプルA! 今は休戦して、あのバケモノを倒すぞ!!」


 漁夫の利を狙っていたアンダーワードが惜しみなく3人に姿をさらし、セインを穿たんとする。そしてセインは…、当然のように3本の矢に反応し、舞うような鮮やかな動きで、2本の矢を避け、1本を斬り落とす。


「やっと出てきたか。判断の遅さは戦場では致命的だぞ? 観客ギャラリーが待ちくたびれている。ほら、さっさと来いよ!」


 そう、セインは"お遊び"でファントムナイツを生かしていたわけではない。大会の盛り上げ役として、はじめから9対1を狙っていたのだ。


「上等だ!!」

「こうなりゃヤケだ! 突っ込むぞ!!」

「え!? 接近戦??」

「忘れたのか!?」

「え??」

「俺たち、剣士なんだぜ!?」

「「 …、ぷっ」」

「違いないな」

「いくか」

「よし! 突っ込め!!」

「「おう!!」」


 その後の展開は…、酷い乱戦となり、エキシビジョンとしては見るに堪えない泥仕合となった。




 しかし…、そこには確かに、熱い"何か"があった。

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