#237(5週目日曜日・午後・????)
「アバロンは近いな…」
「しかし、終末を彩るのは神々の戦と相場が決まっている。心してかかるぞ」
「えっと…(目標地点は近いけど、交戦が予想されるから注意しろってことかな?)はい!」
それぞれのチームが、そろってマップ中央の小高い丘に集まる。
それは偶然ではなく、戦いを円滑に進めるための配慮であり、マップの規模からもソコでの戦いは必然となっていた。
「いいか。我々の存在は、神々が記した終末の預言書には存在しない。勝機があるとすればそこだ」
「(えっと、優勝候補じゃないからマークがゆるいって事かな?)」
「我々にはアポロンの黄金の弓と、アルテミスの白銀の弓がある。しかし、神々の中には矢避けの加護を持つ者もいると聞く」
「(とりあえず矢は2人に集中させたけど、優勝候補の2チームに矢が通用するとは思えない、かな?)」
「そうだな。やはり神を討つのは神殺しの聖剣と相場が決まっている」
「(弓での攻撃は威嚇程度。狙いは矢を使い果たした後の接近戦。幸い、こちらは長剣を拾っている)」
「ふっ、神殺しとは…、てっきり勇者や魔人共と渡り合った、あとだと思っていたぞ」
「(ランカーと争うのは、もっと後だと思っていた)」
互いが互いをカバーできる陣形で、3人が丘を登り始める。
しかし、そこには…、セオリーを無視するかのように、堂々とした佇まいで闊歩する、1人のPCと鉢合わせになる。
「お、やっとPCに出会った。周辺は一周してきたけど、他のチームは居なかった。どうやら、真っ先にココ(丘)に来て動きがあるまで身を潜めているみたいだぞ」
3人が身をすくめるなか、デフォルト顔のPCが気さくに話かけてくる。しかし、当然、彼は敵であり、10万人規模のオンラインゲームで「5指に入る」とまで言われる実力者だ。
「なるほど、調停神だったか」
「それで、どうするつもりだ? 戦う意思は感じられんが…、立ちはだかると言うなら、加減は出来んぞ?」
「えっと、運営ご苦労様です! このまま戦えばいいんですかって意味だと思います」
セインと呼ばれるPCは、今回、メインの交戦ポイントである丘を無視してステルスプレイに専念するPCを狩るのが役目であった。もちろん、サバイバルゲームにおいて隠者プレイに専念するのは違反ではないのだが…、エリア縮小などの強制措置が用意できなかった手前、かわりに追い込みをかける措置は必要不可欠であった。
「あぁ、ありがとう。好きに撃ってきてくれ」
「はい! よろしくお願いします!!」
すこし妙な空気になってしまったが…、戦いの幕は上がる。
「しかたない。手はず通りに行くぞ! 神殺しの時間だ!!」
「おぉ!」「はい!」
即座に弓持ちが左右から挟み込むように展開する。リーダーは正面で、弓を片手にセインと睨み合う。
そして…、視線の動きが3人の間を行きあい、次の瞬間。
「おっと。なかなかいいタイミングだったな」
3方向から放たれた矢を、当然のようにセインが回避する。不意打ちで背後に回り込む前に仕掛けたとは言え、3方向からの同時攻撃を当然のように回避したのは…、相対する3人だけでなく、近くに潜む者や、中継映像を見る者たちに少なくない衝撃を与えた。
「さすがは神と言ったところか…」
「これは出し惜しみをする余裕はなさそうだな」
「ぐっ!?」
「どうした!?」
「左腕に封印した龍が…、アイツ、創世大戦の生き残りか!?」
「なに、そんなバカな!?」
「えぇっと…」
「あ、気にしないでどうぞ。いつもの儀式みたいなものなので」
「お、おう…」
2人の過剰な緊迫感とは裏腹に、戦いはイマイチ締まらないが…、それでも運営の手前、セインが歩みを進める。
「ふっ、罠と分かっていても飛び込んでくるか。よかろう! その傲慢、我らの糧と、してくれよう!!」
完全に3方向から囲まれ、3人のうち2人が視界外へと消える。初撃を回避したのも神業だったが…、視界外からの攻撃まで避けるとなれば、それは比喩でもなんでもなく「神の御業」であろう。3人は、これで仕留めたいと言う思いとは裏腹に「視界外からの攻撃も避けてしまう彼の伝説を間近で目撃したい」と言う欲求を必死で堪えるばかりであった。
再び、3人の間を視線が行き来して…、ほぼ同時に、3方向から矢が放たれる。
「なるほどな。矢では、神は殺せぬというわけか…」
しかし、セインは当然のように、これを避けてみせる。
「いや、索敵スキルで後ろの連中も正確な位置は把握できている。タイミングさえ読めれば、避けるのはそこまで難しくも無いだろ?」
彼のジョブはスカウトであり、周囲を警戒する手段には事欠かない。つまり、彼の理屈で言えば「見えている矢」であったのだ。しかし、それでも時速100kmを余裕で超える速度で飛来する矢を回避するのは、見えていても困難なのだが…、
彼の中の常識では、見えている矢を避けたり打ち落とす行為もまた、"普通"の範疇であった。
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