#236(5週目日曜日・午後・????)

「よし! いっちょやったるか!!」

「つか、勝てるのコレ?」

「レベル差は仕方ないが、ルール的に勝機はある。ベストを尽くすだけだ。いくぞ!!」

「「おう!!」」


 試合の合図とともに、3人PTがスタート位置から足を踏み出す。


 バトルロイヤルマッチは、最高3人PTが四方の初期位置からスタートする。マップは高低差の激しい高原マップ。点在する茂みと岩場が視界を適度に遮ってくれる。


「それで、何処に陣取るんだ? アイテムも集めなくちゃだろ??」

「基本は高台だよな?」

「装備が不十分な状態でカチあうと博打になるぞ?」


 初期装備は[ナイフ]と[クロスボウ]、そして迷彩柄の革鎧セットのみ。弓は矢が無いので初期状態では使えない。


 道中にはルートモブ(アイテムを拾う魔物)が自然湧きしており、それらに予め運営が矢を始めとする各種装備をルートさせてある。アイテムは、基本の矢にはじまり、頭防具や残弾を気にしないで連射できる(MPは消費する)[マジックシューター]などがある。


「初期装備は短剣だし、初期状態で遭遇したら、最強は間違いなくセインだよな?」

「そうかもだけど、矢が拾えない事なんて想定しても仕方ないだろ?」

「やはり一番危険なのはバトロワゲーに慣れているアンダーワードの連中だろ?」

「いや、大穴で中二病が活躍するかもよ? 実力はともかく、仲いいし、なにより見ていて面白い」

「いや、でも…、ないな」

「ないか?」

「ないな」

「ないか…」


 参加者は、

①、パンダ(PT名):開発監修者のセイン。ハンデとして単独PT。


②、アンダーワード:開発監修者にもかかわらずハンデ無しの3人PT。優勝候補。


③、ファントムナイツ:抽選参加枠。実力はともかく独特の言い回しが有名。


④、AAA:抽選参加枠。知名度の低いPTだがバトルロイヤルゲームの基礎知識は持っている。


「よし、矢をGETしたぞ!」

「近接戦最強は間違いなくセインだ。とにかく矢だけは切らすなよ」

「[ナイフ]だけじゃ、3対1どころか、9対1でも勝てないバケモノだからな」

「バトロワの基本はスニーキングと漁夫の利。モブを倒すと音がするから、装備がある程度集まったら、欲をかかずに隠れるのも手だぞ」


 勝利条件は「最後まで生き残こること」。積極的に戦闘を仕掛けて他3チームを倒してもいいし、潜んで他チームが潰し合うのを傍観してもいい。


「これ、俺たちの視界が会場でも見られてるんだよな?」

「赤い録画中のアイコンが出ていればそうだな。間違って録画を止めるなよ?」

「わかってるって。でも、なんか見られているみたいでムズムズする」

「実際、見られているんだけどな」


 試合中継は、マップに潜んだ運営PCの目だけでなく…、参加者の視点まで見られる作りになっている。当然、その映像をさらに参加者が中継することで、他のPCの位置を特定できてしまうが…、そこは各参加者の視界データをオープンにすることで不正を抑制している。


 つまり大会は、視界映像の共有ソフトを使用することが前提であり、その状態で中継映像を盗み見すれば、中継映像にも中継画面が移り込んでしまうわけだ。もちろん、なかには第三者と共謀して何らかの暗号で位置を伝えたりするものもあらわれるかもしれない。その場合は、後日ログをもとに判断する事となった。


「あそこの草むらとか、隠れるのに良さそうじゃないか?」

「家とか立て籠もる場所が無いのは不便だよな…」

「アイテム集めを、どこまで粘るか悩むな」

「つか、もう隠れないか? マジで。アンダーワードの連中に遭遇するのは何としてでも避けたい」

「そうだな、取りあえず隠れて作戦を考えよう」


 小高い丘の中腹あたりの茂みに身を潜める3人。マップはそれほど広くは無いが、高低差がある事もあり今のところは他のPTは見受けられない。欲をだすなら、もっと高い位置に陣取るべきなのだが…、3人は積極的な交戦をさけ、あえて中途半端な位置に陣取る選択を選んだ。


「理想は、セインがアンダーを1~2人削って、残ったPCを俺たちで十字砲火して倒すパターンだよな?」

「ちょっとまて」

「「??」」

「いや、十字砲火するなら、同じ場所に潜んでいたらダメじゃね?」

「「あぁ~」」


 バトルロイヤルゲームは奥深い。一見簡単で、運任せに思える部分が多いが…、運でなんとかなるのは途中まで。最後まで勝ち残るには高度な戦略と高い技術が必要とされる。それは一種のギャンブルのような側面もあり、ハマってしまう者は少なくない。


「え? ちょ、どうする、今から移動するか??」

「いや、他に隠れるところなんて、ねぇぞ!?」

「つか、十字砲火ってなに?」

「「いまさら!?」」


 そんなやり取りをしていると…、少し離れた林から、妙に互いの間隔をおいたPTがやってくる。


「アイツラ、もしかしてファントムナイツか?」

「いつもの黒ずくめじゃないんだな? まぁ当たり前か」

「とりあえず、ありがたく囮にさせてもらおう」


 公平を期すると同時に迷い込んだ無関係なPCを見分けるために衣装を統一したが…、そのせいでPTや個人を見分けるのが困難になってしまったのは改善点と言えるだろう。


「なるほど、あぁやって広がって移動すれば、1人やられても他のメンバーでカバーできるわけか」

「なんか動画で見たな」

「やっぱり、(丘の)上をとりに来たんだろうな…」


「 …。…。」

「 …!…!?」

「 …。…。」


「くそ、当たり前だけど何言ってるか聞き取れねぇ!」

「まぁ、聞き取れたとしても、理解できるとは思えないけどな」

「考えるな、感じろ」

「「お、おう…」」




 序盤のアイテム回収作業も終わり、ついに後半の殺し合いが…、はじまろうとしていた。

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