#231(5週目土曜日・夜・????)

「なるほど、1人ではなかったか…」


「NPCを人の数に数えるならな」


 一団が屋根の上を見上げると、顔を出していた"何か"が慌てて頭を引っ込める。


 そこに居たのは半自動で動くNPCの傭兵。傭兵は各種ギルドなどで有償でレンタルできるNPCアバターだ。しかし、あくまでゲームの花形はプレイヤーであり、傭兵の性能は低めに設定されている。傭兵はPTの補強だけでなく、露店の管理や非ログイン時のレベリングなど、様々な用途で使えるが…、基本的には弱く(バカ)複雑な動作(判断)は出来ない割に合わないシステムとされている。


「アニスだけってことは無いよな?」

「金は持ってそうだからな。後衛系は全て借りていても不思議じゃない」

「いや、そんなに借りても指示がおいつかないだろ?」


 赤の一団が騒めく。確かに傭兵の戦力は人が操作するソレには及ばないが、それでも無視していいものでは無い。とくに傭兵はレンタルしたPCのレベルや転生回数に依存してレベルが決まる。セインと言うPCは間違いなく高レベルPCであり、借りた傭兵は無視できないステータスを有していると考えられる。


 加えて、回復魔法を使った事から推測するに、そこに居たのはヒーラー型傭兵の"アニス"である可能性が高い。アニスは純粋なヒーラーであり、回復魔法やステータス治療に特化している。つまり、アニスを放置すれば、削りダメージでセインを落とすことは不可能になる。


「おちつけ! 全く攻めてこないことから察するに、設定はノンアクティブの待機。行動条件は、指示プラス条件反応のはず。条件さえ見破れば、あとはカモだ!!」


 いくら弱いとは言え、自由にレンタルできるなら資金にものを言わせて大量投入する手段も存在する。しかし、効率は著しく悪く、他にもハイレベルの戦いでは使えない理由は存在する。

①、根本的に複雑な判断が出来ない。あくまでNPCであり、条件にともなって動いているだけ。アクティブの設定や、スキルの発動条件を設定する機能はあるが、臨機応変な行動は期待できない。一応、手動で指示も出せるが、操作しながら戦うのは困難。


②、ステータスやレベルが低い。(転生回数やギルドの貢献度でも変化するが)雇用したPCより20レベルも低いユニットしか貸してもらえない他、PCと違って覚えているスキル(やれること)が限定されている。つまり、商人を借りたら商人以外の用途(スキルやステータス的な意味で)では使えない。


③、経験値が吸われる。NPCと言えどもアバターであり、レベルアップや経験値分配がある。逆に放置して経験値を吸い上げる用途(公式が許可している)でも使えるが、まず間違いなく経験値効率は低下する。


④、対人戦で圧倒的に弱い。複雑な判断が出来ないので怪しいPCを警戒するなどの行為がおこなえず、魔物と同じで急所をかばうなどの動作も殆どないので1対1なら間違いなく負ける。




「クレナイ! ここは俺にやらせてくれ!!」

「いや、相手は強い。ここは確実に削り…」

「だからこそだ!!」


 強い口調で名乗り出たのはサポートPTを指揮していた魔法使いの"ザハール"。彼はセインの予想通り、ヘアーズの新たな勇者候補であった。しかし、本来であれば大先輩であるはずのクレナイにも強気な態度で意見する。実のところ2人はリアルの知り合いであり…、悪い言い方をすればコネを使って贔屓ひいきしてもらっている状況であった。


「 …わかった。指示にしたがおう」


 しぶしぶ指揮権を譲るクレナイ。実際のところ、彼も目の前の強敵に攻めあぐねており…、心のどこかで思い切った判断、あるいはその責任をとってくれる存在を求めていた。


「陣形をかえるぞ! …。…。」


 ザハールの提案した陣形は、前衛がスカウト2人で回避に専念する。後衛は魔法使いであるザハールとヒーラー、そしてその護衛にクレナイと商人を当てる。動きが遅く、魔法を交えた高速戦闘ではフレンドリーファイヤー(FF)の危険があるので、重武器2人は別行動で屋根の上のNPCを対処してもらう。


 実のところ、ザハールはフラストレーションを溜めこんでいた。彼は6時代は別のゲームで上位ランカーに名を連ねていた実力者だ。しかし、L&Cは魔法まで"FFあり"で好き勝手に魔法を放つことは出来ない。PTメンバーとの連携は不可欠であり、ある程度動ける前衛や属性軽減(装備に制限が加わる)が求められる。彼は決して下手ではない。むしろ上手いのだが…、その半端な上手さが逆に災いした。なれないL&Cの仕様にもなんとか対応して、(コネがあるとはいえ)ヘアーズでも勇者候補の1人として選抜されるまでに成り上がった。そう、FFありの面倒なシステムに、不満を抱えながら…。





 我慢できずに陣形を変えてきたか…。


 それまで周囲警戒や後衛の護衛に徹していたスカウトを前に出し、重戦士を完全に下げてしまった。どうみても魔法主体の戦法であり、焦って俺を落としに来てくれた合図だ。


「なんて強さだ」

「2対1でも押し返されるなんて、自信無くすぜ(まぁ半分はフリだけど)」


「そうか。実際に弱いから、仕方ないな」


「ざっけんな!!」

「絶対キルする!!」


 軽口に付き合うつもりはない。なかには心理戦で相手のミスを誘う小ズルい輩もいるが…、そう言うやつはストレートに心を折に行くことにしている。


「熱くなりすぎだ! 下がれ!!」

「「おう!!」」


「あまい!!」


「「「なっ!?」」」


 完璧なタイミングで放たれた<ファイヤーボム>だが、放たれることが分かれば対処は容易。L&Cの魔法は大きく分けると、高火力の詠唱魔法と即射系の無詠唱魔法に分けられるが…、どちらもスキルエフェクト(色や演出)で魔法の種類が特定できる。ボム系なら着弾位置を起点に一定範囲にダメージ判定が発生するので<石投げ>でもいいので投擲スキルで撃ち落とせば無効化できる。


「怯むな! 足を止めれば死ぬぞ!!」


「おそい!!」


 誘爆した<ファイヤーボム>に気をとられた隙を、キッチリ咎める。キルこそ逃したもののスカウト1人の腕は勉強料として貰い受けた。


「まだだ!!」


「っふ!」


 続けて、商人を盾にエフェクトを隠して…、貫通系魔法の<ファイヤーランス>が放たれる。コイツは射線上にアタリ判定が無ければダメージは全く通らない。当然のように紙一重で回避する。


「クソ! しっかり詠唱はカバーしたはずなのに! なんで分かる!!」

「焦るな! NPCだ!!」


 やはりクレナイの方が経験というか、"場数"の差が見てとれる。経験から瞬時に不可解な現象に"解答"を見出す。




 できればクレナイと戦いたいのだが…、時間にも限りがある。今回はボーナスゲームと言う事で、ありがたくキルさせてもらおう…。

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