#229(5週目土曜日・夜・????)

「道が開けるぞ!」

「魔物はいないみたいだ! 本陣は近い、注意して…、!? 何かくるぞ!!」

「「!!?」」


 バリケードを破壊した次の瞬間、予想外の攻撃が上空から突然降りそそぐ。


「さすが赤。上からの奇襲にも対応してくるか…」


「チッ! ヒーラーを1人持っていっておいて、よく言うぜ」


 奇襲は、バリケードを破壊して、その先の安全を確認した次の瞬間。意識の隙をつく完璧なタイミングであったが…、流石はトッププレイヤーPTと言うべきか、スカウトを2人にすることで隙を最小限にしていた。しかしそれでも、ヒーラーを1人失ってしまった。意表をつく絶妙のタイミングもそうだが、立体的な攻撃に加え、手にした武器の高い攻撃力、そして瞬時に倒せる相手を見抜く高い判断力、この3つが完璧だったからであり、それでも倒せたのは1人が限界であった。


「待て! アンタがセインだな? 話がある!!」


 戦いの幕があけたと思われたにもかかわらず、赤の一団のリーダー、両手剣使いのクレナイが皆を制止する。仕掛けたPC、セインもコレに応じる。


「単に指揮官ボスを狙いに来たわけじゃないようだな」


「そうだな。まず、"流石"と褒めておこう。まさか奇襲で1人落とされるとは」


「 ………。」


 冷めた態度で応えるセイン。話は大人しく聞いているようだが…、関心がないのか、それとも圧倒的に不利な状況(1人倒したとは言え1対8)の打開策を考えるのに必死なのか、見た目では判断がつかない。


「わかっていると思うが、いくら魔人の試験をクリアした実力者でも、俺たち(1人かけてしまったが)を相手に勝利するのは不可能だ。お前だってソレは分かっているだろ?」


「わからんな。勝機があるから挑んでいる」


「「なっ!?」」

「言わせておけば!!」

「おちつけ。あくまで可能性の話だ」


 セインの強気な発言に沸き立つメンバーをクレナイがいさめる。


「お前たちの話は大体、予想がついている」


「ほう、参考までに聞いてもいいか?」


「どうせ、むこう(王国軍防衛側)の村をくれてやるって言うんだろ?」


「「 ………。」」


 クレナイも含め、沈黙で応える。


 赤の一団を含めたヘアーズの目的は、基本的には勇者同盟と同じ「最速攻略」だ。違いは、悲願が達成された時に舞台に立っている役者であろう。全体の進行度を考えれば、ヘアーズも魔人側に勝ってほしいのだが…、それとは別に、勇者同盟を出し抜くチャンスを狙っている。そのチャンスとして白羽の矢がたったのが今回のイベントであり…、


 そのシナリオは「クレナイが村を奪還するものの、防衛側の村が落とされてしまう」と言うものだった。これならクレナイが大きくL値を稼ぐことになるし、村も1つ魔人軍に奪われるのでC√の進行度も確保できる。このためにクレナイは幾つか交渉材料カードを用意してきており、他のヘアーズメンバーを呼んでいないのも(八百長まがいなため)この交渉のためだ。


「ブラフかどうかは判断がつかないが…、つまりはそう言うことだ。コチラには"むこうの村の正確な地図"と"邪魔なNPCをどける露払い"を用意した」


「なるほど。悪くない策だが…、1つ、大きな問題を忘れているな」


「 …参考までに、聞かせてもらおう」


「なに、簡単な事さ。こっち(魔人防衛側)の村をお前たちに譲る旨味が、俺に無い」


「ふっ、それはつまり、俺たち(赤の一団)に勝つ自信があるってことか?」

「こいつ、言わせておけば調子にのりやがって! 俺たちが誰だか、分かっているのか?」

「かまわない、キルしちまおうぜ!?」

「追い込めば、減らず口も少しはなおるだろう?」


 自信満々に応えるセインの態度に一抹の不安は残るものの…、それでも彼らはトッププレイヤーであり(いくら強いと言っても)ソロ相手に負けるとは思えない。もちろん、何かしらの策はあるのだろうが、それを加味しても負けるようなら"勇者"は目指していられない。


「誰だ?」


「「!??」」


クレナイおまえ以外の勇者候補だよ。サポートPTのリーダーをやらせているんだろ?」


「「!!!!」」


 しかし、赤の一団は相手が悪かった。対するセインは、ヘアーズが狙っている目標であるところの「新しい勇者をヘアーズから排出する」目標を見抜き、その候補(他のチームリーダー)が赤の一団(テクノカット)に偽装して参加していることまで見抜いていた。


「別に、驚くことじゃないだろ? 適切に情報収集をおこない、得られたピースを組み合わせていけば、子供にだって解ける簡単な謎解きになる」


 さも簡単なことのように吐き捨てるセインだが、前提条件を満たすのが1番困難であり、それだけの人脈や、そう言った事を疎かにしない思慮深いPCだと言うことがうかがい知れる。


 赤の一団もセインと呼ばれるPCを侮っていたわけではないが…、それまでの認識は「ただ単に強いPC」でしかなかった。しかし、実際に話をしてみると大きく認識が変わる。


 「特定の条件下で絶対的に強いPC」と言うのは、実はそれほど珍しいわけではない。ランキング上位になれば自分の得意分野は、そこまで極めているのが当たり前だからだ。しかし、トッププレイヤーである勇者や魔王であっても、それがゲームである以上、相性や戦略などがあり、いくら何かの武器や戦闘スタイルを極めてもソレだけでは絶対的な勝利、「常勝」は成しえない。しかし、それはあくまで単純な盤面での駆け引きに焦点を絞った場合にすぎない。「仕方のない負け」は存在するが、それ自体を回避する方法はある。




 目の前に立ちはだかる強気なソロPCの本当の恐ろしさは「剣の腕」ではない。元勇者のクレナイは、そう思うのであった。

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