#228(5週目土曜日・夜・スバル)

「ははは、やっぱり手は貸さないんだよね。さすがセン…、じゃなかった師匠」


 外部ツールでコノハたちの戦いを見ながら、ボクは(王国軍)防衛側の村を散策する。


 先輩はやはり、考え方が戦う者のソレだ。厳しさの中に優しさがあり、戦う者の矜持と信念がある。戦局的に見れば共闘して全員で赤い人たちを対処するべきなんだろうけど…、世の中にはボクみたいに徒党ととうを組んでの勝利に納得できない者もいる。もちろん、それを悪い事だとは言わないし、状況にもよると思うけど…、ボクなら実力を出し切っての負けは"負け"として受け入れたい。それは自分に対してもそうだし、相手に対しても勝利と称賛を捧げるべきだと思う。


 戦いはやがて、3人の検討虚しく、露払いの2人に完敗する結果に終わった。


「ん~、チームとしては悪くないんだけど…、レベルや装備の差かな?」


 戦いは最終的には一方的なものに終わったが…、2人の戦闘技能が特別に高かったようには見えない。たぶんだが、こういった事態のために探索や対人戦闘に特化したPCなんだろう。頑張りしだいでは3人も、遠くない将来、簡単にあの2人を超えられると思う。


 そう言う意味では、この敗北は3人にとっていい経験になると思う。もちろん、これで心が折れてしまう可能性もあるだろうけど…、3人は本当に上手い人の立ち回り、それこそ1対3でも敵わない強者を知っている。それに比べたら、あの2人は「武器を手にして気が強くなっている不良」程度。そう言う部分に、ステップアップの糸口を見いだせれば…。


「おっとと、ここは…、通れないかな?」


 屋根の上の道はここで終わり。流石にココからは開けた(戦闘を回避できない)場所を通ることになりそうだ。


 ミニマップの殆どは黒く染まっており、大雑把な建物の位置関係しか分からない状態。攻略が進めば、あるていど道や障害物がマップに表示されるそうだが…、魔人軍の侵攻は、ほとんど最初のエリアで防げているので更新が殆どない。それでも「自分たちが守っている自軍の陣地なんだからマップぐらい見せてくれてもいいような気もする」が、そこはゲーム的に部外者扱いらしく(ボスがいる)本陣なども含めて初期状態では非公開のようだ。


「おい! そこのPC、止まれ!!」

「ん? ボクですか??」


 NPCかと思ったら…、人が操作するPC(3人)に声をかけられた。


 本陣は侵入不可エリアであり、システム的に防衛側のPCはどう頑張っても入れない。何でもありのL&Cにしてみれば珍しい縛りだが、やはりゲーム的にコレをOKにしてしまうとイベント自体が機能しなくなるためだろう。


 つまり(NPCの見張りもいるので)一般PCが見張る意味は無いのだが…、念のため? あるいは打ち漏らした魔物対策、もしくは防衛が順調すぎて暇だったとかか…。


「知っていると思うが、見張りのNPCを倒しても本陣に入る門(システム的に守られたゲート)は開かない。どうせ見物だろうけど、念のために近づくなら攻撃させてもらう」


 困ったな…、別にただ単に戦うだけなら歓迎なんだけど、こういうシガラミが絡んでいそうな戦闘は遠慮したい。上手い事、回避できないものだろうか。


「そんな事を言って…、NPCでも狩るつもりですか?」

「念のために守っているだけだ。さっさと立ち去れ!!」

「もしかして、同盟の人ですか?」

「ん? いや、そういうのではないんだが…」


 口ごもる3人。本当にNPC狩り目的なら、ボクが来る前に仕掛けているだろう。しかし、何かがあるのは確かなようだ。


「いや、ボクも似たような理由で来たから、門前払いじゃ示しがつかないじゃないですか? (装備に白い縁取りが無いので)自警団の人たちでもなさそうだし、せめて、所属を明らかにしてください」

「そ、それは…」


 口ごもる3人。下っ端っぽいけど、勢力的に何かありそうなのも確か。ここは先輩にお伺いを立てるべきだろう。


「すみません。ちょっと仲間に連絡をとりますから…」


 そう言って、その場から少し離れる。別に、外部ツールを使った通信を盗み聞ぎされる心配は無いのだが…、ドサクサに紛れてその場を離れたかったと言うか、ボクだって所属は言えなかったのを忘れていた。





『 …なるほどな。不自然だと思っていたが、そう言うことだったのか』

「え? 何かわかったんですか??」


 相変わらず、先輩は洞察力というか、視野の広さに驚かされる。これだけのヒントで、状況を見抜いてしまったようだ。もちろん、立場が違うので持っているヒントもボクとは違うのは当然だけど、それだって先輩が積み上げてきたもののなせる業。指揮官としての才能に、武人としての才能、あとは優しいのに冷徹でゾクゾクする眼差し…。


 あぁ、どうしよう。ちょっとドキドキしてきちゃった。


『とりあえず、そいつらは放置して近くで待機していてくれ。場合によっては戦闘もあり得る』

「え? あ、はい!」

『あぁ、そうだ』

「はい?」

『いや、今、鞭を使って移動しているんだが…、けっこう高低差のある場所をショートカットできて便利なんだ。できる事は知っていたから使ってみたけど、思っていたよりも便利で…、おっと、次のエモノだ。悪いけど、そんな感じで頼む!』

「はっ、はひ!?」

『??』


 ところで、紫になるまでお尻を叩かれるのって、気持ちいいのだろうか?




 そんな事を考えていたせいでウワの空になってしまった。最近、ちょっとだけ、欲張りになっている悪い子なボクに罪悪感を覚えながらも…、イベントは大詰めを迎えようとしていた。

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