#226(5週目土曜日・夜・????)

 王国軍側侵入部隊スポーンエリア。


「よし! マップ更新が来たぞ!!」

「それじゃあセオリー通りにザコを袋小路に集める。ルートは…。…。」


 楽勝だと思われていた初回侵攻イベントも、蓋を開けてみれば相次ぐ妨害に苦戦をしいられていた。しかし…、それでもやはり初回イベントであるため難易度は低めに設定されている。


 そんなわけで、イベントも折り返しを迎えたところで2つの変化がおこった。

①、村周辺に設置されていた防壁が消滅して殆どダメージを受けずに村の中へ侵入できるようになった。


②、村の迷路のマップ情報の更新。公開は7割にとどまっているが、それでも最短ルートを予測するには充分な情報量であり…、それと同時に不要なエリアを探索する必要がなくなり、その場に出現したNPCも無視できるようになる。


 そして…。


「おい、挑戦しない者は道をあけてくれ!」

「俺たちが挑戦する。助力は無用! 近づくものはPKと見なす!!」


「おい! あいつらヘアーズの"テクノカット"じゃねぇか!?」

「まじか!? 勇者来た! これで勝つる!!」


 赤を基調とした装備の一団があらわれ、観衆は大きく沸き立つ。彼らは最大手ギルド「ヘアーズ」のトップチーム、元勇者である「血陣の断罪者・クレナイ」が所属するPTと、その援助PTだ。


 クレナイが所属するメインPTは4人構成。両手剣使いのクレナイに加えて、重斧と重槌装備のヘビーアタッカーが2人、ヒーラーが1人の攻撃一辺倒のPT。対して援助PTは、スカウト2人、魔法使い1人、ヒーラー1人、加えてアイテム運搬役の商人が1人のサポートに特化した構成となっている。


「まさに勇者出勤! PKもこれで終わったな」

「美味しいとこもっていくよな。このまま、ノンストップでボス倒しちまうぞ」

「勝ったな! 風呂入ってくる」

「フラグやめ~や」


 観衆が、遅れて登場した勇者に思い思いの感想をクチにする。勇者と言っても、"元"勇者であり、7世代では他のアバターと同じ地位ではあるが…、根本的なプレイヤースキルと組織力には雲泥の差がある。単独ならまだしも、PTを組んでいる時の彼らには、いかに悪徳トップのEDと言えどもかなうものではない。


 当然のように観衆が二手に分かれ、赤の一団に道をあける。そこには、同じく後半になってマップが更新されるのを待っていた元ランカーも混じっていた。しかし、誰も彼らの道を遮ろうとはしない。それどころか、はり合って我先にとスタートをきろうとする者すら居なかった。そう、彼らの前では…、皆が等しく脇役であった。





「お姉ちゃんたち」

「「?」」

「赤の勇者が来たって」

「え? 勇者って今回不参加じゃなかったの??」

「赤は同盟に所属していないから、無視して出て来たみたい」


 基本的に勇者は「善悪よりも攻略を優先するもの」ではあるが、それでも一枚岩と言うわけではない。勇者の席は7つと決まっており、最大手ギルドのヘッツが抱えているのはクレナイの1枠のみ。ヘッツの規模と実力を加味すれば1枠と言うのは少ない数だ。少なくとも…、彼らはそう、思っている。


「その人って強いんだよね?」

「それは…」

「まぁ、PT単位の強さはトップ10には入るだろうね。最低でも」

「もしかして…」

「ふふふっ、もちろん! 挑戦しにいくよね!?」

「「はぁ~~~」」


 赤毛のPCのセリフが、あまりにも予想通りだったため、仲間の2人がそろって深いため息をつく。


「いや、流石にダメだと思うけど…」

「え~、いいじゃん別に」

「ちょっとまって、お兄さんに確認するから」


 そういって1人が外部ツールでアドバイザーに指示を仰ぐ。


「つか、毎回思うけど、フツーにセインさんに連絡とるよね、コノハ」

「焼かない焼かない。アニキって何だかんだ言って面倒見いいからね~」

「そういうSKも、あっと言う間に馴染んでるよね?」

「そうかな~。もしかしてアタシ、妹キャラ?」

「いや、違うと思うけど…、セインさんからしたら、そうなのかな? でも…。…!?」


「2人とも、OKだってさ」

「よし!」

「えぇ…」

「それで、必要なら、何人か腕の立つ人を呼んでくれるみたいだけど…、どうする?」

「「それはもちろん…、遠慮します!!」」

「お姉ちゃんたち、そう言うところ、息ピッタリだよね」




 あきらかな格上の一団の登場に、誰もが静かに道を譲るなか…、嬉々として彼らに挑まんとする者がいた。果たして、彼女たちの結末は…。

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