#225(5週目土曜日・夜・????)
「 …! !!」
「くそっ! ザコがこんなに強いなんて聞いてねえぞ!!」
「頑張れ! 強いモブはリポップ間隔が長い! 1回倒せばあとはラクになる!!」
王国軍側侵入部隊最前線。迷路状に変化した魔人の村で、いち早く突撃した中堅PCたちが初期リスポーンしたNPCの対処に苦戦していた。
迷路と言っても、それほど複雑ではないのだが…、それでも最前線は多くの魔物や敵対兵士が巡廻しており、その対処に時間をとられる。事前情報では、初回イベントであることやC√の進行度が伸び悩んでいる事から難易度は「非常に低い」と予想されていたが…、直近でC√の進行度が爆発的に増加した事もあり、装備やステータスが整いきっていない中堅PCには厳しい状況が続いていた。
「ちくしょう! ランカーPTはどうした!?」
「どうせ、マップがある程度オープンになるまで高みの見物なんだろ!!」
「焦っても仕方ない。陣形を整えろ! 1体ずつ確実に減らしていこう!!」
「「了解!!」」
本来ならば魔人側にも多くのPCが参加しているはずだが…、今回に限ってはサービス開始から間もないこともあり、魔人側で参加したPCはたったの1人。そのため、ゲームとしてシステム的なバランス調整が入り、敵対NPCの個体数は非常に多くなっている。加えて、NPCは人が操作するPCと違って、序盤の混戦にも積極的に参加する。
一応、デスペナルティーの軽減はあるので普段よりは気楽に挑戦できるのだが…、それでも同士討ちやアバターにまで当たり判定が存在するL&Cの仕様では、上位プレイヤーでも混戦状態での事故死の危険はぬぐいきれない。よって、なれたPCになればなるほど、イベントではスロースタートを決めこむ傾向が強い。この現象を俗に「勇者出勤」と呼ぶ。
「おい! 回復をくれ! HPがやばい!!」
「こっちもだ! 早く…って! 不味い! きしゅ!?」
「しまっ!?」
陣形を整え、前方のNPCの対処に専念したところを…、突然背後に出現した"新手"にPTは一瞬で壊滅する。
PTでの戦闘は、基本的に前衛が打たれ弱い後衛職(キャスターやヒーラーなど)を取り囲むか、壁やクリアリングの済んだ安全地帯を背にして戦う。今回のような前進しながら戦う局面では、より後者の陣形の割合が高くなる。そうなれば、必然的に後方への警戒は甘くなる。それでもある程度PTプレイの経験があれば、ここまで一瞬で崩壊する事はありえないのだが…、今回に限っては相手が悪すぎた。
「やっぱり、鞭は市街地戦でこそ真価を発揮するな…」
デフォルト顔のPCが、そんな言葉を残して"上へ"去っていく。
"村"は迷路化している。つまり、通れる場所は道だけではないのだ。屋根の上
*
王国軍側侵入部隊スポーンエリア。
「くそ! PKされた!!」
「NPCに注意をひきつけて、その隙に…、だったな。姿を見ることも出来ないとは、相当な手練れだぞ」
そこでは、早々に死亡したPCが集まり、1つのグループを形成していた。
「そっちもヤラれたのか!?」
「どうやら、結構な数のPKが潜んでいるみたいだ。セインだっけ? 相手は1人だけじゃない。もしかしたら大手の悪徳ギルドが裏で手を引いているのかも」
相手の姿も見られないまま一方的にキルされる者もいれば、自分から仕掛けて返り討ちにあう者、相手も男性PCだったり女性PCだったりと統一性が存在しない。まず間違いなく複数犯の犯行であり、L√PC主体だと思われていたイベントにも、多くのC√PCが関わっている事が判断できる。
「なぁ、見間違いかもしれないんだけど…、L√ランカーのにゃんころ仮面さんらしき人にキルされたんだけど」
「バカ、それ、本人だよ」
「にゃんころ仮面さんは自警団と喧嘩してC√に転向しているんだよ。セインってPCも同じ。つか、他にも大勢いるらしいぞ? 自警団に追い出されてC√になった人」
「いや、なんでそうなるんだよ? 多少強引なところはあるけど、L√PCなら大して害はないだろ??」
「その、多少ってのが問題なんだよ。一言でいえば、独善的? いや、むしろ独裁者って言うか…」
相手が格上と言う事もあり、リスポーンしたPCたちの熱は思った以上に冷めていた。情報収集を兼ねた雑談に花が咲き、ついつい時間が過ぎていく。
「そう言えば、(王国軍側)防衛の方はどうなっているんだ?」
「あっちはランカーの人や元勇者も何人か来ているから安定しているみたい」
「それでも集まりは悪いらしいけどな」
「イベントの隙に、商人狩りをしたり、ボスやレアアイテムを狙っているベテランは多そうだよな」
「特別なアイテムは殆ど出ないからな。目先のL値よりも、装備やレベルを優先させるのも"あり"ってことだ」
L&Cのイベントは基本的に「不参加でも攻略に大きな支障はでない」ような構成になっている。例えば「イベント限定の強力装備を毎回集めて装備更新していかないと…」とか「参加することで通常プレイではとても集められないほどの経験値やアイテムが手に入る」と言ったことは無い。あくまで
実際のところ、この手のイベントは確かに√値を稼ぐ場所として重宝されているが…、自身で安定して√値を稼ぐ手段を持っている上位ランカーの参加率は低い。「効率のいい入手経路(難易度は別にして)を確立しているなら、あえて参加する必要はない」その程度である。
もちろん、全てのイベントを無視して上位を目指すのは不可能だが、ある程度は参加しなくとも(仕事などの理由で参加できない人も)自分のペースで楽しめる。そんな設計になっている。
こうして、侵攻イベントは…、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます